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三島由紀夫とパゾリーニ 日本とイタリアを代表する知識人が対峙する画期的な展覧会が開催中

Keiko Shimada

2026.06.30

6月25日、「三島由紀夫 ― ピエル・パオロ・パゾリーニ  対峙の⼿がかり 沈黙せず、⽬をそらさずに」の開幕を翌日にひかえ、開会式とレセプションが開催されました。三島とパゾリーニという、現在もなお文化的な影響を与え続ける「2人の巨人」を対比させる展示の迫力に、会場いっぱいに詰めかけたゲストは圧倒されました。



2人の偉大な知識人の魂が交錯する展覧会

この興味深い展覧会は、イタリア⽂化省、ローマ国⽴近代美術館(Galleria dʼArte Moderna e Contemporanea di Roma)SUAZESによって開催されたもの。三島由紀夫とピエル・パオロ・パゾリーニという20世紀を代表する最も複雑で捉えがたい2⼈の⼈物を、初めて対話的に提⽰する、国際的かつ前例のない展覧会です。


⽂化的・地理的・歴史的背景の違いから⼀⾒すると接点のないように⾒える三島由紀夫とピエル・パオロ・パゾリーニを、新たな視点から⾒つめ直す試み。両者は、時代への鋭い批評精神、失われゆく伝統や過去への深い意識、そして⽂学・映画・演劇など複数の領域を横断した創作活動において、多くの共通点を有しています。


パゾリーニのポートレート
Photo:Sandro Becchetti  Pasolini 1971

戦後を代表する作家・表現者として、それぞれの時代や社会に鋭い眼差しを向け続けた2人。作家、映画監督、劇作家、評論家として多彩な活動を展開するとともに、⽂化的・政治的・実存的な緊張のなかで積極的に発⾔し、公共的議論を牽引する中⼼的存在として⼤きな役割を果たしました。⽂学、映画、演劇など多様な表現領域を横断しながら、⼈間、社会、伝統、そして現代という時代そのものを問い続けた点においても、両者は深く響き合っています。


「三島由紀夫 ― ピエル・パオロ・パゾリーニ 対峙の⼿がかり 沈黙せず、⽬をそらさずに」の展示風景
「三島由紀夫 ― ピエル・パオロ・パゾリーニ 対峙の⼿がかり 沈黙せず、⽬をそらさずに」の展示風景

3年の歳月をかけて実現した展覧会

開会式の冒頭に登壇したのは、マリオ・アンドレア・ヴァッター二駐日イタリア大使。「⽇伊外交関係160周年という節⽬に、三島由紀夫とピエル・パオロ・パゾリーニという2⼈の知性の響き合いに光をあてることは⼤変意義深いことです。2⼈は実際に出会うことはありませんでしたが、その作品や思想は今なお私たちの現代に問いを投げかけ続けています。三島とパゾリーニは、現代を単純化して捉えないよう私たちに促しているのです」と、自ら日本語とイタリア語で挨拶しました。


開会式で挨拶するマリオ・アンドレア・ヴァッター二駐日イタリア大使
マリオ・アンドレア・ヴァッター二駐日イタリア大使

続いて登壇したのは、展覧会を企画したSuazes CEOのMarco Minuz(マルコ・ミニッツ)氏。
「このプロジェクトは、およそ3年という長い年月をかけて実現しました。準備を進めるなかで、三島由紀夫とピエル・パオロ・パゾリーニという2人の偉大な芸術家から、私たちの誠実さや覚悟を試されているように感じることが何度もありました。決して平坦な道のりではありませんでしたが、『約束を守る』という思いを胸に、この展覧会の実現を信じて歩み続けてきました」と挨拶。


そして、「オリアーナ・ファラーチがパゾリーニに捧げた言葉を紹介します。『誤解されても誠実であること。残酷だと思われても正直であること。そして、不都合であっても、自分が信じることを語る勇気を持つこと』。この言葉こそ、本展がとりわけ若い世代の皆様に届けたいメッセージです」と、感動的な言葉で結びました。


「三島由紀夫 ― ピエル・パオロ・パゾリーニ 対峙の⼿がかり 沈黙せず、⽬をそらさずに」の展示風景
「三島由紀夫 ― ピエル・パオロ・パゾリーニ 対峙の⼿がかり 沈黙せず、⽬をそらさずに」の展示風景

そして、三島由紀夫文学館館長の佐藤英明氏が挨拶。
「三島由紀夫とピエル・パオロ・パゾリーニは、直接交流したことも、お互いに影響を受けたという事実もありません。それにもかかわらず、2人を並べてみると、それぞれの芸術や思想が互いを照らし合い、新しい輪郭が浮かび上がってきます。そこに、この展覧会最大の魅力があります」と述べました。



有名写真家たちが捉えた2人の表情や身体も見どころ

展覧会では、両者の知的・芸術的活動を並⾏する2つの軌跡として提⽰し、その類似性、緊張関係、そして交差する接点を浮かび上がらせます。文学、美術、肉体、政治、社会、映画、演劇という7つのテーマを軸に、それぞれの創作活動を紹介しながら、作品や思想の共通点や違い、そして互いに響き合う部分を浮かび上がらせています。


空き地でサッカーをする様子を眺めるパゾリーニ
Photo:Federico Garolla  Pasolini 1960

篠⼭紀信、⼟⾨拳、フェデリコ・ガロッラ、サンドロ・ベケッティといった20世紀を代表する写真家たちによって捉えられた彼らの表情や⾝体は、展⽰全体の重要な軸となり、展示作品のいくつかはビッグサイズにプリントされ、ダイナミックに空間を彩ります。


「三島由紀夫 ― ピエル・パオロ・パゾリーニ 対峙の⼿がかり 沈黙せず、⽬をそらさずに」の展示風景
「三島由紀夫 ― ピエル・パオロ・パゾリーニ 対峙の⼿がかり 沈黙せず、⽬をそらさずに」の展示風景
女優・画家の蜷川有紀氏と作家・政治家の猪瀬直樹氏
かつて「ペルソナ:三島由紀夫伝」を執筆した作家・政治家の猪瀬直樹氏と女優・画家の蜷川有紀氏

映像作家としてのパゾリーニ

ITALIANITYの記事にもよく登場するパゾリーニは、イタリアを代表する詩人で思想家でもありますが、筆者にとってはなによりも偉大な映像作家で、監督作の半分は観ています。2022年の生誕100年記念の特集上映では代表作が劇場で上映されたので、そこで初めて作品を観た、という若い世代の方も多いのではないでしょうか。


「三島由紀夫 ― ピエル・パオロ・パゾリーニ 対峙の⼿がかり 沈黙せず、⽬をそらさずに」の展示風景
「テオレマ」(1968)のパンフレットやサッカーをするパゾリーニのレアな写真

この展覧会は、単なる伝記的な⽐較にとどまるものではありません。実際に出会うことのなかった2⼈の⼈物が、それぞれの時代の⽭盾を極めて明晰に⾒据え、沈黙することなく、⽬をそらさずに、⽂化の画⼀化と記憶の喪失に抗い続けた軌跡を通して、訪れる⼈々に開かれた対話の場を⽣み出すことを⽬的としています。



マルコ氏からITALAINITY読者へのメッセージ

開会式終了後、三島由紀夫文学館館長の佐藤英明氏に直接お話を伺いました。「三島とパゾリーニはお互いに知っていたのですか?」と質問すると、「実際に会ったことはなかったようですね。三島はパゾリーニに言及していませんが、パゾリーニは三島の名を出したことが少なくとも2回はあったようです」と佐藤氏。


筆者が二人とも衝撃的な死を迎えていることに触れると、「パゾリーニは海辺で少年に惨殺されましたが、悲劇的な死というより、自らそちらへ向かっていったような気がしてなりません。そう考えると、三島の自死に近いものがあるかもしれませんね」。
暗殺説もあるパゾリーニの死について、筆者もかねてより感じていたことを佐藤氏が言葉にしたので、感動してしまいました。


「山中湖文学の森・三島由紀夫文学館」館長の佐藤英明氏
「山中湖文学の森・三島由紀夫文学館」館長の佐藤英明氏

そして、展覧会の企画者であるマルコ・ミニッツ氏からも、ITALIANITY読者へのメッセージをいただきました。


展覧会の企画者であるマルコ・ミニッツ氏

「できるだけ多くの方に、この展覧会を見ていただきたいと思っています。最初は『自分とは関係のないテーマだ』と感じる方もいるかもしれません。でも、作品に触れることで、なにかしら自分との接点を見つけてもらえたらうれしいです。
もし一つだけメッセージを伝えるとしたら、私たちは思っている以上にお互いがつながっているということです。そのことを、この展覧会を通して感じてもらえたらと思います」。


ゲストでにぎわう展覧会会場
たくさんのゲストでにぎわった開会式

ジャンルを超えた活動から衝撃的な死まで、21世紀を生きる私たちを惹きつけてやまない2人の偉大な知識人。三島やパゾリーニの作品に触れたことがない方でも、なにかを感じ取ることのできる展覧会です。日本とイタリアの文化が交錯する大胆なカルチャーの挑戦を、ぜひご自分で体感してください。


「三島由紀夫 ― ピエル・パオロ・パゾリーニ 対峙の⼿がかり 沈黙せず、⽬をそらさずに」のメインビジュアル

三島由紀夫 ― ピエル・パオロ・パゾリーニ

対峙の⼿がかり 沈黙せず、⽬をそらさずに

会期:7⽉29⽇(⽔まで
会場|イタリア⽂化会館 エキジビションホール
10:30‒17:30休館⽇:毎週⽇曜⽇
⼊場無料


イタリア文化会館 https://iictokyo.esteri.it/ja/