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アルプスを越えた商人のタンスから生まれたカルニア地方のパスタ「チャルソンス」【ペペロッソの冒険】 | イタリアン

【今井和正さんのレシピ連載「ペペロッソの冒険」シリーズ一覧はこちら】

イタリア人女性と調理を行う「ペペロッソ」総料理長の今井和正シェフ

三軒茶屋のイタリア郷土料理店「ペペロッソ」総料理長の今井和正です。レシピ連載第2回は、イタリアの北東部フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州のカルニア地方から、個性豊かな形を持ち、家ごとに違うレシピが存在するともいわれている「チャルソンス(Cjarsòns)」をご紹介いたします。

カルニア地方で飼育されている牛

カルニア地方はアルプスの山岳地帯で、多くのレシピは、現地の良質なミルクで作り、燻製を施したリコッタチーズを使います。実際に牧場まで行ってまいりましたが、ミルクの味の濃さにビックリ!
山の料理はチーズを使うことが多いんですが、この美味しいさを活かしたくなる地元の人々の気持ちがよくわかりました。

引き出しの底に残ったスパイスで作ったパスタ

お皿に盛り付けられたチャルソンス

チャルソンスは18世紀頃から作られていたらしく、その語源については、現地の方も、よくわからないということでした。

チャルソンス協会に来訪する今井シェフ

未知なるチャルソンスの歴史を紐解くために、カルニア地方にあるチャルソンス協会を訪ねました。

チャルソンス協会のメダルチャルソンス協会のメダルも見せていただきました。チャルソンス好きにはたまらない至福の瞬間でした。

一説によると、チャルソンスは、タンスのような物を背中に担ぎ、ヴェネツィアで購入したスパイスや薬、絵画などをドイツに販売しに徒歩でアルプスを越えていた商人に関係があるといわれています。
彼らが旅を終えて家に帰ってくると、彼らの妻は、引き出しの底に残っていたスパイスを使って料理をつくり、それはそれは盛大なパーティーを開催したのだそうです。
やがて、クリスマスイブや結婚式などに作られる、この地方の代表的な料理のひとつとなりました。

甘みと塩味、両方の味のコントラストが特徴です。塩味だけのタイプもあります。家庭によってレシピがたくさんあり、その数は50を超えるとも言われています。
使われる食材も、レーズン、ダークチョコレートまたはココア、シナモン、ほうれん草、チャイブ、カッテージチーズ、ジャム、ラム酒、ブランデー、イタリアンパセリ、乾燥ビスケット、卵、牛乳、リンゴ、レモンバームなど多岐にわたります。
塩水で茹でた後、水切りして、澄ましバターと塩漬けのリコッタチーズで味付けします。夏の時期の保存性を高めるために、不必要な水分を取り除いた澄ましバターを使うのが暮らしの知恵ですね。

先述したように、引き出しの底に残ったスパイスを大事にかき集めて作ったという起源からもわかる通り、あまり豊かとはいえない土地柄で工夫して生み出した料理です。そのレシピや食材から、厳しい暮らしを生き抜く人々のたくましさ、地域性を感じることができます。
伝統的な庶民の食べ物だったチャルソンスですが、1970年代にカルニア料理の名シェフであったジャンニ・コセッティによって新たに見直され、レストランのメニューとなりました。

カルニア地方を取り囲む山々の風景カルニア地方の汚染されていない山々の味わいです。

材料

◆ソース(2人分)

・水 80cc
・バター 40g
・シナモン 適量
・塩 適量
・砂糖 適量

◆詰め物(2人分)

・ジャガイモ 72g
・グラッパ 小さじ1杯
・塩 適量

◆チャルソンス(2人分)

・強力粉 84g
・ぬるま湯 36.9g
・塩 0.84g

◆仕上げ用

・クルミ 2個
・砂糖 20g
・ミントの葉 16枚
・リコッタ・アフミカータ

【作り方】

1. まずは、チャルソンスの生地の作り方です。
強力粉をボールに入れて、泡立て器で混ぜ合わせていきます。
粉が均質になったらぬるま湯に塩を入れて溶かし、ゴムベラで混ぜ合わせていきます。
ひとまとまりになったら、ビニール袋に入れて、冷蔵庫に入れて一晩寝かせます。

2. 冷蔵庫から取り出して、常温で90分置き、生地の温度を室温に戻します(冷蔵庫から出したてだと、生地が硬すぎて作業しづらいです)。
生地をパスタマシーンで暑さ1.8mmに伸ばしていきます。直径6cmのセルクルで抜く。
生地が乾燥しないように、強く絞った濡れた布を生地にかぶせるなどのケアをしてあげると作業がしやすいです。

パスタを作る今井シェフ

3. 詰め物を作る。ジャガイモは皮ごと塩ゆでし、熱いうちに皮をむいてポテトマッシャーで潰す。分量のグラッパを加えて塩で味を整え、1個6gずつに分ける。


4. セルクルで抜いた生地の中央にジャガイモをのせ、縁に水をぬって空気を抜きながら半月になるように成形する。生地の縁をねじりっと編み込んでいき装飾を施す。装飾に関してはたくさんのバリエーションがあります。

5. チャルソンスを海水と同じ濃度の塩湯で5分間ゆでます。

フライパンでバターを溶かしている画像

6. フライパンでバターを溶かす。

調味料を入れ、茹で上げている画像

7. 水、塩、砂糖、シナモンパウダーを加えて茹で上げたチャルソンス、バターを加えてさらによく混ぜ合わせ、乳化させる。甘塩っぱく仕上げるのが今回のチャルソンスのポイントです。

皿に盛り、ミントの葉、砂糖、砕いてローストしたクルミ、リコッタ・アフミカータをすりおろしたら完成です。

チャルソンスを食す今井シェフ

チャルソンスは家族や友人と一緒にワイワイ楽しみながら作ることが多い料理です。皆さんもぜひこの機会に、楽しみながらチャルソンスを作っていただければ幸いです。
動画でご紹介させていただいている装飾は、簡単そうに見えて意外と難しく、きっと会話に花を咲かせてくれることでしょう。装飾が難しければ、生地を重ねて半月型にしたタイプでも問題ありません。

では皆さん BUON APPETITO!!

「ペペロッソ」総料理長の今井和正シェフの写真

【メッセージ】
イタリア人特有の「CAMPANILISMO(カンパニリズモ)」という強い郷土への愛着に敬意を表して、ペペロッソがある三軒茶屋という場所が「今のイタリア郷土料理を体験できる場所」となるように、お店のアイデンティティを磨き上げていきたいと思っています。

伝統は守るだけではなくて、たゆまぬ革新の中にこそあるもの。まだ日本に入ってきていない、歴史あるイタリアの食文化の数々を、より掘り下げて一つでも多く普及していきたい。

その町やその村には、現地の人が愛してやまない守るべき食文化があります。その想いや現地で感じたテンションを、ここ三軒茶屋で表現していきます。ぜひ、お店にもおいでください。お待ちしています!

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ペペロッソ
2015年7月、イタリア郷土料理店として新規リニューアルオープン。
手打ちパスタを中心に、イタリア各地の料理とワイン、チーズなどの食材が豊富に揃っています。
また、料理教室など楽しいイベントももりだくさん。
くわしくは、公式サイトをご覧ください。
https://www.peperosso.co.jp/
東京都世田谷区太子堂1-12-23 第一ゴールドビル1階

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