COLUMN
FOOD 07 Jun 2018

歓喜と悶絶のカウンター 東京・亀戸「メゼババ」シェフ高山大【イタリアに焦がれて Vol.1】|イタリア 料理

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東京・亀戸のグルメが通うカウンターイタリアンレストラン

わずか10席のL字型カウンターは、今日も歓喜と熱狂に満ち満ちている。
ここにしかない質実剛健なイタリア料理は評判に評判を呼び、東京中の食道楽にとって垂涎のカウンターとなり、訪れる客を悶絶させ続けている。

東京・亀戸「メゼババ」。オーナーシェフの高山大はイタリアから帰国した後、西麻布などのイタリア料理店で腕をふるった。その後、2013年に「メゼババ」を開店させた。

キッチンで料理をするシェフの高山大

高山がイタリアに渡ったのは2000年頃。「頃」というのは「正確な時期をはっきり覚えていない」からだ。ともあれ20代半ばから7年かけて、北部のフリウリや中部のトスカーナを中心にイタリアを流れながら現地の料理を体得していった。

「向こうに行ったばかりの頃は、それほど意識の高いイタリア好きというわけでもなかったんです。もちろんイタリアは好きでしたけど、現地の文化や素材についてそれほど深く考えていなかった。でも行ってみたら、僕の料理は自分と皿の上の関係にばかり目が向いていたことに気づかされました。イタリアで出会ったシェフはまったく違う姿勢で料理に向き合っていたんです」

高山がイタリアで目の当たりにしたのは「客に喜んでもらう」ことだけに全力を注ぐシェフの姿。「食べ手の喜び」は料理人にとって大きなエネルギー源だが、初期衝動を保ち続けるのは難しい。
ところがイタリアで高山が会ったベテランシェフには、料理人にとっての初期衝動を抱えながら数十年間、鍋を混ぜ続けたような芯の強さが感じられた。

おばあちゃんシェフに教わったイタリア料理の「古典」が原点

イタリアに渡る前の高山は、日々の仕事に追われるうち、無意識に「効率を考えた仕事をするようになってしまっていた」という。一方、イタリアで会ったシェフは、効率という言葉など頭にないかのように、昔ながらの道具とやり方で調理をしていた。決して効率はよくない。だが「こうするのがおいしいのよ」という言葉と料理には圧倒的な説得力があった。

カウンターから客に料理を振る舞うシェフの高山大

「僕、老人ばっかり狙ってたんですよ(笑)。同じ『トスカーナ風』という名前の料理だとしたら、若いシェフよりも60代、70代のおばあちゃんに聞いたほうが原型に近い味を教えてもらえる。お母さんやおばあちゃんの料理をごちそうになったり、泊めてもらったり。より本物に近い『イタリア』を知りたかったんです」

壁に飾られた古典レシピ

トスカーナを離れるとき、恩師の「すばらしいおばあちゃんシェフ」のレンツァが渡してくれた「キジのサルーミ」の古典レシピ。曰く「アジ(※haji)が知りたがってたけど、教えてあげられなかったから」。あたたかい。※イタリアでは「h」は発音しない。「hajime」から「me」を取ったあだ名hajiと呼ばれていた。

滞在中、自らの「イタリア化」に手をつけた。食はその国の背景にある歴史や気質、文化と密接に関わっている。イタリア人の気質を知り、歴史や文化を知り、味を知ろうとした。
同じ名前のついたメニューでも、時代や地域によってレシピは少しずつ変わっていく。原典に近いほど純度は高い。高山は現地でも『古典』と言われるレシピを通じて、自身の「イタリア化」を進めていった。

「当時は道具や食べ物、考え方まで含めて日本っぽいものを、強制的に遠ざけていました。料理や食材、人々の気質--。まったく違う国から来た僕がイタリア料理を身につけようとするなら、文化ごと咀しゃくして消化する必要がある。日本的な考え方を残したままでは本物のイタリアにはたどり着けない。そう思ったんです」

自身の「イタリア化」にあたり気になったのは、イタリア人の外食事情だった。
当時、イタリアの飲食店は、そのほとんどがイタリア料理店だった。洋食や中華料理の店が、和食店に引けを取らないほど軒を連ねる東京の飲食店事情とは大きく異なる。高山の目には「イタリア人はイタリア料理店にばかり行き」、レストランでも「家庭の食卓と同じようなメニューを注文する」ように見えた。

「ところが聞いてみると、『同じメニューでも家と店では違う』というんです。
イタリア人は、家では味わえない体験を楽しみにレストランに出かけていた。例えば生ハムひとつとっても、街場で売っている家庭用とはモノが違うし、店では専門の職人の手による切りたてが提供される。
そんな『仕事』が詰まった一切れの生ハムと一杯のワインを口にしながら、仕事仲間や友達と「buono!!」と盛り上がるんです」

施された職人の仕事や素材の違いを土台にした客席の興奮。それこそがイタリアの外食の醍醐味だという。実際、現在のメゼババでも「なんでもないトマトのスパゲティ」(高山)を客が口にした瞬間、店内が強烈な歓喜と熱狂であふれる。

メゼババのトマトのスパゲティ

そうした興奮をワインとともに仲間たちと共有する。亀戸で毎夜繰り広げられる光景はイタリアそのものなのだ。

なぜメゼババのカウンターにはイタリアを思わせる興奮があるのか。その理由をひもとくキーワードは「furbizia」、そして「italianità」である。

東京・亀戸にあるイタリアンレストラン、メゼババのシェフ高山大

「メゼババ」シェフ 高山 大(たかやま・はじめ)
宮城県生まれ。大学中退後、奥沢の「ヴィゴレット」勤務の後、単身イタリアへ。数年間のイタリア生活からの帰国後、西麻布などのイタリア料理店を経て2013年「メゼババ」をオープン。質実剛健なイタリア料理で連夜、舌の肥えた客を熱狂させ続けている。

【連載第2回】「furbizia」と「italianità」 東京・亀戸「メゼババ」シェフ高山大 Vol.2【イタリアに焦がれて】
【連載第3回】「italianità」を得るために 東京・亀戸「メゼババ」シェフ高山大 Vol.3【イタリアに焦がれて】
【連載第4回】イタリアの郷土料理を尊重するということ 東京・亀戸「メゼババ」シェフ高山大 Vol.4【イタリアに焦がれて】
【連載第5回】お客さんに喜んでもらうために 東京・亀戸「メゼババ」シェフ高山大 Vol.5【イタリアに焦がれて】

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WRITER PROFILE
松浦 達也 Tatsuya Matsuura
松浦 達也 Tatsuya Matsuura

東京都出身。ライター、編集者。食専門誌から一般誌、新聞、書籍、Webなど多方面の媒体で幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオで食トレンド・ニュース解説も。著書に『家で肉食を極める! 肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル おうちの卵料理が見違える!』(ともにマガジンハウス)など。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター。有限会社馬場企画代表取締役。

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