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とんこつラーメンにも合う!? オリーブオイル使い分けのススメ

イタリア人の生活に欠かせないオリーブオイル。現在では日本の家庭でも1本は常備していることが多いと思いますが、実はまだまだ知られざる魅力的なオリーブオイルの世界があるのです。


オリーブオイル専門店〈OLiVO〉や、オリーブオイルダイニング〈La Cantina Cancemi〉を日本で展開するエンツォ・カンチェーミさんに、オリーブオイルの最新事情について教えていただきました。


最もおいしい、というオリーブオイルはない

エンツォ・カンチェーミ

私は約20年前から搾りたてオリーブオイルを年に1回輸入していました。そして当時は「いちばんおいしいオリーブオイルは」と聞かれたら、この1本ですと答えていたんです。


7〜8年前でしょうか、イタリア人と結婚してローマに住む娘から、オリーブオイルのすごく広い世界を教えてもらってびっくりしました。簡単に言うと当時は苦みやクセがなく、何にでも合うオリーブオイルが一番いいと思われていたんです。


しかし、オリーブの品種はイタリアだけでも500種類、世界に目を向けると1,250種類もあります。地域によって品種が異なるし、生産者によって作り方も違ってくる。オリーブオイルにはそんなにも多彩な個性があるのに、これが最もおいしいという1種類で満足しちゃうなんてもったいないことはできないでしょ?


オリーブオイルは3本の使い分けが正解

OLIVO オリーブオイル

現地に住む娘のおかげで、料理によって使い分けること、それがオリーブオイルの魅力だと気づいたんです。


たとえば濃い口醤油、薄口醤油があるように、オリーブオイルもフルーティさで表現されます。大別すると「ライトフルーティ」「ミディアムフルーティ」「インテンスフルーティ」に分けられます。


「ライトフルーティ」に合うのは、淡泊で軽い料理。お豆腐やヒラメのお刺身、サラダなんかにぴったりです。一方、味の濃いシチューやカレーライス、とんこつラーメンなどには「インテンスフルーティ」のオリーブオイルを使うとすごくまろやかになっておいしく感じるのです。


使い分けのコツは、常に3種類のフルーティさのオリーブオイルを揃えておくこと。自分があっさりしているなと思ったら「ライトフルーティ」、濃いなと感じたら「インテンスフルーティ」、どちらか迷ったら「ミディアムフルーティ」を試してみてください。


イタリアで出版されている『Flos Olei(フロスオレイ)』という世界のオリーブオイルのガイドブックがあり、約45カ国、日本のオリーブオイルも載っています。すべてに対してフルーティさの区分、どんな料理に合うのかも書かれているので、読んでみるとおもしろいですよ。


イタリアでのオリーブオイル使い分け事情は?

エンツォ・カンチェーミ

イタリアの家庭では、実は使い分けてないのです。その理由は、イタリア人は地元愛がとても強いから。彼らは、プーリアで生まれたらプーリアのオリーブオイル、トスカーナで生まれたらトスカーナのオリーブオイルしか使いません。自分の地域に誇りを持っているんですね。わざわざ他の地域のオリーブオイルを買うなんて、けしからんというわけです。私はいま日本でオリーブオイルの使い分けを広めていますが、まずはイタリア人に言いたい(笑)。


意外かもしれませんが、イタリアのオリーブオイル専門店は、ローマに2年前にできたのが最初です。まだまだ都会の観光地でないとむずかしいのが実情でしょう。でも、近いうちイタリア人も他の地域のオリーブオイルもおいしいぞと気づき、この状況が変わるように感じています。


ただ、ワインと同じように、オリーブが作られた土壌とその土地の料理の相性は良いように感じます。だから、海の近くのシチリアで作られたオリーブオイルは魚介の多いシチリア料理に、ローマで作られたオリーブオイルは肉の多いローマ料理にというのは理に適ってはいるんです。日本の小豆島のオリーブオイルはすごく繊細な味わいで、やはり和食に合うなと思いますから。


オリーブオイルをおいしく楽しむために

OLIVO オリーブオイル

私のお店ではオリーブオイルを少量ずつ空輸しています。小分けにする理由は、生産者のタンクに入っているオリーブオイルがいちばん新鮮だからです。収穫してからしっかりと温度管理された暗所できちんと保管されているためです。


またイタリアから船で輸入すると2回赤道を通ることになります。中継点での積み替え時には3〜4日ぐらい港に放置されてしまうこともあり、熱で品質が落ちるリスクがあるんです。それに船だと約2カ月、飛行機だとたったの14時間ですからね。


オリーブオイルは2年から2年半の賞味期間がありますが、新鮮なほどおいしいのでなるべく早めに使い切ってください。またご自宅での保管は、一定の温度が保てる暗い場所、お醤油などを収納するキッチンの収納庫などがベストでしょう。冷蔵庫だと良いオリーブオイルほど白く固まってしまいます。固まって溶かしてを繰り返すと酸化が進み、やはり品質が低下してしまいます。


私たちが小さな瓶での量り売りにこだわるのは、早めに使い切れる量で、複数を使い分けしたほうが食卓が楽しくなりますよという提案からです。ぜひいろいろ味見してお気に入りの味わいを見つけてください!


いくつ知ってる? オリーブオイルの豆知識

エンツォ・カンチェーミ

・搾りたてを味わうなら12月ごろが狙い目

イタリアでのオリーブの収穫時期は10月〜12月ごろまで。遅摘みのこだわりがある生産者は1月ごろまで収穫することも。収穫したばかりの搾りたては特別な味わいです。


・色の濃さと味の濃さは無関係

オリーブオイルは色が濃いから味も濃いというわけではありません。コンテストでは色に惑わされないように、色のついたグラスでテイスティングします。


・選ぶなら最新の機械製法のものを

昔ながらの石臼だと空気に多く触れて酸化しやすく、衛生面での心配もありますが、最新の機械だと最初から最後まで空気に触れることなく衛生面も安心です。


・イタリアではパンにオリーブオイルはついてこない

イタリアではほとんどの料理にオリーブオイルが使われており、パンはそのソースをぬぐって食べるもの。その例外として「フェットゥンタ」という食べ方があります。オリーブを収穫したその日、スライスしたパンをグリルして、切ったニンニクをすりつけて塩をふり、そこに搾りたてオリーブオイルをひたひたにかけて、ワインとともにいただく。家族で楽しむ収穫祭のようなものですね。


・料理の仕上げにかけて味わいましょう

風味のあるオリーブオイルは、火を通すとオイルの香りが強く出過ぎてしつこく感じてしまいます。炒め物など熱を加える調理にはクセのないプレーンなオリーブオイルをお使いください。それも使い分けですね。


PROFILE

エンツォ・カンチェーミ Enzo Cancemi

カンチェーミ・コーポレーション株式会社、代表取締役社長兼CEO。兵庫県宝塚市生まれ。1976年、父A.カンチェーミのレストラン〈アントニオ〉に就職し、2010年に自社を設立し独立。現在は、オリーブオイル専門店〈OLiVO(オリーヴォ)〉、オリーブオイルダイニング〈La Cantina Cancemi(ラ・カンティーナ・カンチェーミ)〉を展開し、オリーブオイルの魅力と食材によって使い分ける楽しさを伝えている。


取材協力:ラ・カンティーナ・カンチェーミ
東京都千代田区富士見1-9-21
TEL. 03-6272-3880
http://www.cancemi.jp/cantina/


初出:この記事は2017年9月24日、初公開されました@AGARU ITALIA