イタリアは5月18日、ロックダウンが大幅に緩和される新たな局面を迎えました。18日からは外出許可自己申告書の携帯も不要、マスク着用や1メートル以上の距離を空けるなどの制限は継続されますが、デパートや小売、レストランやバール、美容院や図書館などが再開となりました。友人に会うこともこの日から認められることになります。
バルコニーでの歌声が世界中を勇気づけたテノール歌手、フィレンツェの観光名所で「誰も寝てはならぬ」披露
コロナウィルス後における”日常生活”の再スタートとなったこの日、テノール歌手Maurizio Marchini(マウリツィオ・マルキーニ)さんとバイオリン&ギター奏者のGabriele Savarese(ガブリエレ・サヴァレーゼ)さんはフィレンツェ市役所の協力のもと、フィレンツェの観光名所にてGiacomo Puccini(ジャコモ・プッチーニ)作曲のオペラ「Turandot(トゥーランドット)」のアリア「Nessun Dorma(誰も寝てはならぬ)」を披露しました。
美しいフィレンツェの街も堪能できる、彼らのライブをご覧ください。
18日にフィレンツェの観光名所で歌ったマウリツィオさんは、このように話しています。
「”誰も寝てはならぬ” この曲を自宅のバルコニーで歌ってから2ヶ月以上が経ちました。今日は、このアリアをフィレンツェの最も美しい場所で歌うことができるという夢が叶いました。今日は新しいスタートとなる日です。」
マウリツィオさんはリミニ出身フィレンツェ在住で、ロックダウンはフィレンツェの自宅で過ごしました。ロックダウンが始まってすぐの3月13日、フラッシュモブで自宅のバルコニーから「誰も寝てはならぬ」を歌った映像が世界各国へ広まり、全世界から注目を集めました。
「3月13日にバルコニーで歌う曲に”誰も寝てはならぬ”を選んだのは、ロックダウン中の状況下におそらく最も適した曲だと思ったからです。この曲にはエネルギーがあり、歌詞は当時の状況にふさわしく、世界中の何百万もの人々にビデオを通して勇気を与えることができました。」
ロックダウン中の外出できない日々を振り返ると、まだ気持ちの整理がつかないというマウリツィオさん。いまだに夢だったような、というより悪夢だったような日々に感じるそうです。自身のことや家族のことを思うと不安でしたが、新型コロナウイルスが息子の笑顔を奪うことだけは絶対許せず、自分がしっかりしなければと思いながら過ごしていたということです。
「辛くて不安だったロックダウンの終わりの日となった5月18日に、ロックダウン開始すぐの3月13日に歌った”誰も寝てはならぬ”を歌うことは、世界中が闘っている”最初のラウンド”に勝ったぞ!ということを意味すると思って、この曲を18日に歌うことに決めました。友人のギタリストのガブリエレが伴奏をしてくれたので、より一層素晴らしいものになりました。」
強制的に家に閉じ込められている人たちの孤立の苦痛を和らげるために音楽を届ける
ローマ出身フィレンツェ在住のガブリエレさんもロックダウン中はフィレンツェの自宅で過ごし、その間は自宅から友人のミュージシャンたちとコラボレーション映像を配信したり、自宅バルコニーから演奏して、暗く沈んだ街に音楽のメッセージを届けていました。
「ロックダウン中は非現実的な次元で生きているような気分になりました。最初は無力感に襲われましたが、すぐに前向きな気持ちに切り替えて行動に移しました。ミュージシャンでいるということは、私にとってはただの仕事ではなく、責任を持って生きるという使命でもあります。だから、私は自分の音楽を撮影して、強制的に家に閉じ込められている人たちの孤立の苦痛を和らげるために、そのビデオをSNS上などで共有しました。」とガブリエレさん。
「18日のパフォーマンスについてマウリツィオから声をかけられた時、また人の前で演奏を行いたいという熱意を抱きました。そしてこのライブがイタリアとフィレンツェ全体の幸運の兆しになれたら、と。」
「ルネサンス=再生、復活」に向かって少しずつ歩み始めたフィレンツェ
現時点では、イタリアでコンサートや劇場も再開可能になるのは6月15日からと予定されていますが、まだまだミュージシャンにとって先は見えないようです。
「ライブ音楽の復活を心より待ち望んでいますが、不透明な点が多くあります。残念ながら、多くのフェスティバル、コンサート、イベントはすでにキャンセルされ、2021年に延期されています。オンライン上のトリーミング音楽の取り組みなどは既に行われていますが、ミュージシャンの多くは聴衆とコンタクトが取れなくなっています。」とガブリエレさん。
マウリツィオさんも「実際のところは、私も同僚たちも仕事の大部分を既に失っています。仕事はゆっくりと再び咲き始めるでしょうが、時間はかかるでしょう。」と言いつつも、「私たちは自分自身を改革し、新しい働き方を考えなければなりません。幸いなことに、アーティストにとって想像力が欠けることはありません。」と前向きな決意を述べていました。
マウリツィオさんとガブリエレさんのポンテベッキオでのパフォーマンスは、たまたま外出をした際に偶然通りすがりに見つけ、幸運にも生演奏で「誰も寝てはならぬ」を聴くことができました。私にとっても、その場に居合わせたフィレンツェ市民たちにとってもライブ演奏は久しぶりで、現場は暖かい雰囲気に包まれていました。長く厳しいロックダウンがようやく終わりを告げ、街にカルチャーが戻ってきた瞬間。その瞬間に立ち会った聴衆たちからは惜しみない拍手が送られていました。
最後に、印象に残ったマウリツィオさんの言葉をご紹介します。
Ogni periodo buio ha una sua fine, speriamo di svegliarci in un nuovo “rinascimento”=「それぞれの暗い期間には終わりがあります。私達は新しい「ルネサンス=再生、復活」で目覚めたいと願わずにはいられません。」
14世紀以降「ルネサンス=再生、復活」(イタリア語ではリナシメント rinascimento)の中心であったフィレンツェで、市民たちは再びルネサンスに向かって歩み始めています。