ART & DESIGN

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まるで芸術。クリスマスに欠かせないナポリの伝統「プレゼーペ」とは? 

「プレゼーペ」を知っていますか?


プレゼーペとは、イエス・キリストの誕生を芸術的に表現した模型で、ラテン語で「飼い葉桶」を意味する“praesepium”が語源となっています。宗教的な伝統によると、イエス・キリストは、母のマリア、その夫のヨセフと2つの動物、牛とロバに見守られ、飼い葉桶の誕生したと伝えられています。


ナポリの伝統“プレゼーペ”の歴史

プレゼーペは、イタリアのナポリでもっとも素晴らしい表現のひとつです。何世紀にもわたって、現在の姿まで変化し続けてきました。それでもその宗教的な意味は今も変わらず、多くのキリスト教徒にとってはクリスマスに欠かせない信仰の表現です。同時に、芸術的な観点に魅了された多くのプレゼーペ愛好家にとっても、なくてはならない存在となっています。


プレゼーペが初めて作られたのは1223年。ウンブリア州リエーティ近くの小さな町グレッチョで、アッシジの修道者・聖フランチェスコの依頼によって制作されました。


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小林 真子 / 2020.09.04


聖フランチェスコは、キリスト降誕の場面に自身の物質的な貧しさと質素さを反映させようと考え、美意識を満たすための「見世物」にするつもりはありませんでした。そのため、初期の降誕シーンにはイエスの家族は登場せず、洞窟の中に飼い葉桶が置かれ、牛とロバがいるというシンプルなものでした。その後、ナポリで他のキャラクターが登場し、キリスト降誕のシーンは芸術まで高められていきます。


16世紀になると、プレゼーペはさらに発展し、新たな多くのキャラクターが登場するようになりました。イタリア人の司祭ガエタノ・ダ・ティエネの創意工夫により、キリストの誕生に関連したよく知られるキャラクターが登場するようになったのです。



ナポリの古典的なプレゼーペは、18世紀のナポリを舞台に伝統的なイエスの誕生を表現したものです。カンパニア地方の首都でプレゼーペがもっとも有名になった時代であることは特筆すべき点です。


実際、ブルボン家のシャルル3世の時代には、ナポリの経済と文化が大きく発展し、キリスト降誕祭も新たな価値を獲得しました。王はカゼルタ王宮(現在も見学可能)に展示するために、宮廷用のプレゼーペを欲しがったそうです。特に当時の貴族たちは、自身の作品で王の賞賛を得ようと競い合っていたのです。


時が経つにつれ、プレゼーペは、最初の質素で飾り気のない本来の特徴を失い、より変化に富んだ、時には荘厳な舞台装置へと変化していきました。


プレゼーペの背景の部分を『スコッリオ(Scoglio)』といいます。シンプルに飼い葉桶のみだった当初のプレゼーペは、次第に、山や上り坂、下り坂、路地、階段などの風景を取り入れた精巧な造りになっていきました。やがて、キリスト降誕の舞台をデザインする“フィギュリナーイ”と呼ばれるプレゼーぺデザイナーが現れ、実物大ではなく、テラコッタ(素焼きの焼き物)やガラス、木、鉄などの素材を使った小さなサイズのキャラクター作りに挑戦するようになりました。


聖と俗とが融合した世界


プレゼーペには農民、職人、漁師、浮浪者といったナポリの庶民たちが登場します。キリストの降誕のシーンとともに、市場や居酒屋、店などを舞台に、日常生活や余暇のひと時の姿が模型に表現されています。もはや誕生シーンを神聖化して描いてはいないのです。聖人イエス・キリストは、もっとも階級が低いとされる人々が暮らす俗世間の中で生まれたのです。


キリスト降誕の場面では、登場人物をできるだけリアルに表現するために、主に宮廷の女性たちが手作りした布や織物を着せました。さらに重要な人物には、当時の金細工師が作った本物のミニチュア・ジュエリーを身につけさせています。


18世紀のナポリのプレゼーペが表現したイエスの誕生は、こうした聖と俗の完全なる融合であり、同時に当時のナポリの生活を忠実に表現していることから、研究者にとって歴史的価値のある発見となりました。労働者階級の家庭では、華やかさや豪華さはないごくわずかな登場人物と小さな岩だけで構成されたプレゼーペが広まると考えられていたからです。


当時の作品で現在も残っているいくつかの作品には、カゼルタ王宮に保存されている大きな王家のプレゼーペや、劇作家のミケーレ・クチニエッロ (Michele Cuciniello)がナポリ市に寄贈し、チェルトーザ・ディ・サン・マルティーノ (Certosa di San Martino)の美術館に保存されているものがあります。ナポリの伝統的なプレゼーペは、何世代にもわたり、今日に至るまでナポリの人々を魅了し続け、ナポリの芸術文化遺産の一部となっています。


家族全員で作る“わが家のプレゼーペ”

クリスマスツリーが登場した今日でも、“キリスト降誕のシーン”作りには家族全員が参加します。クリスマスまでの期間、ナポリの歴史的な通り、特に古いサン・グレゴリオ・アルメーノ通り周辺に出向いて職人の仕事を鑑賞し、家のプレゼーペを飾るため、手作りの彫像を購入するのです。



この期間、私はナポリを旅行する機会がありました。わが家のクリスマスに欠かせない、キリスト降誕のシーンに情熱を注いでいるナポリ出身の祖父へのプレゼントとして、手作りの彫像を買ってきました。


祖父は毎年、クリスマスが待ちきれない様子で手作りのプレゼーペを私に見せ、エドゥアルド・デ・フィリッポの劇「クピエロの家のクリスマス」の有名な台詞を暗唱して私に尋ねます。”Te piace ‘o Presepe?(私のプレゼーペは好きですか) “と。私は思わず「はい」と答えてしまいました。



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