NHK「旅するイタリア語」やイタリア語料理教室などで活躍中のイタリア・ラッツィオ州出身のマッテオ・インゼオ(Matteo Inzeo)さん。料理が大好きで、SHOP ITALIA の“TASTE OF ITALY“でも、自慢の料理の腕を披露していただきました。今回、日本でのキャリアも長いマッテオさんに、カルチャー、コミュニケーション、価値観などをテーマに日本に対する想いをインタビュー。前後編の2本立てでお届けします。
気がつけば身近に存在していた日本のカルチャー
―――幼い頃から外国語が好きだったというマッテオさんですが、ローマ大学での専攻では、東洋文学部日本文学科を選ばれていますね。数ある言語の中で日本語を選ばれた理由と興味を持たれたきっかけを教えていただけますか?
Matteo: 子どもの頃、一番好きな言語は英語でした。なぜかというと、母が12歳から20歳の間、親戚のいるアメリカで家族と一緒に暮らしていて、その後イタリアに戻ってきたんです。ちょうど僕が5歳くらいのとき、そのアメリカの親戚がイタリアに遊びにきて、母と親戚が英語で会話するのを聞いたときに初めて、イタリア語以外の言語が存在することに気づきました。その時、話している英語が理解できないことがすごく悔しかったのを覚えています。仲間外れにされている感じが嫌だったんでしょうね。そこから、英語に興味を持つようになって、中学校では英語を猛勉強しました。高校の時は、いろんな言語が学べる学校を選んで英語に加えて、フランス語、ドイツ語を勉強し始めました。ドイツ語は今では全然覚えてないんですが(笑)、フランス語はイタリア語にも似ているので、今でも残っています。
その後、大学でまた言語を勉強するならこれまでに習った言語とは全く違う言語を学びたいと思っていました。当時、空手をやっていたこと、アニメが好きだったことから何となく日本のことは自分の意識の中にあって、ローマ大学で日本語を学べると知ったときは自然に日本語を専攻しました。なので、日本語に興味を持ったきっかけは、既に自分の周りにあった日本の文化が影響していると思います。
それから、漢字も大好きでしたね。絵のように見えて、いつか漢字を書けるようになりたいなと思っていました。ただ、大学で勉強し始めると、こんなに漢字の種類があると思ってもみなかったので、何で日本語専攻にしちゃったんだろう・・・と思いましたけどね(笑)。
―――当時日本のアニメはどんなものをご覧になられていたのでしょうか?
Matteo:当時イタリアで放送されていたアニメはほぼ全て観ていました。特に、『マジンガーゼット』などのロボット系が好きで、『アタックナンバー1』『キャプテン翼』などのスポーツ系も観ていましたね。『ヤッターマン』シリーズも全部観ていて、住んでいたマンションの幼馴染たちとヤッターマンの放送時間がくると皆それぞれの家で観て、観終わるとマンションの中庭に皆で集まってヤッターマンごっこをしていました。7歳~8歳ごろだったと思いますが、すごく楽しかったです。
当時全てイタリア語の吹き替えで観ていたので、最初はアニメが日本のものだということを意識していませんでした。来日後、日本のアニメの登場人物が日本語で話しているのをみて、逆にすごく違和感をもったのを覚えています。
―――初めて日本を訪れたのはいつ頃でしょうか?
Matteo: 大学2年生の夏休みに、初めて日本を訪れました。3か月くらいでしたが、日本語学校に通って、すごく東京が好きになって、卒業してまた来たいなと思っていました。そして、卒業後2002年に前橋市での仕事が決まって、長くても3年くらいの滞在のつもりが、気がついたら18年経っていました。
訪れて見つけた新しいニッポン、離れてみて気づくふるさとイタリア。それぞれの魅力
―――来日前と来日後で、日本や日本人、日本文化に対するイメージで変わったものがあれば教えてください。
Matteo: 今と違って当時はインターネットの普及もそこまで進んでいなかったし、日本の情報を簡単に集めることができなかったんですね。なので、僕の中で日本といえばアニメに出てくるものでした。だから、電車の踏切の音や、「いしや~きいも~、お芋~」みたいな屋台の石焼き芋の歌とか、イタリアにはないけれどアニメに出てきていたものが日本に来た時には実際にあって、最初は自分がアニメの中にいるような印象でした。
日本の道路に書かれてある「止マレ」のサインとか、学校のチャイム、昭和からの昔ながらのお店によく置いてあるピンクの電話を見た時は「これ、アニメで観たやつだ!」と思ってちょっとドキッとしていました。今はもう慣れてしまいましたけど、来日当初はそういうことにびっくりしましたね。
あと、これはステレオタイプですが、日本に来る前は、「日本人は寿司ばっかり食べるだろう」「みんな着物を着るだろう」と思っていて、日本に来て違うなとすぐわかりました(笑)。
今は、もう皆オンラインで情報収集できるから、こんなイメージを持たれることはないと思いますが、僕が若い頃の日本といえば「寺・神社」のイメージ。でも、実際東京を訪れてみると高層ビルが立ち並んでいて、街中には近代的な建物と伝統的な建物が混在していました。例えば、西新宿の辺りは、高層ビルも多いけど、ちょっと細道に入ると小さなお寺・神社があったりして、そのコントラストに感動していました。
僕が大学時代にローマに通っていた時、車でコロッセオの前を通ることがあったんですが、当時コロッセオを見ても何も思わなかったんですね。でも、しばらく日本で過ごした後にイタリアに帰国してコロッセオを見た時、「すごいな」と思いました。ずっと住んでいると地元の良さに気づかないんです。一度離れないと自分が生まれ育った場所が当たり前のように感じてしまうんだと思います。
愛しいニッポンの不思議、「行列文化」と「小さな大人」
―――4月に出版された新著「イタリア語エッセイ 風変わりで愛しいニッポン」で日本で見つけた小さな不思議を紹介されています。(少しネタバレにもなってしまうかもしれませんが)マッテオさんの中での日本に対する一番の不思議を教えてください。
Matteo: 最初驚いたのは、日本人の方って並ぶの大好きなんですよね。イタリア人も並ばなきゃいけないときは並ぶんですが、できることなら並びたくないんです。でも、日本人は、家電屋さん、ラーメン屋さん、遊園地、デイズニーランドやディズニーシーなどでかなり長い行列に並びます。面白いことに誰も何も文句を言わないんですね。我慢強く、ずっと並んでいても何も問題がないのが、とても不思議です。
イタリア人にはできないですね。気づいたら同じところに集まって、列になってないですからね(笑)。
あと、小学生が親の送り迎え無しに自分達だけで登校することも、来日当初はびっくりしました。イタリアではありえないです。中学生になると、自分たちだけで登校することはあるんですが、小学生の間は基本的に親が送り迎えをしてくれます。僕の小学校は、僕の家から細道を一本挟んだところにあったので、正直小学校2年生くらいからなら一人でも行ける近い距離でした。それでも学校に着くまではお母さんがバルコニーから必ず見ていて、そして帰りは必ず迎えに来てくれました。
理由としては、イタリアの治安上の問題。もう一つは、学校が終わった後、皆どこか遊びに行っちゃって、まっすぐ帰らないからですね(笑)。だから、日本の小学生が一人で電車に乗っているのを見てすごく驚きました。子供っぽくない「小さな大人」という印象でした。イタリアの場合は、親がいないと遊んじゃいますからね。
料理とおもてなし文化、異なるようで似ている日本とイタリア
―――マッテオさん自身が感じられるイタリア人と日本人の共通点について教えてください。
Matteo: まずは、イタリア人も日本人もおもてなしをするのが好きですよね。イタリア人は友達が家に来たときは、まずカフェ、お菓子、ビスケットを出して、お客さんをとても大事にします。日本人もおもてなしをするのでその部分は似ていると思います。
あとは、日本人もイタリア人も美味しい料理を食べることが大好きです。
料理もすごく似ているところがあって、例えば、イタリア人はパスタやリゾット、魚を食べて、日本人も麺類もお米、そして魚もよく食べます。あと、イタリア人は「マンマの味」が大好きですが、日本にも「おふくろの味」があって、似ているところが多いなと感じます。そして、どちらの国の料理も食材の味を大事にする、シンプルな料理です。和食もイタリア料理も、素材を生かした料理なので、イタリア人も和食が好きで、日本人でもイタリア料理が好きな方が多いんじゃないかと思います。
―――イタリア人のおもてなし文化のルーツはどこにあると思いますか?
Matteo: イタリアの場合は、南部に行けば行くほど、このおもてなし文化がすごく大事にされていると思います。おそらく、北イタリアと違って、南イタリアは昔から経済的に貧しい人達がたくさんいたので、困っている者同士助け合う土壌ができたんだと思います。例えば、ナポリには、「カフェ・ソスペーゾ(Caffè sospeso)」という、バーでエスプレッソを頼むときには自分の分だけでなく、一杯分余分に支払って貧しい人達のために使ってもらおうという文化があります。そうした助け合いの文化が、おもてなしの精神のルーツとしてあるんじゃないかと思います。
―――この続きは、インタビュー後編にてお届けします。どうぞお楽しみに!
Matteo Inzeo(マッテオ・インゼオ)プロフィール
イタリア・ラティーナ出身。ローマ大学東洋研究学部卒業。NHKテレビ「旅するイタリア語」、NHKラジオ講座「まいにちイタリア語」で活躍中。現在は渋谷区神宮前のイタリア語教室『Bell’Italiaベリタリア』で語学、料理の講師も務める。新著『イタリア語エッセイ 風変わりで愛しいニッポン』を出版、発売中。
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