FILM

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映画を通じてもっと深く日本とイタリアが結ばれる未来へ

共同プロジェクトへの期待が高まる日伊映画共同制作協定の締結

「無防備都市」や「自転車泥棒」などのネオレアリズモ映画。パゾリーニやフェリーニ、ヴィスコンティなどの作家性の強い名作。アカデミー賞 外国語映画賞を受賞した「ライフ・イズ・ビューティフル」。世界中を魅了してきたイタリア映画は、いま再び黄金期を迎えています。5月に日本で開催された「イタリア映画祭2023」では、話題のドキュメンタリー「旅するローマ教皇」、マルコ・ベロッキオの「夜のロケーション」、若手監督ミケーレ・ヴァンヌッチの「デルタ」など、社会性の強い作品も上映され、多くのイタリア映画ファンが会場に足を運びました。


2023年6月、日本とイタリアは「映画共同制作協定」を結び、今後は映画の共同プロジェクトをよりスムーズに行えるようになります。10月26日から11月1日まで開催された「東京国際映画祭」では、生誕100周年を迎える巨匠フランコ・ゼフィレッリ特集が開催され、イタリア映画の未来を担う若手映画人たちが来日。記者会見やカンファレンスを行い、日本のメディアや映画界との交流を図りました。多忙なスケジュールの中、ITALIANITYはインタビューを行い、彼らが映画を通じて実現したいこと、社会との関わり、未来の映画界などについてお話をうかがいました。


話題作への出演が続くイタリア映画界期待の新進俳優

「イタリア映画祭2023」で上映された「はちどり」(Il colibri)で主人公マルコの青年期を演じたフランチェスコ・チェントラーメは、演劇を用いた心理療法ドラマセラピーを通じて演技と出会いました。やがて、演じることに情熱を感じるようになり、キャリアを舞台からスタートし、テレビシリーズ、映画と、活躍の場を広げている新進俳優です。「マルコ役のように、明るいだけでなく、影の部分もある複雑な人物像を演じるのが楽しいですね」と語ったフランチェスコ。彼はいつも、人間のストーリーを大切にしている作品に出演したいと考えていて、「映画を通じてメッセージを届けることができるのが、役者としてとても幸せ」だと感じているそうです。また、イタリアを代表するシンガーソングライター、ジョルジオ・ガベールのドキュメンタリーを例に挙げ、「真実を探す人の旅のストーリーを演じてみたい」と、役者としての夢を語りました。



演じることもダンスも大好き声優も務める多才な15歳

11歳で映画デビューを飾り、現在15歳のサラ・チョッカは、長編ファンタジー・スリラー「狼たちのニーナ」で主人公を演じ、第80回ヴェネツィア国際映画祭でジョヴァーニ・リヴェラツィオーニ賞を受賞した注目の俳優。役者になったきっかけについて「7歳のときにアメリカ映画『フォレスト・ガンプ』と出会って、強いメッセージを受け取ったことです」と語ってくれました。幼い頃からバレエやダンスも習っている彼女は、撮影の合間にアウトドアスペースで踊り出すかわいらしい姿が印象的。ロールモデルについて尋ねると、トム・ハンクスやレオナルド・ディカプリオとともに、有名なバレエダンサーの名前が挙がりました。「バリシニコフのように映画作品の中で踊ってみたい」。彼女の夢は、近い将来、きっと叶うことでしょう。



映像に生命を与える若手コンポーザー&ミュージシャン

音楽シーンで注目を集めるジャコモ・マッツカートは、作曲はもちろん、プロデューサーやサウンドデザイナーも務める若手ミュージシャン。ヤカモト・コヅカという日本語風のアナグラムを別名として使っています。170カ国以上で配信され大成功を収めたNETFLIXのドラマ「ベイビー」の音楽を担当。映画「Tutte le mie notti」(The Night)のサウンドトラックも手がけています。ミュージシャンとして活躍してきたジャコモに「ベイビー」の音楽について質問しました。「もちろんムービーの音楽は初めてだったし、シリーズ化すると聞いていたので、すごくプレッシャーを感じました。でも自由にやらせてもらえたので、結果的にいい仕事ができたし、新しいチャレンジで自分の世界が広がったと思う」。この成功をきっかけに、映画のサウンドトラックで彼の音楽と出会う機会が増えそうです。



社会問題へのメッセージも映画に託された使命のひとつ

歴史物の作品に出演することも多いサラは、「歴史物は一番好きなジャンルだけど、その中でも辛い立場にあった人たちの歴史を演じたい」と語ってくれました。日頃から社会的な視点をもっている3人に、現在世界で問題になっている性被害やジェンダー差別について質問しました。「体はもちろん尊厳も、とにかく自分を守ることが大切だと思う」とフランチェスコ。「教育がなにより大切で、子どもの頃から教えるべき」というサラの言葉に、「自分らしく生きることを、子どもたちに教えることから始めよう」と言葉を重ねました。ジャコモは「実際に女性のコンポーザーや映画監督は少ない」と指摘。イタリアも日本と同じように、現在もなお女性の活躍する機会が少ない社会で、そこには変えていかなくてはならない現実があります。


パートナーシップを結ぶ日本へのメッセージ

3人とも初来日となった今回のミッション。フランチェスコは「日本の映画をあまり観ていないので、もっと日本を知って深く理解したい」とコメント。私たちが映画を通じてイタリアの日常を知るように、日本映画によって世界に知ってもらえることもたくさんあります。「『おくりびと』『ドライブ・マイ・カー』、もちろん宮崎駿の映画、あと『すずめの戸締まり』も観ている」というサラからのメッセージは 「自分の情熱を表現してほしい」。ジャコモは「たとえ困難でも、自分の夢を忘れないでください」というメッセージを贈ってくれました。


さまざまな作品で自分らしく表現しながらも、常に社会に目を向けてメッセージを発信していきたいと考えているイタリアの若手映画人。彼らと手を携えて、日本とイタリアの映画界が発展していく未来に期待が集まります。



ファシリテーター:ティツィアナ・アランプレセ

ライター:嶋田桂子

フォトグラファー:鈴木大喜


イタリア文化担当国務次官ルチア・ボルゴンゾーニ氏からのメッセージ

私たちは、5年かけて「日伊映画共同制作協定」のために活動を続け、本年6月に締結を迎えました。また、「東京国際映画祭」に向けて、若いアーティストたちとプロデューサー、みんな一丸となってプロジェクトを進めてきました。今回の来日を機に、日本側のプロデューサーの皆さまとプロジェクトについてのディスカッションが始まり、まずは「ヴェネツィア国際映画祭」で日本にスポットを当てることが決まり、日本とイタリア初めての共同製作作品の完成と上映を目指しています。さらに、2025年に大阪で開催される「EXPO2025」に向けて、イタリアの文化と創造性を伝える展示を構想し、映画もその一部として大切にしていきたいと考えています。イタリアと日本のコラボレーションを通じて、ずっと続いてきた日本とイタリアの親愛と尊敬が、より深まると信じています。


〈左から〉安藤裕康 東京国際映画祭チェアマン、伊藤信太郎環境大臣、ジャンルイジ・ベネデッティ駐日イタリア大使、ルチア・ボルゴンゾーリ イタリア文化担当国務次官、ロべルト・スタービル CINECITTÁイタリア文化省 映画・視聴覚総局 特別プロジェクト責任者