東京で絶品イタリアンドルチェが食べられる「ラトリエ モトゾー」
思わず誰かにおすすめしたくなるようなおいしいドルチェが食べられる東京都内のショップを、数珠つなぎのようにご紹介していく連載コラム「東京ドルチェリレー」。スイーツのプロがハマったツウなドルチェをぞくぞくご案内します!
今回ご紹介するのは、池尻大橋にある〈ラトリエ モトゾー〉。こちらはなんとイタリア菓子の専門店で、前回訪れた〈タロス〉の馬場さんによると「どのドルチェもとてもおいしいし、この企画にうってつけ!」とのこと。一体どんなドルチェがあるのかワクワクしながら、店内に入ってみます。
店内に入ってびっくりしたのが、きらびやかなドルチェの数々。
こちらも!
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全部華やかでおしゃれ!!!
と、思わず興奮する我々を出迎えてくれたのは、オーナーシェフでイタリア菓子歴史研究家でもある藤田統三さん。イタリアのドルチェの作り方をまとめた書籍をこれまで3冊出されていて、どちらもプロのパティシエが参考にするほどなのだとか。まさにイタリア菓子のプロである藤田さんに、早速、おすすめのドルチェについてたずねてみました。
ズコットを作ったのは、パティシエではない!?
–藤田さん、よろしくお願いします!早速なのですが、 おすすめのドルチェを教えていただけますか?
そうですね、バレンタインデーも近いですし、例えばズコットはどうですか?ココアパウダーがきいているのでこの時季にはおすすめですよ。
–ズコットって、ドームのような丸いケーキのことですよね?
ええ、そうですね。ズコットの何が面白いって、このドルチェはいわゆるルネサンス期にフィレンツェで生まれたのですが、その生みの親であるベルナルド・ブオンタレンティという方は、建築家だったんですよ。
–え、パティシエの方ではないのですか?
そうなんです、面白いでしょう。ちなみに、ズコットという名前の由来は、「ズケット」という、聖職者の方がかぶっていた半球形の帽子に似ているからと言われています。
–なるほど。しかし、どうしてまた建築家の方が?
芸術家なのに建築や音楽、天文学などさまざまなジャンルで功績を残したレオナルド・ダ・ヴィンチのように、ブオンタレンティもまた、色々な方面で名を残した偉大な人物だったようですね。
–まさに天才だったのですね。
実はこの方、ズコットだけではなくジェラートの生みの親だったりしますからね。
–え、そうなのですか!?
笑っちゃうでしょ(笑)。
–その方のドルチェ界への貢献度はすごいですね(笑)。ちなみに、藤田さんがズコットのことを初めて知ったのはいつですか?
ええと、専門学校に通っていた時なので19歳くらいですかね。ただ、私が初めてイタリアに渡ったのは28歳の頃だったのですが、そこで本場のズコットを見てびっくりしました。私が知っているズコットとは、素材から何からまるで違うものでしたからね。
–そんなことがあるのですね…。
ズコットの歴史を振り返ると、イタリアで生まれた後にフランスに広まり、そこでさまざまなアレンジをされた後に日本へと広まった経緯があるので、日本でイタリア菓子として紹介されるズコットは、実際にはフランス流にアレンジされたものが多いんですよ。
–そうだったのか…。
決してそれが悪いということではないですけどね。ただ、私はイタリア本場の味を伝えたいと思ったので、レシピはイタリアで学んだものをそのまま使っていますし、素材もイタリア流にこだわっています。
こちらがそのズコットです。早速いただいてみましょう。
本場同様、リコッタチーズのクリームを使っているので、見た目以上に食感は軽やか。スポンジケーキもイタリア式のものを採用し、フランス式のしっとりしたものではなく、さっぱりした味わいになっています。
さらに、スポンジケーキに染み込んだリキュールがチョコレートクリームと組み合わさって上品なテイストに。ナッツやオレンジピールがアクセントになっています。
そして特筆すべきはこのドーム状になったスポンジケーキ。これは建築家であるベルナルド・ブオンタレンティの真髄が発揮されている部分でもあり、建築的な手法が取り入れられているのだとか。
「よく三角形にカットしたスポンジケーキを白・黒と並べてドーム状にしているものもありますが、それはイタリア式ではありません。ブオンタレンティに敬意を表して、彼が編み出した技をそのまま使わせてもらっています」と藤田さん。
イタリア人のお客さまもよく来店されるとのことですが、皆、口を揃えておいしいと言ってくださるのだそう。
ティラミスはあえてアレンジせず、ザ・王道を
–思った以上に軽かったのでペロッといけちゃいました。
では、もう一品、ティラミスも召し上がってみませんか?
–もちろんいただきます!こちらにももちろん藤田さんのこだわりが詰まっているのですよね?
ええ、こちらもイタリアで教わったレシピをそのまま再現しています。かつてイタリアが自国の食文化をもっと世界に広めることに力を入れていた時期があって、その際に注目されたのがティラミスでした。
–日本でもティラミスがすごくブームだった時期がありましたね。
おかげで今ではどのお店でも大体ティラミスが置いてあるじゃないですか。アレンジもお店によって様々ですし。でも昔は「マスカルポーネ」「北イタリアで生まれたサボイアルディというスポンジ」「マルサラ酒」「エスプレッソ」の4つを使わないとティラミスとは呼べなかったんです。
–巷ではマスカルポーネを使っていないティラミスもありますよね?
それだけ決まりがあったら広まらないということで、上記の4つを使っていなくても、見た目が層になっていればティラミスと呼んでいいということになったんです。そのためにアレンジの幅がグッと広がって、世界に普及していきました。
–なるほど、ティラミスの定義が大分ゆるやかになったのですね。
ええ、そういう背景があって多種多様なティラミスが出てきたので、私はあえてクラシックと言いますか、上記の4つをしっかり使った王道のティラミスをご提供したいと思ったんです。
ということで、ティラミスもいただきます。
一口食べてみるとコクのあるマスカルポーネや卵の味わいがまとめてガツンときて、「これぞまさにティラミス」と思いました。
ティラミスの本場の味を知りたくてイタリアに修業に行ったという藤田さんは、イタリアで初めて食べた時に「とてもずっしりとした味」という感想を抱き、その味を再現しているのだとか。苦味がキリッと効いたエスプレッソのおかげで後味はすっきり。食べ応え十分なのにくどくないという絶妙なバランスを形成しています。
食べた瞬間に「おいしい」と思えるのがドルチェの魅力
–ごちそうさまでした、どちらもとてもおいしかったです。もっと食べたいと思っちゃいました(笑)。
ありがとうございます(笑)。
–イタリア菓子を追求されている藤田さんにお聞きしたいのですが、イタリアのドルチェってどういうところが魅力だと思われますか?
食べた瞬間に「あ、おいしい」と思えるシンプルさですね。私はキャリアの始まりがフランス菓子だったのですが、フランスのお菓子は色々と手が込んでいて、少し考えさせられるものも少なくないんです。
–考えさせられる?
おいしいんだけど、食べた瞬間にはそのおいしさが何によってできているのかがわからず、あれこれ考えて納得するといった感じです。もちろん全部が全部そうじゃないですけどね。
–なぜフランスはそういうものが多いのでしょうか?
フランスは料理もお菓子も、お皿のトータルで100点のものを作ろうとする考え方が多いからかもしれません。メイン料理が60点、ソースが30点、付け合わせが10点で合計100点みたいな。
–付け合わせはあくまでメインを引き立てる役割に徹するのですね。
ええ。チームプレイのようにさまざまな要素を組み合わせて一つのゴールを目指すのがフランス式ですね。一方でイタリアでは、メインも付け合わせも全部100点を目指すというシンプルなものが多い。それが理由の一つではないでしょうか。
–なるほど、わかりやすいですね。
おいしいドルチェに仕上がった時は、とてもインパクトのある“大きな100点”になります。だから食べた瞬間においしさがわかりやすく伝わるのだと思います。
藤田さんがハマったドルチェは?
–最後に、藤田さんおすすめのドルチェが食べられる都内のショップを教えていただけますか?
〈ピッツェリア ジターリア ダ フィリッポ 石神井公園〉というところをご紹介させてください。
–ピッツェリアなのですか?
ええ。ただ、ドルチェもすごくおいしいものが数多く揃っているんでおすすめです。
いかがでしたか?都内でも珍しいドルチェ専門店を率いる藤田さんのズコットとティラミス。プロも参考にする本格的なおいしさをぜひ味わってみてはいかがでしょうか。次回は藤田さんがハマったドルチェをご紹介したいと思います!
ラトリエ モトゾー
http://motozo.tokyo/
〒153-0043 東京都目黒区東山3-1-4
TEL. 03-6451-2389
営業時間
(火〜土) 12:00〜19:00
(日) 12:00〜18:30
定休日 月
初出:この記事は2018年2月14日、公開されました@AGARU ITALIA