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【前編】イタリア好きに深く愛されているドキュメンタリー番組『小さな村の物語 イタリア』。ディレクターにインタビュー | 秘境 旅行

BS日テレで放送中のドキュメンタリー番組『小さな村の物語 イタリア』。2007年10月にスタートしたこの番組は、イタリアの小さな村の人々の暮らしをありのままに映すという、きわめてシンプルな内容ながら熱烈なファンがたくさんいます。

イタリア各地の海や山、その土地の風土の中で、伝統や文化に根ざして暮らしている市井の人々。そこにはさまざまな人生のドラマがあり、個々の哲学をもって「美しく生きる」ことを実践する人々の姿を見て、人生で本当に大切なものは何かに気づかされる…そんな番組です。三上博史さんの穏やかな声の語りが味わい深く、テーマ曲のオルネラ・ヴァノーニ(Ornella Vanoni)『L’Appuntamento(逢びき)』がいっそう郷愁を誘います。

放送開始から11年目の今年、2018年4月20日には、日本にイタリアの伝統と文化を普及した功績を評価され、イタリア大統領より、コンメンダトーレ勲章が授与されました。この番組を企画した田口和博プロデューサーは2016年に永眠されていますが、その遺志を継ぐスタッフによって制作は続けられています。

今回、この魅力的な番組がどのように制作されているのか、その舞台裏について、テレコムスタッフの望月一扶ディレクターと宮部洋二郎ディレクターにお話をうかがいました。

◆インタビュー・文:「SHOP ITALIA」編集部

故・田口和博プロデューサーが総力をかけて実現した番組

――この番組が始まったきかっけについて、うかがえますか?

宮部:もともとこの番組を立ち上げたのは、故・田口和博プロデューサーです。『なるほど!ザ・ワールド』や『NHKスペシャル』など、いろいろな番組を手がけてきた田口さんが、総力をかけて企画して実現したのがこの番組なんです。「有名人」や「面白い出来事」ではなく、ごくごく普通の人々の生活の中にある大切なものを映す。「名もなき人」なんていない、誰もがかけがえのない存在だ、というところから始まった番組です。

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ヴァッレダオスタ州エントロ村にて。村の遠景撮影の様子。 写真提供:宮部洋二郎

――イタリアの村に注目された理由は?

宮部:もともと田口プロデューサーがイタリア好きだったということもありますが、なぜイタリアに着目したかというと、日本ではイタリアの食べ物や文化はとても親しみがある一方で、まだまだ知られていないところがたくさんある。イタリアが統一国家になったのは19世紀からで、それまでは小さな国家に分かれていましたから、今でも地域ごとに固有の文化があり、一口にイタリアと言っても、それぞれの村によってかなり特色が違います。イタリア語で、小さな村や集落のことを「ボルギ(Borghi)」と言いますが、1つ1つの村に、ものすごく個性があって面白いんです。

望月:テレビ番組をつくっていると、視聴率のこともあるし、「引き」の強いものを求められることが多々あります。田口さんは長年、テレビ番組をつくってきて、テレビドキュメンタリーに対して思うことがあったんです。派手な演出をしたり、有名な人や特別な出来事ばかりを扱うことに対して疑問を感じていて、そうではない、市井の人々のすばらしい人生を加工することなく、限りなく演出を加えない演出できちんと見せたいと思っていた。ドキュメンタリーといっても構成台本があることも多いんですが、この番組には、そんなものは要らないと。この番組は、旅番組でもないし、情報番組でもないし、紀行番組でもない。村人の人生にフォーカスする純度の高いものをやりたかったんだと思います。

宮部:田口さんがよく言っていたのは、「この番組は、紀行番組だって言われるけれども、そうじゃなくて哲学の番組なんだ」と。人生にとって大切なものは何か、幸せとは何かを、村人から教わる番組なので、村人に対して失礼があってはならないし、そこは僕らも取材する上で気を遣っています。

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ヴェネト州セルヴァ・ディ・プローニョ村にて。 写真提供:望月一扶

どこへ行ってもすばらしい人生がある

――地上波ではなかなか制作できないと思われる、いい意味で「地味な」番組なので、制作の舞台裏にも、とても興味がわきます。次はこの村へ行こうというのは、ディレクターが決めるんですか?

望月:いや、そうではないです。今回はこの地方をやったから、次は違う地方にしようと、きわめて物理的に決めていますね。

宮部:「どこへ行っても、すばらしい人生がある」ということでスタートしているので、「ここへ行きたい」とか「この場所が面白いんじゃないか」っていうディレクターの欲求とか先入観とかもないんです。イタリアにいるコーディネーターと、最近、このあたりに行ってないから、次はこのへんにしようか、ぐらいの決め方で、かなりアトランダムに決めています。

何が撮れるか、行ってみるまでわからない

――1つの村を取材するのに、どのくらいの期間、滞在するんですか?

宮部:だいたい1つの村に5日間滞在して、2日で取材して、3日で撮影です。スタッフは、日本から行くのはディレクターとカメラマンだけで、現地のコーディネーターとドライバーが合流して、4人編成で動きます。ディレクターは、今、担当しているのが5人で、持ち回りでやっているので、ひとり、年に2回か3回イタリアへ行きます。だいたい1回行くと2つの村を取材するので、年にひとりのディレクターが4~5本制作するペースです。

望月:コーディネーターが事前に市長さんや村長さんに連絡をとって、何人か村人を紹介してもらいます。その中から(コーディネーターが)電話でリサーチをして人物情報をまとめてもらうんですが、実際に会ってみないと、誰が何をするのか、何が撮れるのかさえも、よくわからない。だから、現場で発見することも多いし、だんだんわかってきて、質問してみて、またわかってきて、という。

宮部:日本に帰ってきて、編集しているときに、「こういうことなんだ!」って気づくこともいっぱいあります。ディレクターとしてはそれが面白いし、やりがいのある番組だなと思います。それは本当に田口さんに感謝しています。

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ラツィオ州ロイアーテ村にて。取材した家族と。 写真提供:宮部洋二郎

取材対象者と人としていかに接するかが番組の根幹

――他の番組とちがう、この番組ならではの取り組み方というのは?

望月:他の番組だったら、資料をたくさん読んで、構成を考えて、こういうのを撮ろうと考えますが、この番組に関しては、そういうのはナシです。こちらがいかに取材対象者と、人としてちゃんと接することができるか。それが番組の根幹です。人間同士のつきあい方から生まれる撮り方だったり、編集だったり、ナレーションだったりするので、その人をずっと見て、どういう人なんだろうって探っていく、接していく。撮りながらわかっていくことが多々あるし、こうじゃないかって思って撮っていたら、全然ちがうこともあります。

ドキュメンタリーには何年も密着して取材する作品もありますが、この番組は、たかだか3日か4日の撮影期間です。それなのに、なんでこんなに人の人生が見えるんだろうって考えたことがあるんですが、彼らの中で生きていく価値観がぶれていないからなんですよね。どこを切り取っても、彼らの人生が必ず映る。伝統的に受け継いできた価値観、それは家族を大事にすること、仕事を一生懸命やること、村を愛すること。ものすごく本質的なことがあり、その人生を見つめようという姿勢でやっていますね。

家族を大事にするとか、仕事を一生懸命やるとか、「そんなこと、知ってるよ」っていうことばかりですけど、それをきちんとやってる番組って実は少なくて、だからそこにこだわり続けていきたいと田口さんは思っていたんです。

――とても自然に、人々のふだんの生活を映していますが、どのように撮影されているんですか?

宮部:どんな人でも、カメラが入ると「なんかちょっといいことしようかな」とか、「こういうところ、見たい?」っていつもとちがうことをしようとするんですが、僕らはそうしないでほしいって言います。「いつものあなたを撮りたいから」って。だから、家の中を撮影するとき、とくに食事のときなんかは、カメラマンだけ残して、僕は外に出ちゃいますね。

望月:オレもそうだよ。

宮部:そうすると、ふだんの姿が撮れるので、それを使いますね。

望月:ドキュメンタリー映画監督の想田和弘さんと映画監督の是枝裕和さんが対談で、「ドキュメンタリーの醍醐味を感じるのは、こちらが想定してた以外のものが、ふと撮れた瞬間だ」という話をしていたけど、この番組もそうですね。撮影スケジュールもあってないようなもので、取材する村人が「今日は今からあっちの山へ行く」って聞いたら「じゃあ、一緒に行きます」みたいな感じで、僕らから「山のシーンを撮りたいから、ここを歩いてください」みたいな演出をすることはありません。ぜんぜん予想してない流れになったときに限って、いいものが撮れる。

宮部:だいたい、そういうときですよね。

望月:テレビの番組で、ここまでドキュメンタリーに徹している番組は、なかなかないと思います。ドキュメンタリーといっても、「こういうのを撮って、構成しましょう。こういうのが撮れますよ」っていうのを、あらかじめプレゼンステーションしてから撮影に行くことがほとんどなので。

◆インタビュー・文:「SHOP ITALIA」編集部

【インタビュー後編に続く】

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◆『小さな村の物語 イタリア』公式サイト 

 http://www.bs4.jp/italy/

◆お話をうかがった方々

PROFILE
望月一扶(もちづき・かずほ)
テレコムスタッフ ディレクター
1991年、テレコムジャパン(現・テレコムスタッフ)に入社。数々のドキュメンタリー、ドラマ、情報バラエティなどの演出を手がける。NHK BSプレミアムの人気ドラマ『植物男子ベランダ―』では構成、脚本、演出、選曲を担当。2009年、NHK『星新一ショートショート』で第37回国際エミー賞コメディ部門グランプリ受賞。

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宮部洋二郎(みやべ・ようじろう)
テレコムスタッフ ディレクター
2003年、テレコムスタッフ入社。海外鉄道番組『世界の車窓から』をはじめ、フジテレビ『NONFIX』やNHK総合『明日へ つなげよう』などドキュメンタリー番組を多く手がける。東日本大震災以降は復興支援番組NHKBSプレミアム『きらり!えん旅』を現在までレギュラーで担当。