たとえば、未踏の地が冒険家たちの好奇心をかき立てるように。限られたものだけが口にできる「まかない」もまた私たちの食欲をかき立ててやまない……ということで、『イタリアンシェフのまかないレシピ』第3回は、新宿三丁目の人気店「イル・バーカロ」に伺いました。
イル・バーカロはJR新宿駅から徒歩4分、東京メトロ丸ノ内線&副都心線、都営新宿線の新宿三丁目駅からはわずか徒歩1分のイタリア料理店。地下2階の店舗で、新宿駅からも地下通路直結で入店できるため、雨の日でも傘いらずなのもうれしいところ。
都心のビルの地下とは思えない、ビンテージ感のある店構えは雰囲気バッチリ。扉の前ではスタッフがお出迎えしてくださいました。左が支配人の有田貴洋さん、右が料理長の尾崎勇さんです。今日はよろしくお願いします!
イル・バーカロという店名は、ヴェネツィアの居酒屋「バーカロ」に由来します。その名を象徴するのが、お店に入ってすぐ目に飛び込んでくる、長〜い立ち飲みカウンターのバンコ。まるでヴェネツィアのバーカロに迷い込んだかのよう! ここではグラスワインが250円から、おつまみが100円からと、超リーズナブル。ヴェネツィア風に表現するなら、バーカロ(居酒屋)でチケッティ(おつまみ)をつまみながらオンブラ(ワイン)を気軽に楽しめます。
取材当日は午後5時30分のディナータイムスタートと同時に、ぞくぞくとお客さまが来店し、あっという間に大にぎわい。飲んで食べてワイワイと、うらやましい!!!
支配人の有田さんからは、この賑わいで人手が足りないとうれしい悲鳴が。ということで、いまならイル・バーカロで働くチャンスがあるそうです。スタッフになった暁には、もちろんまかないも堪能できますよ(笑)。
興味のある方はお店に連絡してみては?
立ち飲みコーナーの奥にはテーブルがずらり。外から想像するよりも広々としており、ウッディで落ち着いた雰囲気です。こちらも本場ヴェネツィアの雰囲気が再現されています。
イル・バーカロのまかない「リゾット・アッラ・ピロータ」
さて、厨房に場所を移して、いよいよまかないクッキングがスタート!
まずは鶏ガラを香味野菜と煮込んだブロードと、パスタの茹で汁を鍋に入れます。通常のリゾットはまず米を炒めてそれから水やダシを吸わせるのですが、今回のメニュー「リゾット・アッラ・ピロータ」は、いきなりダシを火にかけちゃうのです。
「ピロータというのは精米する職業の人のことで、リゾット・アッラ・ピロータは彼らが食べていた料理がルーツです。だからなるべく手をかけずに手早く作れるということがひとつの特徴なんですね」と、尾崎シェフ。なるほど、まかないにぴったりのメニューです。
今回は春らしく、菜の花をイン。そこにお米を投入します。
使うのはヴィアローネ・ナノ米。ヴェローナとマントヴァの中間あたりで栽培されるお米で、リゾットに最適だそう。日本のお米でこのレシピを再現するとべたつくようなので、ぜひヴィアローネ・ナノ米を使いましょう。おそらく日本で常備しているご家庭はそうそうないと思いますが、尾崎シェフいわく伊勢丹などでは扱っているそうなので探してみてください。
菜の花と米を入れて煮立たせたらフタをして、鍋ごとオーブンに!
オーブンで加熱している間に、別の鍋でサルシッチャを炒めます。こちらは自家製で、一般的な腸詰めのサルシッチャの中身にあたるところだそうです。
自家製ならではのグッドな粗挽き具合が視覚を、立ちのぼるハーブの香りが嗅覚を、ジュジューッと魅惑的な音が聴覚を刺激。三位一体のトライアングルアタックに、食べる前からノックアウト寸前に。
オーブンに入れて約10分後、鍋を取り出します。そこに炒めたサルシッチャ、バターを投入し、チーズを削りかけます。
チーズは、ウソこんなにってぐらい大量に。弱火にかけながら混ぜ合わせたら、お皿に盛りつけ。
「イタリアのリゾットは、日本の雑炊に近いぐらいの水分を残すのがセオリーです。『ライスの表面が波打つように作りなさい』といわれるぐらいで。ただリゾット・アッラ・ピロータに関しては水分がほとんど残らないのが正解です」
最後にオリーブオイルをまわしかけてできあがり!
リゾット・アッラ・ピロータ Risotto alla pilota の作り方
●イタリア米・・・50g
●菜の花・・・3本(一口大にカット)
●サルシッチャ(自家製)・・・20g
●水・・・150~200cc
●塩・・・少々
●オリーブオイル ・・・ 少々
●パルミジャーノレッジャーノ・・・適量
●バター・・・適量
●ヴェネト産エクストラバージンオイル・・・適量
<作り方>
①沸騰した塩水に、米と菜の花を入れる。フタをして200℃のオーブンで10~15分加熱。
②別の鍋にオリーブオイルを入れ、サルシッチャを炒める。オーブンから取り出した①の鍋に、炒めたサルシッチャを加える。
③パルミジャーノレッジャーノとバターを加え、混ぜ合わせる。仕上げにエクストラバージンオイルをかければ完成。
フォークですくって、パクリとひと口。・・・お、おいしい! 噛むたびにすべての素材の旨みが渾然一体となって襲ってくる。モグモグしている間にもう次のひと口が恋しくなるという、おそるべきヤミツキ感。
しっかりとしたお米の歯ごたえに、サルシッチャの塩気、チーズやバターのコクが効いて食べごたえもアリ。だけどクドさは一切なく、すっきりとした食後感で仕事の合間に食べるまかないとして満点でしょう! シンプルなレシピだからこそ、分量や時間の微妙な加減、つまり料理人のウデが味の明暗を分けそうです。
イル・バーカロのひと皿「牛レバーのヴェネツィア風」
お次はイル・バーカロの自信の一品をリクエスト。まずは新鮮な仔牛のレバーに塩コショウを振り、小麦粉をまぶします。
にんにくの香りを移したオリーブオイルを火にかけ、セージを入れて香りづけ。そこにレバーを投入してソテーします。
じっくり1時間、飴色になるまで炒めておいた玉ねぎを追加してさらに炒めます。
スーゴ ディ カルネ(フレンチでいうところのフォンドヴォー)、ブランデー、白ワインを加えてさらに強火で加熱。
練った白ポレンタと一緒に盛りつけて、オリーブオイル&イタリアンパセリをオン。
「通常のポレンタは黄色いものが多いのですが、ヴェネトのものは全部というわけではありませんが白いポレンタが一般的ですね」とは、尾崎シェフの弁。なるほど、白いトウモロコシで作られているらしいです。
手際の良い調理であっという間に、牛レバーのヴェネツィア風(Fegato alla veneziana)が完成。こちらはヴェネツィアのお店や家庭で昔から愛される、伝統的な定番料理だそう。
あわせるワインは、ヴェネトの「ヴァルポリチェッラ スペリオーレ」をセレクト。コルヴィーナ、コルヴィノーネ、ロンディネッラ種の選りすぐりのブドウを使用し、5,000リットルの大樽で熟成されています。土地の個性が活かされながらも、繊細でエレガントな飲み口です。同郷の料理「牛レバーのヴェネツィア風」との相性は言わずもがな! 野趣にとんだレバーの風味をふくよかに包み込んでくれます。
レバーは完璧な火入れでプリップリ。鮮度のいいものを使っているためか、臭みもまったく感じません。玉ねぎの甘みの中にほのかに洋酒が香り、オトナも満足できる深くやさしい味わいを構成しています。ワイルドな見た目に反して知的なおいしさにギャップ萌えです。ライス感覚でポレンタも一緒に食べると、なおフォークが進みます。
単品ではもちろん、赤ワインの最高のパートナーとしても力を発揮する、イル・バーカロの自信作「牛レバーのヴェネツィア風」。遠くヴェネツィアに思いを馳せながらぜひご賞味あれ!
イル・バーカロ(IL Bacaro)
東京都新宿区新宿3-4-8 京王フレンテ新宿3丁目 B2
TEL. 03-5269-8528
ランチ 11:30~15:30(L.O.14:30)
ディナー 17:30~23:00(L.O.21:30)
土日祝日フルオープン 11:30 〜 23:00(L.O.21:30)
年中無休
https://ilbacaro.gorp.jp/
テキスト:AGARU ITALIA(あがるイタリア)編集部
※この記事は2018年2月27日にAGARU ITALIAにて公開されました。