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NHK「旅するイタリア語」マッテオ・インゼオさん、愛しいニッポンへの想いを語る。<後編>

前回のNHK「旅するイタリア語」マッテオ・インゼオさん、愛しいニッポンへの想いを語る。<前編>に続き、マッテオ・インゼオさんに長年暮らす日本に対する想いをインタビュー。<後編>の今回は、料理・コミュニケーション・働き方などをテーマにお届けします。

―――「ベリタリア」でイタリア語とイタリア料理を教えたり、“Taste of Italy”でも料理の腕前を披露してくださったりと、料理家としてのお顔もお持ちのマッテオさんですが、料理はどのようにして学ばれたのでしょうか?

Matteo: 料理教室の生徒さんにもお伝えしていることなんですが、僕はプロのシェフではなく趣味で料理をやっていて、基本的に家庭料理しか作っていません。昔から食べることが好きで、母が料理している姿をよく見たり、手伝っていたりしたので、自然に僕も作れるようになっていました。

あと、自分で料理の本で調べたり、料理番組で面白いレシピが出てきた時には、アレンジして作ってみたり、独学で研究しています。そうしているうちに気がついたら、イタリア語を教えながら料理教室をするようになったんですね。最初は「ちょっとやってみよう」という軽い気持ちで初めてみた料理教室でしたが、参加してくれた方からも好評で、僕自身すごく面白かったのでそれ以降ずっと継続しています。

―――記念すべき初の料理教室では何を作られたのでしょうか?

Matteo: ベリタリアでの最初の授業はドルチェ(デザート)でティラミスを作りました。僕は子どもの頃から甘いものが大好きで、特に母の作るティラミスが大好物でした。いまだに僕は、母の作るティラミスが世界一美味しいと思っています。まぁ、イタリア人は皆同じことを言うんですが(笑)。

基本的に教室では、生徒さんに家庭で作っていただきたいので、日本にある食材を使って作れるレシピを紹介しています。それから、僕自身が好きな料理しか作らないようにしていますね。

―――日本人は家庭でも毎日和食を食べるわけではなくて、中華、洋食などいろんなジャンル・国の料理を作ることが一般的ですが、イタリアの家庭料理の場合は、ほぼ毎日イタリアンですよね。

Matteo: そうですね。僕は、日本人のそういう料理に対する探究心がすごいなと思います。イタリア人はどちらかというと伝統的な料理を好む人が多くて、自宅ではほとんどイタリア料理しか作らない、むしろ作れないんだと思います。イタリア料理以外で、例えば、和食やメキシカンを食べたいと思ったときは、外食する人が多いですね。もちろん、日本が大好きなイタリア人の中には、和食に挑戦する人もいると思いますが、一般的にイタリア人で和食を作れる人は少ないと思います。

また、イタリアでの和食といえば、最近少しずつラーメンもみられるようになりましたが、まだ「寿司」が主流で、日本食について理解が進んでいるとは言えない状況です。

―――マッテオさん自身、和食は作られますか?

Matteo: 実は、日本に長く住んでいるのに、僕自身和食はあまり作れません。何度か作ってみたんですが、僕が作るとイタリア料理になっちゃうんです(笑)。きっと作りやすいからですね。和食をきちんと習ったことがないので、テレビ番組などで観たレシピをそのまま作ってみてもこの味で本当にあっているのか自信が持てなかったり・・・。トンカツを以前作ってみたことがあるんですが、失敗して、「トンカツは外で食べるものだな」と思いました(笑)。

母が料理が好きなので、「日本料理を教えて!」とよく言われるんですが、僕が和食を作れないと伝えると「日本に何年も住んでいるのにどうして!」と叱られます(笑)。

「空気を読む」日本のコミュニケーション

―――日本人のコミュニケーションの特長としてよく挙げられる「以心伝心」や「空気を読む」といった習慣について難しさを感じることはありますか?

Matteo: 日本に来たばかりの頃は、日本語がそこまで話せなかったので、そうしたコミュニケーションに戸惑うこともありました。特にイタリア語に比べて日本語は曖昧さを含む言語で、主語を省いても意味が通じたりします。日本語を学んで間もない頃は「誰が、何を、どうした」ということを文脈から読み取ることが難しくて、友達と話しているときでも、「誰が?」「誰を?」と頻繁に聞いてよく怒られました(笑)。イタリア語の場合、主語に応じて動詞が変化するので、仮に主語がなくても動詞の変化で「誰が、どうした」というのが分かるんですよね。

それから、来日当初はイタリア人に比べて、日本人は思っていることをストレートに言わない部分があるなと感じて戸惑うこともありましたが、日本に住んで18年となった今では、逆に僕も空気を読みすぎるようになっているかもしれません。

―――確かに、マッテオさんと日本語で話していて「イタリア人だ!」と感じたことはほとんどないかもしれません(笑)

Matteo: もともと僕自身「空気を読む」ことが苦手ではなかったので、日本人と合うのかもしれません。ただ、もちろんそれは僕の一面であって、イタリア人の友達とイタリア語で話しているときは、すごくイタリア人っぽくなるし、日本語で話すとより日本人っぽくなっています。とても不思議ですが、話す言語によって性格が変わっている自分がいる気がしますね。

「イタリア人は働かない」を変えたい

―――多くの日本人がイタリアに対して持っているステレオタイプで、特に今後マッテオさんが変えていかれたいものがあれば教えてください。

Matteo: 「イタリア人はあまり仕事しない」という日本人のイタリア人へのイメージを変えたいですね。そうしたステレオタイプを持った日本人は多いと思うんですが、僕は日本人とイタリア人の仕事のスタイルが違うだけだと思っています。

例えば、NHK「旅するイタリア語」という番組で2年連続ロケに行かせていただいて、1年目は南イタリアのナポリ・アマルフィ、2年目は北イタリアのミラノ・トリノにロケに行きました。2年ともチーズ工房、靴工房など職人さん達がいる場所を取材して訪問したんですが、どこに行っても皆仕事に対する情熱や真面目さがよく表れていました。
自分が作っているものが大好きで、そしてそれを誰かのために作ることも大好きなイタリア人は多いと思います。

NHK「旅するイタリア語」の番組の旅人は1年目はバイオリニストの古澤巌さん、2年目は俳優の田辺誠一さんでしたが、二人とも「イタリアに来る前は、イタリア人はあまり仕事しないという印象を持っていたんですが、イタリアに来てみてすごく真面目だなと思いました。」と言ってくれたのがすごく嬉しくて、印象に残っています。お二人が感じられたようなことを、もっと多くの日本人に知ってもらいたいですね。

―――ステレオタイプの背景には、日本人とイタリア人の働き方のスタイルの違いもあるのかもしれませんね。

Matteo:そうですね。日本では、仕事中真剣な顔で、常に本気で仕事をする人が多いように感じますが、イタリアでは、仕事をしているからと言って常に真面目に、真剣に仕事をしなければいけないという考え方の人は少ないように思います。逆に、楽しみながら仕事をしたほうが効率的で、仮に今日の業務量をこなせなかったとしても「明日でいいや!」と区切りをつけてオン・オフを切り替えたほうが結果的にはいいアウトプットに繋がることが多いと感じます。

やりがいは「イタリアと日本の懸け橋になれる瞬間」

―――イタリア語学校や料理教室の講師など、現在のお仕事に対するやりがいを教えてください。

Matteo: これは、イタリア語学校で教えているときによく感じることですが、自分の国の文化に興味を持って熱心に勉強してくれている人がいることは、僕のモチベーションに繋がっています。特に日本には、イタリアのことが好きな日本人が多くとても嬉しいです。

イタリア語を教える中で一番講師冥利につきることは、生徒さんが実際にイタリアを訪れて、帰国した時に「先生が教えてくれたフレーズ通じたよ!」と言ってくれる時。すごく嬉しいですね。

実はちょうど先日、ある生徒さんから手紙をもらいました。その生徒さんは、よくイタリア料理教室に参加されていて、その後独学で勉強して半年ほどイタリアへ留学に行かれました。イタリアに行く前から日本語で手紙をもらうことはあったんですが、イタリア留学から戻られた時、僕に書いてくれた手紙はすべてイタリア語で書かれてありました。手紙の中でも、「マッテオ先生のおかげでイタリアのことが好きになりました。」と言ってくれて、そういう時にこの仕事をやっていて本当に良かったと感じますね。少しでも、日本とイタリアの懸け橋になっていればいいなと思います。

―――SHOP ITALIAの読者の方の中には、今イタリア語の習得に励まれている方、今後イタリア語を学びたいと思っている方など、イタリア語に関心を持たれている方も多くいらっしゃるかと思います。そんな読者の皆さんに、イタリア語習得のコツやアドバイスをいただけますか?

Matteo: 機会があれば、イタリアの映画を観たり、音楽を聴いたりしてもらいたいですね。音楽は意味が分からなくても、聴いているだけでイタリア語の音に慣れていくと思います。勉強については、文法ももちろん大事ですが、そればかりに固執せず、積極的にコミュニケーション取ることをお勧めします。生徒さんの中には、完璧に話したいと思われている方も多いんですが、多少文法を間違えても通じるのでそこは、あまりこだわらなくてもいいかなと思いますね。

それから、「日本語で『よろしくお願いします』『お疲れ様でした』ってイタリア語でなんていいますか?」という質問をよく受けますが、この表現はイタリア語にはありません。だから「日本語の○○をイタリア語で伝えたい!」と考えるよりは、「こんな時、イタリア人だったらどう表現するか?」という視点にフォーカスしたほうがいいかなと思います。

例えば、イタリア語の表現に「In bocca al lupo !(イン・ボッカ・アル・ルーポ)」という表現があります。直訳すると「オーカミの口の中へ!」という意味なんですが、イタリアでは「頑張って!」という意味で、応援する時の表現として使われています。こうしたイタリア語独特の表現にも慣れていけるといいですよね。

―――最後に、今後日本で挑戦してみたいことや目標を教えていただけますか?

Matteo:そうですね、いつかイタリア料理の本を出してみたいです。僕がこれまで作ってきたレシピをアレンジして、イタリア語を織り交ぜながら本にしてみたいですね。もちろん写真付きで、それぞれのレシピに対するエピソードも加えられたらいいなと思います。まだ、何をどんな風にやるのか具体的なことまで考えられていませんが、いつか実現したいです。

―――その夢が実現する日も近そうですね。マッテオさん、貴重なお話の数々、本当にありがとうございました!

Matteo Inzeo(マッテオ・インゼオ)プロフィール

イタリア・ラティーナ出身。ローマ大学東洋研究学部卒業。NHKテレビ「旅するイタリア語」、NHKラジオ講座「まいにちイタリア語」で活躍中。現在は渋谷区神宮前のイタリア語教室『Bell’Italiaベリタリア』で語学、料理の講師も務める。新著『イタリア語エッセイ 風変わりで愛しいニッポン』を出版、発売中。
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