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「好き」という基準|角田光代さんのイタリアエッセー・ファッション編

イタリアを旅して、「この国はやっぱりファッションの国!」とあらためて実感したことはあんまりない。お洒落な人はすごくお洒落だし、そうでない人はそうではないのはどこの国でも同じだろう。でも、色彩がきれいだといつも思う。ピンクのスカートに赤いシャツを合わせていたり、ぜんぶ原色だったり、私には思いつかないような組み合わせで、それぞれはっとするほどうつくしい。グレイや黒の服装でも、くっきりした青や黄色をどこかに取り入れていたりする。こういう色彩感覚は何によって培われるのだろう。長い歴史を持つ絵画だろうか。土地の、空気や湿度や陽射しが関係しているのだろうか。

そして女性のファッションについて、年齢や体型が、服選びの基準になっていないことをすがすがしいと思う。動きやすさや着やすさ、ルーズさといった「楽であること」もさほど大切ではないようだ。これはたんなる印象だけれど、「好き」が基準になっているように思う。その色が好きだから着る、その服が好きだから着る。他人に見られることが好きだから、そういう格好をする。等々。

イタリアを旅していると、年齢を重ねることがかっこよく思えてくる。中年、中高年、老年域の女性たちも、みんなそれぞれ好きなものを身にまとって、それがサマになっている。

数年前、夏にノースリーブを着ていて、同世代の男性に「勇気があるね」と言われたことがある。たしかに二の腕を露出している四十代の女性は少ない。若いころよりずっと肉付きがよくなっているし、たるんでいるし。みっともないのかな、あまり着ないほうがいいのかなとつい思ってしまう私は、きっと定期的にイタリアを旅するべきなのだ。二の腕がなんだ、好きなものを好きな色で着ながら年をとっていこうじゃないか! と、威勢よく反省するべきだ。

イラスト:箕輪麻紀子(Makiko Minowa)
http://makikominowa.com/

【初出:この記事は2017年10月18日、初公開されました@AGARU ITALIA】