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ピノ・ノワール好きの林さんにイタリアワインをすすめて、新刊『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』についてインタビュー【イタリアワインと私】番外編:林伸次(「Bar Bossa」マスター、作家) | Bar Bossa Pinot Noir

番外編は趣向を変えて、逆レコメンド!

今回は「イタリアワインと私」の番外編です。

奥渋谷のワインバー「Bar Bossa(バールボッサ)」のマスターであり人気エッセイストでもある林伸次さんに、初の小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎)についてインタビューさせていただきました。

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連載「イタリアワインと私」では、毎回ご登場いただくワインの専門家に、オススメのイタリアワインを紹介していただいています。今回も、ワインバーのマスターである林さんに、おススメのイタリアワインを聞いたところ、「イタリアワイン…僕、あんまり興味ないんです」というお答えが・・・。

急きょプランを変更し、ピノ・ノワール好きの林さんに「おいしい!」と言ってもらえるイタリアワインを、私から林さんへ逆レコメンドすることにしました。

ふたりの師匠に応援を要請。「3.5軒茶屋のゲーテ」こと佐久間努さん(デポーズィト バガーリ)にアドバイスをもらいつつ、「神宮前のワイン探偵」こと別所正浩さん(ラ・カンティーナ・ベッショ)に2本セレクトしてもらいました。

お題は「ピノ・ノワール好きの林さんにもオススメのエレガントなイタリアワイン」。

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1つめは「Passo Rosso(パッソ・ロッソ) 2014」。エトナ・ロッソD.O.C.。シチリアのエトナ火山の斜面(標高1000m以上)で作られるネレッロ・マスカレーゼ種100%。

2つめは「Montigiano(モンティジャーノ) 2014」。トスカーナ州の生産者Il Borghetto(イル・ボルゲット)によるもので、サンジョヴェーゼ100%。

はたして、林さんの感想は!? 日曜日の夜に、ソムリエの奥様とふたりで飲んで感想を送ってくださいました。その感想は、インタビューの最後に。

イタリアンは、ソムリエとの会話が楽しみ

――ピノ・ノワールがお好きとのことですが、イタリアワインについては、いかがですか?

林:イタリアンのリストランテに行くと、「僕、イタリアワイン、わからないんです」ってことを先に伝えるんです。そして「ブルゴーニュのピノ・ノワールが好きで」「そんな人のためのワインってありますか?」って尋ねるんです。そしたら、そのリストランテのソムリエのセンスがよくわかるんですね。

「イタリアワインは品種がすごく多いのと、同じ品種でも作り手によってまったく違うので、イタリアンの場合は、ソムリエに任せたほうがいいですよ」っておっしゃるソムリエの方が多いですね。あと、イタリアンの場合、郷土料理とその土地のワインを合わせるということもありますし、確かにソムリエの方にお任せするのがいいと思います。

「じゃあ、お任せします」ってことになると、ピノ・ノワール、イタリアだとピノ・ネロなので、まずは、そのリストランテにあるピノ・ネロをすすめてくれます。ただ、ピノ・ネロってなぜか樽を使いすぎていることが多くて、「ちょっと違う」ってなりがちなんです。ピノ・ノワールは酸味を上品に表現しているところが好きなので、むしろサンジョベーゼで酸味をうまく表現しているワインをすすめてくれるソムリエの方もいて、そちらのほうが好みの味だったりします。そういう、ソムリエとのやりとりが、イタリアンのリストランテに行く楽しみですね。

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恋愛は流行らない!?

ここからは、林さんの新刊小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎)についてのインタビューです。

林伸次

――どのお話も好きですが、とくに、恋愛の始まりから終わりまでを春夏秋冬にたとえた「恋愛に季節があるって知ってますか?」が大好きです。冒頭から、もう号泣しながら読みました(ここで立ち読みができます ☛ https://cakes.mu/series/4128)。  

林:僕は恋愛って、誰でも興味があることだと思ってたんですけど、恋愛というコンテンツは、もうウケなくなってるそうです。この本を担当してくれた編集者が「恋愛小説って、売れなくなってるんですよ」って。

この本は、小西康陽さんが気に入ってくださって帯の文章を書いてくれたんですが、男性でも女性でも年齢は関係なく「女子力」の高い人は「よかった」って言ってくれるんです。でも、そういう人って、少数派になってるんだなって。

できることなら永遠に続編を読んでいたい気持ちと、このすこし物足りないような感覚こそが贅沢なのだ、という気持ちとが交錯する。恋愛を人生のすべてと考えている人々のための一冊。
――小西康陽(音楽家)

http://www.gentosha.jp/articles/-/10534

――私なども、小西さんが言うところの「恋愛を人生のすべてと考えている人々」のクラブに属する人間ですし、「恋愛とお酒と音楽がなかったら、人生なんて味気ない」と思うので、その3つがカギとなっているこの小説は、とてもツボにはまりました。生きていくのに不可欠な必需品ではないけど、人生の中で、他では味わえないような高揚感や幸福感を体験できるのが恋愛だと。

林:そう思います。

――恋愛も小説も、だんだん貴族の楽しみみたいになっているのかもしれませんが、1500円前後で、人生の最高のラグジュアリーを楽しめるなんて、小説ってなんてコスパがいいんだろうと思いますが。

物語で鎮魂する

――恋愛についての短編集であり、この本全体として奥様へのラブストーリーになっているという構造ですね。

林:え? そうでしたっけ?

――若い頃に、小説家になると奥様に約束して、その約束を果たすために小説を書いた、と。

林:ああ(笑)、はい、そうです。そういう意味では、冗談抜きで、妻のために書いている部分はありますね。僕、有名になりたいっていう気持ちはないんですが、ただ、この本に関しては、本がちゃんと売れて、妻に喜んでほしい、という気持ちがあります。

――出版されて、奥様の反応はいかがでしたか?

林:妻が電車の中でこの本を読んでいて、「もう少しで、乗り過ごすところだった」と言っていて、それを聞いて「あ、よかった」って。引き込む力があるんだなって、ホッとしました。

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――私はお能が好きなんですが、お能でよくあるのが、恋愛の情念が強すぎて成仏できずに怨霊になってしまった魂を、旅の僧が鎮魂して成仏させるお話です。林さんは、そういう浮かばれなかった恋愛を、毎晩、ここで成仏させているんだなと思いました。つまり、バーのマスターというのは、お能における旅の僧なんだって思って腑に落ちました。

林:同じことを別の方にも言われました。「こうして物語にすることによって、鎮魂させてるんですね」って。

――まさに「物語にすることで、鎮魂する」ですね。この世とあの世のあいだにある「バー」という場所で。あと、この本を読んでいて、1つだけ「あれ?」って思ったことは、お客さんがひとりでこのバーに入ってくることで、Bar Bossaは「おひとりさま、お断り」のお店なのに・・・って。

林:・・・この本を出してから、ときどき言われるんですけど、この小説の舞台になっているバーは架空のバーで、このバー(Bar Bossa)とは違うんです。

――えーっ、そうなんですか!?

林:これは僕の頭の中にあるバーです。

――渋谷にはない?

林:僕の頭の中にある渋谷のバーです。小説を読んでからうちのお店に来てくださって、小説に出てくるお酒を注文するお客様がいるんですけど、「すいません、うちはワインバーで、マティーニとか、カクテルはできないんです」って。音楽もボサノバしか流していませんし。小説の中のバーでは、ジャズとかポップスとか、いろんな音楽をかけてますが。

――この本を読んで、「Bar Bossaはワインバーだけど、じつは裏メニューがあってカクテルも頼めたんだ・・・」って勘違いしてました。

林:最近、そういうお客様が増えてきたんで、「これはフィクションです。本に出てくるバーは架空のバーで、Bar Bossaとは違います」って書かなきゃって思ってるところなんです。

というわけで、小説の中に出てくるバーと、実在のBar Bossa、両方をぜひ訪れてみてください! 

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おすすめしたイタリアワインの感想はいかに!?

さて、2本のイタリアワインについて、「Bar Bossa」のソムリエである林さんの奥様からコメントをいただきました。

1.パッソ・ロッソ
「バラ、よく熟した梅のデリケートな香り。キュッとした美少女。
皮付きのすももを口に入れたナチュラルなニュアンス。
雑味なく、ピュアな味わい。余韻長く、アルコールのボリューム感が長く残る」

2.モンティジャーノ
「バラと、よりぎゅっとしたベリー香に、鼻に抜けるミント香。土のニュアンスもあり複雑。
こなれたタンニンがよく溶け込んでいる。
熟成感と重厚感があるのに重すぎず、モレサンドゥニを思わせる」

「どちらも美味しいのですが、 サンジョヴェーゼ(モンティジャーノ)の方が『ブルゴーニュ感』があってすごく美味しかったです」

なるほど! 
モンティジャーノ、私も飲みたくなりました! これから「ラ・カンティーナ・ベッショ」へ買いに行ってきます!

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INFORMATION
Bar Bossa(バールボッサ)
東京都渋谷区宇田川町 41-23 第2大久保ビル 1F
http://www.barbossa.com/

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