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ジャズ・ピアニスト西山瞳がイタリア音楽を深掘り!⑨「イタリアン・ジャズの父」レナート・セラーニ

Hitomi Nishiyama

2025.11.28

ソロアルバムの新譜『Songs』も大好評のジャズ・ピアニスト西山瞳が、イタリア音楽を深掘りする連載。今回は、アメリカの巨匠たちとの共演も多いイタリアン・ジャズ界の伝説的なピアニスト、レナート・セラーニについて語ります。


ピアノを弾く西山瞳
ヘヴィメタルの名曲をカヴァーするプロジェクトでも人気のジャズ・ピアニスト、西山瞳

チェット・ベイカーとの共演で名を馳せたセラーニ

Renato Sellani レナート・セラーニは、「イタリアン・ジャズの父」とも呼ばれる、偉大なピアニストです。
1926年生まれ、2014年に88歳で亡くなったセラーニは、イタリアジャズ界の第一世代です。

イタリアのセニガッリアで生まれたセラーニ。
彼の経歴は、他のイタリアのジャズピアニストと大きく違います。
ピアノの学習は、なんと20歳前後で始めたという異例の遅さ。お母様はオペラ歌手だったそうで、音楽自体は馴染みのある家庭だったかもしれませんが、ローマ大学では政治学の勉強をしていました。第二次世界大戦が終わって数年経った頃、ナイトクラブでジャズに出会い、毎晩聴きに通い、楽器を持っている友人の家で、独学でピアノを始めたとのこと。すぐに自身もナイトクラブでジャズの演奏を始め、チェット・ベイカー(トランペット)と共演するようになります。

ピアノを弾くレナート・セラーニ

チェット・ベイカーの他にも、ジェエリー・マリガン(バリトン・サックス)、リー・コニッツ(アルト・サックス)など、数々のアメリカのジャズジャイアンツと共演。
イタリア国内では、フランコ・チェリ(ギター)、ジャンニ・バッソ(テナー・サックス)やエンリコ・ラヴァ(トランペット)を始め、イタリアン・ジャズの代表的アーティストたちとも共演。特筆すべきは、歌手から伴奏ピアニストとして絶大な信頼を得ており、国内シンガーだけでなく、サラ・ヴォーンやヘレン・メリルなどの伴奏もしていました。



気品の中にユーモアが感じられる魅力的な音色

演奏は終始穏やかで気品があり、派手に見せびらかすことがなく、ゆったりとよく歌うピアノです。その穏やかさに安心して身を委ねていると、突然ユーモアのあるフレーズが入ってきたり、穏やかな音色のまま結構な速弾きをしたり、心地良い裏切りも感じて、飽きることがありません。
この気品とユーモア、全体に横たわる絶大な安心感は、様々な歌手から引っ張りだこなのもとても納得で、“イタリアのハンク・ジョーンズ”などと呼ばれることもあったようです。
(注:ハンク・ジョーンズは、アメリカのジャズピアノの巨人。名伴奏者。)

レナート・セラーニのアルバムジャケット

イタリアのレーベル“Philology(フィロロジー)”で40枚ほど、他にも様々なレーベルでレコーディングが沢山あります。
名伴奏者ということで、参加アルバムは膨大な数にのぼり、私も全く追いきれていません。

私が好きで、今もサブスクなどで聴ける作品をご紹介します。


まずはこちら。リー・コニッツとのデュオ作品『Speakin’ Lowly -Standard Series vol.1-』(1994年)
‘枯葉’、‘My Funny Valentine’など、超有名ジャズ・スタンダードばかり演奏している作品ですが、セラーニの自然体な演奏が絶妙で、大好きです。



通常は、管楽器からピアノにソロが回ってきたら、「はい!私がこれから頑張ります!」と、張り切ってピアノソロが始まることが多いのですが、上記動画のトラック‘I Can’t Give You Anything But Love’で、セラーニがソロを受け取った時の自然さ。全く難しいことはせず、ひたすら自然で気品があり、夢のような気分になります。
リー・コニッツは、このフィロロジーというレーベルで、イタリアのピアニストとの素晴らしい共演盤を何作も残しているのですが、中でも出色の出来だと思います。それは、セラーニの、目立たないけれど懐の深い、滋味深い演奏によるところが大きいと思います。


愛情あふれるイタリアン・ジャズの真髄

そして、イタリアを代表するジャズ・トランペット奏者エンリコ・ラヴァとのデュオ作『Radio Days』(2000年)



ほぼイタリアの曲ばかり演奏。イタリアン・ジャズを追いかけている人にはお馴染みの、明るく美しいイタリア曲が並びます。
ラヴァも少しスモーキーな音色でシンプルに歌い、本当に鼻歌を歌っているように楽々と、美しいメロディを吹いていきます。
このアルバムに収録しているイタリア曲は全て、セラーニは色んな編成で何度も何度も録音しているんですね。おそらくずっと、生涯の演奏活動のテーマにしておられたのだと思いますが、曲に対する愛情とおおらかな歌い方は、聴いていてなんとも暖かな気持ちになります。お家でのセッションにお邪魔したような、親密なデュオ演奏。素晴らしいです。


配信で甦る過去の名演の数々

日本のジャズレーベル“ヴィーナスレコード”からも、何枚かアルバムが出ています。

『Body And Soul』(2008年)は、イタリアを代表するテナー・サックス奏者ジャンニ・バッソとのデュオ。



私も大好きな曲‘Ma l’amore No’ 、ジャンニ・バッソのワイルドだけど優しい歌い口に、セラーニの上品に躍動する演奏、こんな楽しく素敵な演奏を近くで聴いたら、もうずっと笑顔になりますね。


レナート・セラーニはもう亡くなって10年以上経ち、その長いキャリアからCDやレコードはほとんど廃盤だと思いますが、配信のおかげで過去のカタログが沢山聴きやすくなりました。
ぜひ聴いて、穏やかで上品な音に包まれてみて下さい。


西山瞳「Songs」のアルバムジャケット

Songs / Hitomi Nishiyama 3,520

西山瞳初期のオリジナル曲を、ピアノソロで収録した「Songs ソングス」。秘めやかに紡がれる、珠玉のピアノ・コレクションが10月1日に発売されました。「Songs」発売記念のソロライブも開催中!


西山瞳 公式サイト  https://hitominishiyama.net/