近年、ヨーロッパの気候が変わり、涼しい国なはずのイギリスでさえ猛暑が報じられていますが、イタリアも負けてはいません。でも日本との違いは湿気が少なく（地方によりますが…）、夕方以降は過ごしやすいこと。イタリアはもともと夏の習慣として午後に出歩く人は少なく、夕方以降に街に繰り出すことが多いのもこの気候に合わせているのでしょう。夕食の後に外出し、広場で友達と会ったり、ジェラートを食べながらそぞろ歩きを楽しんだりすることが多いのです。
夏のイタリアには外国からの観光客も詰めかけます。彼らは昼に観光、グルメなどを楽しんだ後、夜は野外コンサートに出かけることも。海岸リゾートでは、夜の浜辺でダンス・イベントが開かれるのがお約束です。
アレーナ・ディ・ヴェローナのオペラフェスティバル
一方、シェイクスピア「ロミオとジュリエット」の舞台として有名な北イタリアの都市ヴェローナでは、古代ローマ時代の遺跡である円形闘技場アレーナ・ディ・ヴェローナを使った野外オペラが世界的に知られています。
アレーナ・ディ・ヴェローナは紀元一世紀に建てられました。当時はグラディエーター（剣闘士）の闘いが見せ物として絶大な人気を誇っていたのです。この遺跡を使って夏に野外オペラが始まったのは1913年でした。大理石でできた階段状の客席は声をよく伝えて音響が抜群だったので、夏の大勢の観客のためのオペラ上演にうってつけの場所だったのです。
古代ローマ時代には30,000人を収容したというアレーナですが、現在の客席数は約1万3000。音楽祭の一夏の平均公演数は約50公演、観客数はのべ40万人と発表されています。人口26万人のヴェローナ市にとってこの野外オペラがいかに大きな産業であるか想像できる数字です。
チケットは、一階席（土間席）がもっとも値段が高く、着飾った観客の姿が目につきますが、多くの観光客は石の段々の上の方の席に座ります。一番音がいいのは、石の段々で下から三分の一くらいの、舞台に比較的近い場所です。チケット代は28ユーロから300ユーロまで（2022年）。安い席でも十分楽しめます。
ヴェルディ《アイーダ》が人気！ オペラのスペクタクル作品を上演
オペラが始まるのは日が沈んでからです。そのため開演時間は6月は21時15分、7月は21時、8月は20時45分とだんだん早くなっていきます。雨が降ったら公演は中断し、天気予報によって30分ほど待ってまた再開、ということも。
開演時間が遅いいので、オペラが終わるともう真夜中です。劇場を出るとヴェローナの街はすっかりひんやりとしています。アレーナがあるのは街の一番の中心地のブラ広場で、そこにはオープンエアのレストランがずらっと軒を並べています。生ハムとメロンやピッツァ、そしてワインを片手に今観たオペラについておしゃべりする時間は公演そのものよりも楽しいことがあるくらいです。
音楽祭で取り上げられるのは有名なオペラばかりで、巨大な舞台に映えるスペクタクルな作品が人気です。もっとも上演が多いのはジュゼッペ・ヴェルディ作曲の《アイーダ》。ちなみにこの音楽祭は、恒例となってからは戦時中を除き毎年行われていますが、必ず上演されるのがこの《アイーダ》なのです。
現在のプロダクションは映画監督としても有名なフランコ・ゼッフィレッリ演出のもの。惜しくも2019年に亡くなったゼッフィレッリは、大規模で写実的な舞台セット、人海戦術、そして大きな舞台を持つアレーナだからこそ映える本当の動物（馬が多いです）を登場させることで知られていました。他にも人気の高い作品はビゼー《カルメン》、そしてヴェルディの《ナブッコ》《椿姫》、プッチーニの《トゥーランドット》など。
アンナ・ネトレプコはアレーナ・ディ・ヴェローナの一番人気！
アレーナ・ディ・ヴェローナはキャストも一流歌手が多く出演します。近年のアレーナ・ディ・ヴェローナの一番人気は、ロシア出身のソプラノ歌手、アンナ・ネトレプコです。今年もヴェルディ《アイーダ》や、プッチーニ《トゥーランドット》に出演し絶賛されています。ネトレプコはオペラ界の圧倒的なトップ・スターです。今年ロシアがウクライナに侵攻してから、彼女はプーチン大統領を非難する声明を出さなかった結果、数ヶ月オペラやコンサート出演から遠ざかっていましたが、その後ウクライナに対する戦争を非難する態度を明確にし、ヨーロッパでは完全復帰を果たしました。
ファッションやグルメの投稿で華やかなアンナ・ネトレプコのInstagram
ネトレプコは確かな音楽性と圧倒的な美声を持つ超一流のアーティストですが、彼女の飾らない性格も人気の秘密のようです。アンナのパワフルな日常は、インスタグラムに掲載される質量共に膨大な写真や動画の数々で見ることができます。特に筆者が注目しているのは、ネトレプコのフットワークの軽さと、ファッション・ピープルとしての華やかさ、そしてオペラ歌手らしい（？）食べることが大好き！ という料理に関する投稿の多さです。
アンナの伴侶はアゼルバイジャン出身のテノール歌手ユシフ・エイヴァゾフ。ソプラノとテノールのカップルということで共演の機会も多くあります。プライヴェートでもアンナの一人息子を交えたファミリー写真、親戚、友人、音楽関係者、それ以外の有名人たちとの交流などをたくさんアップしています。夏は特にヴェローナやナポリなど、美しいイタリアの都市からの発信が多いのでぜひ注目してみてください。
