CULTURE

CULTURE

イタリアのパパは「自己犠牲」しない〜子どものサッカーへの関わり方

イタリアの親たちはどのように子どものサッカーに関わっているのでしょうか。「子どものサッカーへの関わり方」として、今回はパパたちの様子をご紹介します。

息子のサッカーを見ることは、パパの“特権”

父親たちには送り迎えの他にもう一つ、大事な役目があります。それは応援です。
試合はもちろん、練習でも、イタリアのグラウンドは賑やかです。というのも、親たちが子どもたちに負けないくらい騒いでいるからです。
ちなみに練習見学や試合の応援に来るのは、ほとんどが父親です。なぜなら、息子のサッカーを見守るのは父親の役目、あるいは特権だとイタリアでは考えられているからです。


サッカー場は、愛する我が子が一番キラキラと輝く場所。そこに行くことは父親の“特権”であり、“生き甲斐”です。たとえ仕事で疲れていても、父親たちは「俺が行かなきゃ勝てる試合も負けるだろ!」と嬉々としてグラウンドに駆けつけます。


イタリアの父親たちには応援以外の楽しみもあります。
フィレンツェがあるトスカーナ州は美食で知られ、ちょっと田舎に足を伸ばせば、新鮮な地元産の肉や野菜が食べられる評判のトラットリアがいくつもあります。そういうところでアウェイの試合が行われると、試合後はみんなでトラットリアに直行。飲めや歌えやの大宴会になるのです。試合に勝っても負けても、父親たちは上機嫌。ワインを何杯もおかわりして、サッカー談義に花を咲かせ、べろんべろんになって“ホーム”へ帰っていきます。これぞ最高の週末ではないでしょうか。


パパ軍団は子どもよりうるさい

それでは試合中の父親たちは、一体どんなふうにゲームを観戦しているのでしょう。18人の選手が登録される週末のリーグ戦には、いつも15人前後の父親が応援に駆けつけます。残る3人は仕事や二日酔いといった理由で泣く泣く欠場です。
パパ軍団は非常に結束が固く、それなりに役割分担ができています。


まず、一人が野次将軍に君臨。配下に10人ほどを従えて、審判を盛大に野次ります。ここでの野次は、いかに周りを爆笑させるかが勝負です。残る4人は野次にゲラゲラ笑い転げたり、敵の野次にツッコミを入れたりしています。
このパパ軍団の弾けっぷりは、肝心のゲームより面白いかもしれません。野次将軍はしばしば敵の野次将軍と壮絶な罵り合いを繰り広げますが、試合が終わるとすべてを水に流して仲良くビールを飲みながら互いに肩を抱き、談笑しています。私はこの光景を見るのが大好きです。


イタリアの親たちは期待を押しつけない

ひょっとするとイタリアの父親たちは、子どもの試合を子ども以上に楽しんでいるのかもしれません。これは日本とイタリアの大きな違いでしょう。
日本の親は子どもの勉強やスポーツを熱心に応援します。それはとてもいいことですが、イタリアの親と比べると、「子どものため」という気持ちがちょっと強すぎるようにも感じられます。


「こんなに応援しているのに」
「せっかくお金を出してあげたのよ」


そういった親の過剰な期待や自己犠牲は、子どもの重荷になりかねません。サッカーは誰のためでもなく、自分のためにやるもの。そうでなければ楽しめず、結果的に上手くはならないと思います。


いつも馬鹿騒ぎをしているイタリアの父親たちですが、私がとてもいいなぁと思うことがあります。それは子どもが落ち込むようなネガティブな声かけをしないということ。「なんでできないんだ?」とか「そうじゃないだろ!」といった声は、イタリアではまず聞きません。


イタリアの父親たちは、わが子がグラウンドで弾けているのを見るだけで心が満たされるのです。子どもたちに負けじと大騒ぎする父親たちの姿は、「自由に生きていいんだぞ」という子どもたちへの熱いメッセージなのかもしれません。


次回は「ママ編」をご紹介。お楽しみに!


イタリアのスポーツ応援賛歌特集
CULTURE

イタリアのスポーツ応援賛歌特集

よしおアントニオ / 2021.07.15


イタリアのサッカー指導者が教える「勝敗より大切なもの」とは
CULTURE

イタリアのサッカー指導者が教える「勝敗より大切なもの」とは

宮崎 隆司 / 2022.06.30