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鎌倉の古民家に住みデザインやアートでイタリアの美を表現|心の旅〜Tizさんと行く日本の中のイタリア Vol.3

イタリア文化のアンバサダー、ティツィアナさんが、イタリアニタ(イタリアのスピリット)を探しに日本全国を旅する連載、「心の旅〜Tizさんと行く日本の中のイタリア」。第3回は、神奈川県の鎌倉に住む建築家でデザイナー、アーティストでもあるセルジオ・マリア・カラトローニさんを訪ねました。


セルジオさんは東京大学総合研究博物館の客員教授のほか、イタリア・ミラノのブレラ国立美術学院やボッコーニ大学などで教鞭を取ってきました。また、ハナエモリや資生堂をはじめ、世界各国の大手企業の様々な分野のデザインで功績を残し、数々の栄誉ある賞を受賞しています。気鋭の芸術家でもあるセルジオさんは、現在は鎌倉の古民家で暮らし、故郷パヴィアのアトリエへ往き来しながら制作を続けています。


日本に住んで13~14年。1980年代、森英絵(もりはなえ)さんと一緒に仕事をするために初来日し、『ハナエモリ』のショップデザインを手掛けました。その仕事が終わって一度イタリアに戻った後、再び日本に住むことになります。ティツィアナさんがお話を伺いました。



イタリアの革新的な精神を日本へ


──来日以前、イタリアでは何をやっていたのですか?


セルジオ:当時はミラノファッションを夢見て、ファッションショーのグラフィックなどをやっていました。80年代のミラノファッションはバブルでした。同じ時期、ファッションデザイナーの友達と『Zeus(ゼウス)』というデザイン会社を作り、industrialのデザインをやっていました。当時の会社はマス・プロダクションができるデザイナーを求めていて、自分でデザインして作り、職人的アプローチで自分で売るコンセプトでした。


売り方も従来とは違う面白いもので、文化的なイベントやパーティを通して売っていました。ファッション、インテリア、さまざまなデザインを作り、それらが全て同じショップで買えるという新しいコンセプトでした。今では当たり前といえますが、30年前の当時は新しい試みでした。売上も最高となり、ミラノとNYでギャラリをオープンすることができました。革新的なパートナーと、サロンの外でイベントもたくさんやりました。



──セルジオさんはデザイナーとして、革新的なイタリアの精神を日本に持って来ました。当時、日本人はファッションとデザインに大きな憧れを抱いており、デザイナーであるセルジオさんを温かく出迎えてくれました。


さまざまな大きなブランドの仕事をしてきましたが、セルジオさんはご自身の創造性のためのデザインを重要視していました。それは日本人の期待に応えていないと言えますが、日本人のお客さんが期待することも無視せず、トータルクリエイティブで独自の創造性を効かせて仕事をしていたからこそ、成功したとも言えますね。


セルジオ:資生堂を例に話しましょう。昔の資生堂は、ブランディングからデザイン、クオリティ、そしてコミュニケーションといったパッケージング全てが最高でした。ケアも高く、とても憧れたブランドでした。なぜ私が資生堂を選んだかというと、彼らのアプローチを理解して一緒にコラボレーションができたからです。美しく芸術的でエモーショナルでないデザインは、イタリアのデザインとは言えないのです。



素敵なデザインは世界各国にあります。しかしイタリアでは、詩的な要素を含めないと美しいデザインとはいえないのです。日本にも美しい要素はたくさんあります。「ビューティ」という言葉はどこの国にもありますが、「ビューティ」の感じ方はそれぞれ違うのです。


「感情」は時間をかけて作ることを日本で学んだ



──日本の場合はどうですか?


セルジオ:難しいコンセプトですが、われわれ西洋人には、古くから哲学的な思想や幾何学的な面があり、そこに価値があります。日本は全く異なるコンセプトで、物から精神的な要素が生まれます。そのダイナミズムを日本の特徴として学びました。


日本では、慌てないで待ち続ける“サイレンスの時間”も大事。これは激しい感情から、さらに大事な感情を生み出せると考える西洋やイタリアには全く無い思想です。たとえば資生堂とコラボレーションすると、資生堂が作りたかった香水の中身が終わっても、香水のボトルを家族のように持ってもらうことを目的とします。


自然な動きを加えることができるのが、日本のエッセンスです。日本では慌てず待つ、静かな空間でより新しい感情が生まれること、「感情」は時間をかけて作ることを学びました。今、日本が持つ静かな雰囲気をもとに、やりたかったことを日本で実現できていると思います。



アートの“掛け持ち”から生まれるクリエイティビティ


若い時はリベラルアートから出て、いろいろなブランド、マーケティング、デザイン、あちこち旅をして、アートに戻りました。アートは写真、陶芸、彫刻、ペインティング、この4つのメディアが好きです。4つすべてを深く追求するのは、日本ではかなり変わっていると考えられます。専門的に陶芸家はずっと焼き物を、画家はずっと絵だけを描き続けますね。でも私は4つのメディアに同じように情熱、エネルギーを持っていて、それを使いながら毎日進めたいと思っています。


クリエイターと言って威張っている人も多いですけど、私の場合は「クリエイトすることは生きる」こと。生き方に対してクリエイトするというシンプルさで、クリエイターと言われることでエゴを満足させることはありません。ここに住みながら、私は毎日、私らしくあることを探しながら生きています。アートを作るということは、「私」をどんどん見つけることなのです。



焼き物から写真まで、4つのメディアの中でいろいろな切り替えができます。焼き物を作りながら、待ち時間でペインティングのことやほかのアートのことも思い出しています。このようなやり方は、自分の中にたくさんのクリエイティビティをオープンにできます。例えばもし私が焼き物ばかりすると、このような変化の可能性や新しい閃きがすごく狭くなってしまいます。この待ち時間を通したやプロセスは自分にとってとても大事なのです。


このような「アート」はイタリアのルネサンス(文化運動)であり、DNAに刻み込まれている“イタリアらしいビューティ”の探し方でもあります。私たちイタリア人にとって、経験を通してビューティーを作ることがアートです。常にリスクをとって、間違って、そこからまた新しいものが生まれる。それが大事なプロセスなのです。日本の場合、先生から教えられたやり方に基づいてずっと同じスタイルを貫きますが、イタリアのアートでは、イノベーションを重視します。冒険をして、初めてそこからビューティが生まれるのです。


ミケランジェロにしろ、アーティストはひとつのアートだけを探求するわけではありません。彼らは、詩に焼き物にペインティングなど、なんでもできたアーティストで、これはイタリアンスピリットのビューティーの探し方なのです。



伝統と自由さを融合して表現


──今日はセルジオさんの最新の展示会(焼き物)に来ています。一般的なあなたのプロジェクトについて教えてください。


セルジオ:今回展示しているのは、日本料理のための焼き物です。日本料理は季節のインスピレーションもあって、とても複雑な造りです。一点ずつの見せ方もとても大事ですね。私が考えたのは、特別な焼き物ですけれども。


──日本の焼き物とセルジオさんの焼き物は、どのような違いがありますか?


セルジオ:これまで、昔からの伝統を活かし現代の芸術に進化しながら、芸術家たちによってさまざまな焼き物が作られてきました。ですが私はアーティストなので、やり方も、形や色なども日本の伝統的なスタイルとは違っています。その上、私の作る焼き物の中にはヨーロッパやイタリア人ならではの魂も見られるようになっています。伝統より自由さがあります。


伝統をわかった上でもう少し自由に表現できれば、もっと自分のスピリットを見せられる。そういうプロジェクトになっています。この展示会プロジェクトでは、日本の食の見せ方についてもっと探求したいという思いと、日本文化への愛情、焼き物について深く知りたい情熱から作られました。


プロフィール

セルジオ・マリア・カラトローニ(Sergio Maria Calatroni)/1951年イタリア共和国ロンバルディア州サンタ・ジュレッタ生まれ。1975年セルジオ・カラトローニ建築デザインスタジオ設立。建築家、デザイナー、アーティスト。クンストパラスト美術館(デュッセルドルフ、ドイツ)や京都国立博物館をはじめ、国内外の美術館で展示。ブレア美術大学・デザイン科(ミラノ)の教授と2007年より東京大学・総合研究博物館客員教授も務めるが、現在は日本とイタリアを中心に制作活動に専念する。

《これまでの主な受賞歴》
資生堂『untied』『ステファンマレィ』のパッケージングやグラフィックデザインで、東京ディレクターズクラブよりADC賞受賞、通産省よりデザイン賞受賞、ロンドン国際広告大賞受賞など多数受賞。

建築・設計においては、シリアの日本大使館設計、ナポリ、ソンマの東京大学考古調査区のための建物設計など多数担当。そのほか、イタリア・ミラノのヒルトンのショップデザインや世界各国のステファン・マレイのインテリアデザイン、アートや家具、ファッションやコスメティックなど多岐にわたる分野でブランディングを担当。

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