11月21日、「第16回 全国イタリア料理コンクール」決勝戦が開催され、栄えあるチャンピオンが誕生しました。「カルボナーラ」というイタリアの伝統的なパスタ料理が、気鋭のシェフによってどんな進化を遂げたのか、実際に味わった感想を含めてレポートします。
イタリア料理に新風を吹き込むコンクール
今年で16回目を迎える「全国イタリア料理コンクール」のテーマは「カルボナーラ」。アンティカ・オステリア・デル・ポンテ総料理長のステファノ・ダル・モーロ氏、イタリアの名店出身でCOCCHI シェフのヴィットリオ・コッキ氏をはじめ、全員イタリア人の審査員によって、盛り付け、味、伝統的なイタリア料理の尊重、創造性によって審査されるコンクールです。

決勝に残ったのは、「チエロ・エ・マーレ」の矢口 喜章(やぐち よしあき)シェフと、「イタリア料理 スカルペッタ」菊池 優也(きくち ゆうや)シェフ。年齢も経験も異なるふたりのシェフが、「カルボナーラ(伝統が革新に出会う)」をテーマに自分らしさをどう表現するのかワクワクします。
イタリア語で「炭焼き職人」を意味するカルボナーラは、卵黄とグアンチャーレ(豚頬肉の塩漬け)、ペコリーノ・ロマーノチーズと黒胡椒を混ぜ、食べる直前にパスタに絡めるのが基本です。チーズと卵を乳化させる温度管理が重要で、そぼろのようになってしまっては台無し。日本では、以前はクリームなどを入れている店もありましたが、それはイタリアでは許されない邪道です。
決勝戦では、オリジナルと伝統の2種のカルボナーラを限られた時間で仕上げ、チャンピオンを決定。おそらく初めて調理するキッチンで、審査員の分だけではなく、数十人のゲストの試食分まで作らなくてはならないため、通常のレストランの調理以上にスピードが求められます。
シンプルだからこそ難しい「伝統的なカルボナーラ」
決勝戦の第1ラウンドは「伝統的なカルボナーラ」対決ですが、シンプルだからこそ、シェフの腕が試される一皿と言えるでしょう。
最初にテーブルに運ばれてきたのは菊池シェフのカルボナーラ。かなりねっとりとした卵黄の食感に、塩味はやや強いという印象。

続いて登場した矢口シェフのカルボナーラは、見た目よりあっさりした味わいのパスタと卵に、カリッと香ばしい食感のグアンチャーレがアクセントとなり、さらにピリリと黒胡椒が効いています。
同じシンプルなカルボナーラでも、これだけ味わいが違うことに驚きました。

会場にいる全員が試食を終えたところで、審査員以外のゲストがどちらが美味しかったか札を挙げ、オーディエンスの1票が決まります。「伝統的なカルボナーラ」のオーディエンス票は矢口シェフに決まり、審査員の票も含めて矢口シェフがリード。それでも、まだまだ逆転できる票差です。
これがカルボナーラ?と驚く革新の一皿
奇しくも、この決勝戦が行われている最中に、「イタリアの農相が偽カルボナーラにN O!」という話題がネットニュースに流れました。どうやら、グアンチャーレの代わりにパンチェッタ(豚バラ肉の塩漬け)が使われたソースがベルギーで販売されていたことが問題になっている様子。まるで日本で優秀なシェフたちが「本物のカルボナーラ」で栄誉を競っていることがわかっているかのようなニュースがMCによって語られると、会場が沸きました。
ITALIANITY編集部は、メディアとして調理中のキッチンにも入らせて撮影させていただきました。日頃、ライヴキッチンのレストランに行くと単純にエンターテイメントとして楽しいのですが、コンクールとなると話は別で、こんなにもたくさんの料理を作って盛り付けるだけでも大変なのに、時間制限という縛りが焦りをもたらすのではないかと、シェフの気持ちを思うとヒヤヒヤしてしまいました。

いよいよ決勝戦の第2ラウンド「革新的なパスタの調理がタイムアップ!この一皿で勝者が決まります。
最初にサーブされたのは矢口シェフのパスタ。贅沢なまでに黒トリュフをトッピングしたパスタ、グアンチャーレ、ポーチドエッグの3つがプレートに並んでいます。はじめにトリュフパスタだけで食べて、その後は3つを混ぜてから食べることでカルボナーラが完成するユニークな趣向です。実際に味わってみて、トリュフのパスタが美味しすぎて、カルボナーラじゃなくても満足してしまうというのが正直なところです。

続いて登場した菊池シェフの「Carbonara due purte 革新的なカルボナーラ」。幅の広いパッパルデッレとカルボナーラという意外性のある組み合わせで、周りをリーフとハーブで取り囲み、ローズマリーの香りをアクセントとして効かせた一皿は、美しい盛り付けも魅力のひとつ。カルボナーラの新しい可能性を感じました。

チャンピオンに輝いたのは矢口喜章シェフ
いよいよ審査発表。オーディエンス票は、第1ラウンド以上に接戦となりましたが矢口シェフが獲得。続いて審査員の票で菊池シェフが追い上げたものの、優勝者は矢口シェフに決定!熱い戦いはフィナーレを迎えました。
矢口シェフは、その場でチャンピオンのエンブレムが付いたコックコートを着用。自らのアイデアと料理の腕で勝ち取った栄冠に、輝くような笑顔があふれました。「今回のコンクールで一番難しかった点は?」と尋ねたところ、「時間が2日しかなかったことです」という意外な答え。実は、ピッツァのコンクールにも出場していて、そちらが終わってからカルボナーラの準備に取りかかったそう。
海の幸や野菜たっぷりのイタリア料理を提供する東京・両国の「チエロ・エ・マーレ」。「今回のカルボナーラも、メニューに加えていくことを考えています」とのことなので、伝説のカルボナーラをお店で味わえる日も近そうです。

「あのコックコートが着たかった」とつぶやいた菊池シェフ
惜しくも優勝を逃した菊池優也シェフは、ピエモンテ州のノヴァラで修行し、現在、普段は自衛隊中央病院で働き、週に一度、「イタリア料理 スカルペッタ」で腕をふるっています。「やはり普段、同じ料理を大量に作った経験がなかったので、そこが難しかったですね」と語った菊池シェフ。革新的なパスタがすごく美味しくて感動したことを伝えると、うれしそうな笑顔を浮かべました。
フォトコールに応える矢口シェフを眺めながら、「あー、やっぱりあのコックコートが着たかったなぁ」と口にした菊池シェフの一言が忘れられません。それでも、まだまだチャンスがある24歳。「来年も挑戦したいし、違うコンクールにも参加したい」と、前向きな言葉をいただきました。

イタリア料理の伝統を大切にしながらも、革新的なアレンジで未来へ繋げていくこと。今回のコンクールを体験して、世界遺産登録を目指している「イタリア料理」が、日本でこの上なく愛され、優秀なシェフたちによって受け継がれていることを実感しました。

在日イタリア商工会議所 公式サイト https://iccj.or.jp/ja/
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