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「ナポリタン」「ドリア」ってイタリアにはない?日本生まれのイタリア料理

昨年の11月からイタリアは再びロックダウンとなり、最後に外食したのはいつだろう・・というような生活が続いている今日この頃です。さて、私は時々FM大阪ラジオの「On the planet」という世界と日本を結ぶラジオ番組に出演してフィレンツェからイタリア情報を話しているのですが、前回のテーマが「イタリアにはない、日本生まれのイタリア料理」というものでした。言われてみれば、確かに日本には和製イタリアンがとても多い。外食ができなくなった今、これまで以上にネットで日本の料理サイトをチェックすることが増えたのですが、「どこがどうイタリアンなのか?!」と思わず突っ込みたくなるような「イタリア風」と名付けられた料理の多さに圧倒されます。さて、今回はそんなイタリアにはない日本生まれのイタリア料理について書いてみたいと思います。

イタリア在住日本人なら真っ先に頭に浮かぶのが「ナポリタン」

イタリアにはない日本のイタリアン。やっぱり代表格はナポリタンでしょう。イタリアで「ナポリタンが食べたい」と言っても、レストランでもイタリア人でも「はあ?」という顔をされること間違いなしです。ナポリタンは完全なるジャパニーズイタリアンであり、イタリアには存在しない料理です。

逆にイタリア人たちに「日本にはね、ナポリタンというケチャップを使うパスタがあって・・・」と説明しようものなら、「パスタにケチャップだとー?!そんなの絶対ありえない!そんなものをイタリア料理と呼ぶなんて冒涜だ!」と言われてしまいます。「意外にイケるんだよ」と言っても、「そんなの絶対食べない」と頑として受け付けません。

パスタ類でいえば、たらこスパゲティも完全なるジャパニーズイタリアンです。そもそも魚卵を食べる習慣がイタリアにはほとんどありません。イタリアで食べられる魚卵はからすみ(イタリア語ではボッタルガ)くらいで、他は一般的ではありません。イクラ、たらこ、子持ちししゃもなどなど、魚卵が大好物の私は日本に帰国すると真っ先に食べるのが、そういった魚卵類。炊きたての白いご飯と明太子だけで幸せになれる私ですが、イタリアではたらこは通販でしか手に入らない高級品。こんなことなら、日本でもっとたらこスパゲティを食べておくんだったと後悔する日々です。

スープスパゲティもアルデンテにこだわるイタリア人にとっては「そんなのパスタが伸びてまずくなる」ということで存在しません。トルテリーニ(ラビオリの一種)がスープに入っている料理はありますが、細長いスパゲティが入ったスープスパはありません。

お米の調理法が日本とは異なるイタリアではありえない「ドリア」

サイゼリヤで「ミラノ風ドリア」などというメニューまであるくらい、ドリアはイタリアンだと信じてやまない日本人が沢山いると思いますが、ドリアはイタリア料理では全くなく、イタリアには存在しない料理で、ましてミラノの人からすれば「一体どこがミラノ風なのか?」と謎の料理であったりします。ドリアは日本生まれの洋食のようなのですが、そもそも、イタリアと日本では根本的ににお米の調理法が違います。

日本のお米料理の基本は炊くわけですが、イタリアの場合はパスタみたいに茹でる感じです。お米のサラダというものがイタリアにありますが、その料理のお米の調理法はパスタと同じで、お湯に塩を入れてお米をざっと入れ、茹で上がったらザルに取ってお湯を切る、というもの。日本では見ない調理法なので最初に見た時は驚いたくらいです。そういえば10年ほど前にこんな風にイタリア式に茹でた、パサパサのお米で作ったお寿司がイタリアで出てきたことがあり、そのまずさにびっくりしたことがあります。おそらく、それを作ったイタリア人はお寿司を食べたことがなかったのでしょう。今でこそイタリアでもお寿司はメジャーになり、そんなことはもう起きなくなりましたが、あのパサパサ米のお寿司はなかなか衝撃的でした。ドリアに使うお米は日本の炊き方で料理しますので、ドリアはそもそもイタリアでは存在し得ない料理ということになります。

イタリア人のリゾット調理風景

反対に日本でリゾットと呼ばれているものは、その多くが雑炊です。日本式に炊いたお米をブイヨンなどで煮るのは、イタリアのリゾットの調理法ではなく、洋風雑炊の部類になります。イタリアのリゾットは、まず生米をオリーブオイルなどで炒めて、そこへ熱いブイヨンを加えて鍋にふたをしないで煮てつくります。また、リゾットに使われるお米はカルナローリ種など仕上がりがクリーミーになるものを使うので、イタリア現地でリゾットを食べたことがある人は「あれ、日本のリゾットとなにか違う」と感じられるかもしれません。

北イタリアはリゾットが美味しい。こちらはパドヴァで食べたチーズリゾット

イタリアンドレッシングはイタリア生まれではない!?

日本にはイタリアンサラダなどと呼ばれるサラダがたくさんあり、イタリア風な名前の「ピエトロドレッシング」などイタリアンドレッシングの種類も多く、イタリアではさぞかしドレッシングの種類が豊富なのではないかと想像している人も多いかも知れませんが、そんな人はイタリアへ来ると拍子抜けするかもしれません。というのも、イタリアでサラダといえば、もうほとんどの場合で「オリーブオイル、塩、バルサミコ酢またはワインビネガー」のみ。どこに行ってもほぼこれだけで、イタリアのレストランでも家庭でも「ドレッシング」なるものが提供されることはありません。イタリアではサラダは何もかかっていない状態で提供され、自分で好きなようにオリーブオイルと塩とバルサミコ酢をかけて食べるのが一般的なんです。

そもそもイタリアンドレッシングはアメリカやカナダで作られ、そう呼ばれているものであって、イタリア生まれではありません。イタリアのスーパーにもシーザーサラダドレッシングやいくつかドレッシングも存在はしますが、レストランや家での食事会で出てきたためしはありません。

それを逆手に取って、イタリア人の友人たちを家に呼んで食事会をする際には、ちょっと凝ったドレッシングを作って出すようにしています。ドレッシングはただ混ぜるだけなので料理が好きではない私でも簡単にできますが、「サラダにはオリーブオイル、塩、バルサミコ酢またはワインビネガー」と固定観念のあるイタリア人には、ちょっと変わり種のドレッシングを出しただけで「これは何なの!」と感動してもらえ、サプライズ効果抜群です。

バーニャカウダはれっきとした伝統イタリアン。実は日本のほうがイタリアより知名度が高い!

野菜などにつけるバーニャカウダは、逆に実際にイタリアにあるれっきとした伝統料理です。日本ではもうすっかりお馴染みの料理ですが、バーニャカウダは北イタリアのピエモンテ州の伝統料理になります。ただ、面白いことにバーニャカウダは実は日本のほうが本国イタリア全土よりもずっと知られている料理なんです。

ピエモンテ州で食べた本場のバーニャカウダは絶品でした!

もちろんピエモンテ州では知られている料理で、レストランで提供しているところもありますが、北イタリア以外の中部や南イタリアでは全く有名ではありません。フィレンツェの人にバーニャカウダといっても知らない人が多いくらいで、日本ではすごく有名だよというとイタリア人たちは驚きます。そんなわけで、「バーニャカウダが食べたい!」と思ってフィレンツェやローマ、シチリアへ行ってもまずレストランで見かけることはなく、そもそも「なにそれ?」と言われてしまうのがオチです。それに「バーニャカウダ」は「バーニャ=ソース」、「カウダ=熱い」という意味ですが、ピエモンテの方言なのでピエモンテ以外の多くのイタリア人にとっては意味のわからない言葉になります。

トマトとチーズ、オリーブオイルとニンニクが入ればイタリアン?

ピザも日本とイタリアでは結構違うものがあります。チキン照りマヨピザはまず存在しません。イタリア人によるとピザにチキンという発想がほぼ無く、ピザにマヨネーズをかけるのは「私たちにはおいしいチーズがあるのになぜわざわざマヨネーズを?!」と悲鳴があがりそうです。ただ、イタリアにはフライドポテトが載ったピザなんていう変わったピザがわりと一般的です。他にも日本にはないような具材が載ったピザがあるので、イタリアのピザ屋では日本で見かけないようなピザを頼んでみるのも楽しいかと思います。

フィレンツェのピザ屋で食べたトスカーナ名産カーヴォロネロ(黒キャベツ)のピザ

日本ではチーズとトマトまたはオリーブオイルとニンニクが入ればイタリアンと呼ばれがちですが、その多くが和製イタリアン。イタリアンたこやき、カルボナーラうどん、イタリアントマトラーメン、イタリアン鍋など沢山アレンジ料理がありますが、これらはご想像どおり、日本にしか存在しない和製イタリアンです。イタリア人たちには「どこがイタリアなんだ!」とあきれられそうではありますが、日本人にとっては「チーズがけたこやき」よりも「イタリアンたこやき」と呼んだ方がなんだか美味しそうに響きますよね!今後も和製イタリアンの進化から目が離せそうにありません。

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