ART & DESIGN

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廃品に新たな命を吹き込む、若きアーティストの挑戦。|心の旅〜Tizさんと行く日本の中のイタリアVol.7

クリエイティブの原点は電子機器の廃品が詰まった引き出し

イタリア文化のアンバサダー、ティツィアナさんがイタリアニタ(イタリアのスピリット)を探しに日本全国を旅する連載「心の旅〜Tizさんと行く日本の中のイタリア」。第7回は、建築家であると同時に、電子機器の廃品を再利用したジュエリーブランド「ByLUDO」のデザイナーという3つの顔を持つ若きクリエイター、チリッロ・ルドヴィーカさんにインタビュー。



──建築家として隈研吾建築都市設計事務所で働いていた経験のあるルドヴィーカさんですが、日本には何年住んでいたのでしょうか?


ルドヴィーカさん:東京での5年間の滞在を経て去年からローマに戻っていますが、今でも様々なプロジェクトのために日本とイタリアを頻繁に行き来しています。


──今回、来日した理由は何ですか?


ルドヴィーカさん: Jinny Street Gallery(渋谷・神宮前2丁目の中心に位置する屋外アートギャラリー)の企画「Precious Waste」に参加するためです。原宿の商店街にある42個の小さな街灯路ケースに私の作品を展示するという今回のプロジェクトは、私にとって非常にエキサイティングで新しい挑戦となりました。



──建築家、アーティスト、デザイナーと3つの顔を持つルドヴィーカさん。あなたのそのクリエイティブに対する情熱は、どこがスタートとなっているのでしょうか?


ルドヴィーカさん:私が生まれた時代には、すでにテクノロジーによる廃棄物が身の回りにたくさん溢れていました。それはもちろん、私の家の中にもです。引き出しの中に使われなくなったイヤホンや電気ケーブル、廃れたパソコンのキーボードなどが詰まっているのを見て、それらを捨てずにどうにかアート作品へと昇華できないかと考えました。それが2010年の15歳のとき。そのときのインスピレーションが、現在の「ByLUDO」のルーツとなっています。



建築家を目指したのは、廃棄物を再利用する手作りのアートから、さらに発展させたものを創造したいと思ったから。そして建築について学ぶため、ロンドンの大学に入学しました。そこでは、さまざまなマテリアルから全く新しいものを作るという実験的な建築の学びをたくさん経験することができました。


そしてあるとき、日本人建築家のおもしろいプロジェクトにとても興味が湧いたんです。そこからさらに日本の建築について知りたいと思い、隈研吾建築都市設計事務所で働くことを決めました。それがプロの建築家としてのキャリアの始まりです。


隈研吾建築都市設計事務所 で働いていた期間は、日本の伝統や文化、アートから本当に様々な影響を受けました。そして、それを「ByLUDO」の新たなプロジェクトのインスピレーション源とし、2021年10月にHaco Galleryで開催された「Umarekawaru: Born After Waste」展では「ByLUDO」の新コレクション「Mottainai」を発表しました。同コレクションは、伝統的な日本の工芸技術である“金継ぎ”“水引”“折り紙”の3つをキーに構成しています。



──今回のコレクションでは、日本の伝統技術からのインスピレーションをどのように反映させているのでしょうか? また、イタリア文化からのアイディアもあれば、どのように融合しているのか教えてください。


ルドヴィーカさん:例えば、“金継ぎ”をインスピレーションにした作品は割れてしまったCD-ROMをつなぎ合わせているのですが、イタリアに古くからあるモザイク文化も取り入れています。2つの文化の要素をうまく組み合わせて、イタリアのノスタルジックなセンスを感じるコルセットをイメージしたジュエリーを作りました。


“折り紙”をテーマにした作品では、これまでキーボードの外側の部品を使ってジュエリーをつくっていたのですが、はじめてキーボートの中の部品である電極シートを紙に見立てて、折り紙のように畳んで形を構築しました。


“水引”のテクニックを使った作品を作る際は、まず水引の歴史から勉強しました。水引のはじまりは、侍の髪を結うための技術だったそうです。それがのちに、贈答品や封筒などに添えられる美しいデコレーションの一部となった。そのように形を変えながら残っている伝統技術に、私はさらに新たな一面を加えようと、コンピューターのケーブルで水引をモチーフにしたジュエリーをつくることを思いつきました。日本のクラシカルな伝統のスピリットは現代にも生きています。生きているからこそ、また新たなモノへと生まれ変わることができるということを表現したかったのです。


新旧の融合により生まれる新たなアートを探究

──さまざまな廃棄物から素材を選び、それらを組み合わせながら作品をつくる際、アイディアのベースとなっているものはありますか?


ルドヴィーカさん:クラシカルな時代の要素と現代のテクノロジーをどのように融合させるかということは常に考えています。あと、古代エジプトの王妃であったネフェルティティからも大きな影響を受けています。例えば、彼女が身にまとうゴージャスなビジューの装飾は、現代のテクノロジーであれば大きなマウスを使って表現します。どんなクリエイティブにおいても、古いものと新しいものをミックスさせることが好きなんです。


──あなたのデザイナー、建築家、アーティストの視点から見て、クラシックとコンテンポラリーを象徴するものは何でしょうか?


ルドヴィーカさん:私はローマに住んでいるので、素晴らしいクラシックなデザインに常に囲まれて生活しています。その中でも特に象徴的な存在といえるのが、古代ローマのパンテオン神殿です。


パンテオン神殿

一方、コンテンポラリーを象徴するものが何かと考えると、日本の豊島美術館でしょうか。建築家の意匠と水・風・光といった自然のエレメントが融合した空間には、その瞬間にしか認識することができない光景があります。今の一瞬を感じる、まるで瞑想空間のような場所です。

出典:ベネッセアートサイト直島

──ルドヴィーカさんが理想とする未来の建築とはどんな場所ですか?


ルドヴィーカさん:さまざまな国、文化、バックグラウンドを持つアーティストたちが集まり、それぞれの知る新旧の技術や情報をシェアしながら新しいアートを発信できる場です。


──隈研吾建築都市設計事務所にはまさに、さまざまな国から異なるバックグラウンドを持つ人たちが集まっていたかと思いますが、そこで働いた経験はどうでしたか?


ルドヴィーカさん:隈研吾建築都市設計事務所ではたくさんの異なる文化の人たちと関係を築くことができ、本当に貴重な経験をすることができました。最も印象深い思い出は、トルコ人、インド人、レバノン人、マケドニア人、ボリビア人と私を含む7人の女性建築家のグループで、日本のアイコニックな建築物を訪ねる旅をしたことです。各人のバックグラウンドにより、建築物に対して抱く感情や考え方、見方が異なり、それらを共有できたことはとてもおもしろい体験でした。


また働いているときには、型にはまらない考え方を持つ人たちが多く集結していたことで、これまで考えられなかったような全く新しいアイディアが次々と出てくる瞬間というのをたくさん目にしてきました。そういった才能に恵まれた仲間とともに仕事をできたことは、大変ありがたいと思っています。


──一定のルールがある建築家と、より自由度のあるアーティストでは仕事の進め方や生活も異なると思うのですが、ルドヴィーカさんはライフスタイルをどのようにわけているのでしょうか?


ルドヴィーカさん:昼は建築家、夜はアーティストの時間へと切り替えます。だから、あまりゆっくり眠れることが少ないですね(笑)。本当はこんなふうに分ける生活はしたくないので、将来は同じスタジオ内で建築家、デザイナー、アーティストとしての仕事をボーダレスに楽しめる生活を送ることが夢です。


作品を通してエコや環境への意識を広めたい

──ルドヴィーカさんご自身が持つイタリアンスピリットとは何か教えてください。


ルドヴィーカさん:フレキシブルで、どんな状況にも適応しやすいのがイタリア人の長所だと思っています。また、プロジェクトで何か問題に直面したとしても、クリエイティブな思考で多角的に解決方法を提案できることも私たちの特徴のひとつではないでしょうか。


さらにイタリアでは昔から、リユースやリペアを何度も繰り返しながらモノを大切に長く使うという生活が根付いていると思います。私の家庭もやはりそうでしたし、実際それが私の今のクリエイティブの原点にもなっています。


──日本でも昔から“もったいない”という言葉と概念がありますが、現代の日本では毎日大量のゴミが発生していますよね。特にファストファッションやフードロスによるゴミは深刻です。それについてはどう考えますか?


ルドヴィーカさん:日常のささいなことで構わないので、ひとりひとりがゴミを減らすといことを少しでも意識することがまずは大切なのではないでしょうか。エコ先進国であるヨーロッパに比べてしまうと、日本はやはりまだエコに対する意識が遅れているように思います。だからこそ、ここ日本でリユースやエコという言葉をあえて使いながら、私の作品を見せることで少しでもエコが浸透するきっかけをつくれれば嬉しいです。



──最後に『ITALIANITY』読者に向けてメッセージをお願いします。


ルドヴィーカさん:モノに終わりはありません。たとえ一度ゴミになってしまったとしても、その全てが新たに生まれ変わることができます。それは私たち人間の在り方も同じです。毎日を大切に過ごしながら、あたもいつでもトランスフォーメーションできるのだと信じて、新しいことにチャレンジすることを恐れないでください。


チリッロ・ルドヴィーカ

15歳から電子機器の廃品を再利用したアートの創作をスタート。イタリア青年省主催の第1回TNT展には16歳で参加し、200人の「才あるイタリア人」に選出される。その後、建築を学ぶためのロンドン留学を経て日本へ移住。建築家として隈研吾建築都市設計事務所で働く。現在はローマと日本を行き来しながら建築家・アーティスト・デザイナーとしての活動を行う。

https://www.byludo.com/


Jinny Street Galleryは、地元の人から「神二」と呼ばれる神宮前二丁目商和会の中心部に位置しているギャラリーで、道中に散らばっている小さな展示ケースが特徴です。Jinnyは、あてのない散歩を愛し、あらゆる形や色で現れる街に魅了され続けるフラヌールのためのものです。どこに向かうわけでもなく、歩みそのものを楽しみ、美しいものに心奪われる瞬間を重んじる彼らにとっての原点なのです。 https://www.jinnystreetgallery.com/

Lorenzo Menghi / Founder
Toto Tvalavadze / Founder