CULTURE

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「ああ太る・・」人生を楽しむのが得意なイタリア人の家での過ごし方。外出禁止生活へのアドバイスも

みんな、忘れてはいないだろうか。イタリア人はどんな人たちかということを。彼らはどんな時でも人生を楽しむのが得意な人たちである。

巷ではイタリアの悲惨な状況ばかりがクローズアップされ、実際に異常事態にも違いないのだが、一方で多くの人たちは感染しておらず、家にいる時間を淡々と過ごしている。こんな状況でもそれなりに楽しく暮らそうと努めているイタリア人は少なくない。今回は、退屈との戦いの日々をイタリア人たちがどう乗り切っているか、そこに焦点を当ててお伝えしたい。

※イタリアでの自宅軟禁生活を日本人目線で伝えた前回のリポートもあわせてどうぞ→「外出禁止4週目に突入のイタリア、自宅軟禁生活を日本人がフィレンツェから本音でリポート

カフェで談笑するイタリア人太陽が出ればテラス席でみんなとおしゃべりを楽しむのが大好きな普段のイタリア人たち

太陽が出たら外へ飛び出したくなるイタリア人たち、外出禁止中はどう過ごしてる?

挨拶はハグ&ほっぺにキス、人懐っこくて他人とのおしゃべりが何よりも好きなイタリア人。太陽が出たら外へ飛び出していき、日曜日には家族が集まって盛大にランチ会を開く。そんな彼らが家にこもりっきりになる生活を余儀なくされる日が来るとは、まさか夢にも思わなかった。外出禁止が発表された時、正直言って私は自分の心配よりもそんなイタリア人たちの方が心配になった。果たして彼らは一体どうなってしまうのだろうか、と。

イタリア人は命令やルールに従わない人も多い。信号を例に挙げると、日本人なら半径1キロ以上見渡せるような交差点で誰もいなくても赤信号を守る。一方、イタリア人は車が来ていても渡ってしまう人もいる。誰もいない交差点で警察官までもが赤信号を渡っているのをこの目で見たことがあるくらいだ。
そんな彼らは外出禁止を守るのだろうか。

案の定、政府が「外出禁止」と声高に叫んでも無視して外出してしまうイタリア人が後を絶たず、外出禁止の違反者に対する罰金が今では最大3000ユーロ(約36万円)にまではね上がっている。「自粛」勧告程度でも守れる人が多い日本とは大きく異なる。

「上)新型コロナウィルス以前のイタリア人。下)新型コロナウィルスの緊急事態中のイタリア人」。命令と反対のことをしたがるイタリア人の性格を表したジョーク。>「上)新型コロナウィルス以前のイタリア人。下)新型コロナウィルスの緊急事態中のイタリア人」。命令と反対のことをしたがるイタリア人の性格を表したジョーク。

さて、イタリア全土で外出が禁止になってから一ヶ月が経過した。かつては人生をおおいに楽しんでいたイタリア人たちは、家に閉じこもってはたしてどんな生活を送っているのだろうか。私の周りのフィレンツェの友人たちの暮らしぶりを見てみよう。

復活祭(パスクワ)には伝統料理を。ピザやパスタなど料理に凝る人が増加中

今年の復活祭(パスクワ)は12日(日)。外出禁止期間中なので、例年のように家族総出で盛大なランチ会を開くことはできない。しかし、せっかく自宅にいる時間が長いのなら、復活祭の料理を手作りしない手はない。フィレンツェ出身でイベントプランナーのMarco Lenzi(マルコ・レンツィ)とナポリ出身のArianna Esposito(アリアンナ・エスポージト)のカップルは、ナポリの復活祭に伝統的に食べるリコッタチーズのタルトpastiera(パスティエラ)と、お惣菜パンcasatiello(カザティエッロ)を手作りした。

ふるさとの復活祭料理を手作りしたアリアンナ。手前がパスティエラで奥がカザティエッロ。ふるさとの復活祭料理を手作りしたアリアンナ。手前がパスティエラで奥がカザティエッロ。

二人は、マルコのおじいさんが建てた庭付き一軒家で隔離生活を送っているが、この家はフィレンツェの街を一望できる素晴らしい眺めにあり、普段はB&Bをしている。

「料理は、すべての文化活動ができなくなっても、クリエイティブにできるもの。そもそもイタリア料理そのものが伝統文化だし。家のまわりでとれた野生アスパラガスやのびのび育っている鶏の卵を使って特製カルボナーラも作ったよ。大好きな人と一緒に過ごすここでの生活は、退屈する暇がないよ」と、マルコ。

アリアンナさんとマルコさん、手作りカルボナーラ左)素敵な庭で乾杯しながらゆっくり食事を楽しむ、アリアンナとマルコ。右)野生アスパラガスのカルボナーラ

素晴らしい眺め、豊かな自然溢れる庭付きの家、そして愛情いっぱいの美味しい手料理・・。むしろ外出禁止令をありがたく感じているのではないかと疑ってしまうほど、幸せいっぱいな二人だ。

歯科助手のAlessia Della Luna Maggio(アレッシア・デッラ・ルーナ・マッジョ)もまた、料理の時間を楽しんでいる。いつもより手のこんだ料理に凝っていて、先日は一人息子のGregorio(グレゴリオ)と一緒に、手作りの餃子作りに挑戦した。3月23日に6歳の誕生日を迎え、いつものように友人や家族たちを呼んだ誕生パーティーができなかったグレゴリオだが、大好きなママと一緒に料理できる時間が増えて嬉しい日々だ。

暗いこんな時期こそ、子供の笑顔はママの元気の源!暗いこんな時期こそ、子供の笑顔はママの元気の源!

みんなで笑いあって乗り越えよう!ネット上で誕生会やアペリティーボ

イタリア人たちは普段から用事がなくても家族や友人間で毎日頻繁に電話で話す。直接会えなくなった今はなおさらだ。FacebookなどのSNSやWhatsApp(Lineのようなアプリ)、Skypeなどフル活用してとにかくおしゃべりを楽しむ。私にも友人たちから毎日「何してるの?」「元気にしてる?」と連絡が来て「ありがたいなあ」と思うのだが、こんなちょっとした他人とのおしゃべりこそ、こういう時には気晴らしになり、大きな心の支えになる。

Francesca Bianco(フランチェスカ・ビアンコ)は、3月27日に誕生日を迎えた。家族や友人たちと一緒に自宅やレストランで過ごせない中での誕生日は、インターネット上でお祝いすることにした。フィレンツェに住む長男、カナダのウィニペグに住む次男、それから北イタリアに住む親戚や友人たちと画面上でチャットを楽しみながら一緒に過ごす、いつもと違う特別な誕生日になった。フランチェスカにとって、みんなの笑顔がなによりの贈り物になった。

左上の女性がフランチェスカさん。家族や友人たちが各地からネット上で誕生日をお祝いしてくれた。左上の女性がフランチェスカ。家族や友人たちが各地からネット上で誕生日をお祝いしてくれた。

テレワーク中の会社員Chiara Giachetti(キアラ・ジャケッティ)は、週末の夜には気のおけない友人たちとネット上でアペリティーボを楽しむ。週末といっても在宅確定でむしろ気分が落ち込みそうになるが、ネット上で友人たちの笑顔を見ながらワインやカクテルで一緒に乾杯すれば、以前の楽しかった週末気分を味わえる。

一番右の下がキアラさん。みんなお酒の入ったグラスを片手にごきげんだ。一番右の下がキアラ。みんなお酒の入ったグラスを片手にごきげんだ。

会えない友人たちを喜ばせよう!普段通りのラジオ放送、自宅で楽しめる動画のネット配信

私がパーソナリティーを務めている、フィレンツェの老舗FMラジオ局Controradio では、一緒に番組をつくっているDJのSimone Pallanti(シモーネ・パッランティ)がマスク姿で放送を続けている。私は外出禁止中は自宅から電話で生出演しているが、異常事態のこんな時だからこそ、いつものメンバーでいつも通りの番組づくりを心がけている。「ラジオでいつも聞いているあなたたちの馴染みの声を聞いていると、その間だけは普段通りの普通の生活をしている気分になれるんだ」と、常連リスナーから嬉しいメールが届く。

フィレンツェのFMラジオ局のDJシモーネさんもマスク姿フィレンツェのFMラジオ局のDJシモーネもマスク姿

「直接会えなくてもネットを通じてつながろう。」私の周りの友人たちの中には、会えない友人たちを喜ばせようと、自宅で楽しめる動画をネット配信する人たちも多くいる。

ヨガのインストラクターClaudio Pinzauti(クラウディオ・ピンザウティ)は、ヨガスタジオやジムが封鎖された今、友人たちが自宅でもヨガができるようFacebook上でヨガの公開レッスンを企画した。配信日時を予告して、同時間帯に視聴者が一緒に参加できるのが魅力だ。

クラウディオさんが配信したヨガレッスンクラウディオが配信したヨガレッスン

続いて、クラブやイベントでDJをしているAndrea Rucci(アンドレア・ルッチ)は、自宅にDJセットを置いてスタジオにし、Facebook上でDJライブを配信している。クラブにもパーティーにも行けなくなった友人たちに、自宅にいながらクラブ気分を味わってもらいたいという思いからだ。動画配信中はアンドレア自身もワインを飲みながら、以前の楽しかったひとときに思いを馳せる。

アンドレアさんが配信したDJ放送アンドレアが配信したDJ放送

長い在宅時間を利用して読書や映画鑑賞。家族への思いやりもいつも以上に重要に

この機会に読書や映画鑑賞、料理を楽しもうとする人も多い。イタリアでも7〜8年前くらいから日本のひきこもりは「HIKIKOMORI」とそのまま日本語で紹介されているが、そのひきこもりをテーマにした小説の出版を9月に控えている作家のFerruccio Mazzanti(フェルッチョ・マッザンティ)は、「まさか自分自身がひきこもり生活をすることになるなんて!」と、<事実は小説よりも奇なり>な現状に驚きつつも、この期間中に本を10冊読み終えた。

フェルッチョさんが3月に読んだ10冊の本フェルッチョが3月に読んだ10冊の本

建築士のEnnio Murdolo(エンニオ・ムルドーロ)は、アイロンがけをするようになった。家族と一緒にいる時間が増えた今、家族同士でお互いを思いやり助け合うことが穏やかに過ごす上で欠かせない。妻のElisa(エリザ)は「うちに主夫がいるー!」と大喜びだ。

エプロン姿も様になっているエンニオさんエプロン姿も様になっているエンニオ

ああ、太る。そして・・・イケメンイタリア人から自宅軟禁生活におけるアドバイス

私もそうだが、やはり外出ができないと運動不足になりがちだ。イタリア人は普段からジムに通って体を鍛える人が多いが、なにしろジムは閉鎖中、散歩も自宅周辺200メートル以内のみ。自宅でストレッチや筋トレ、ヨガなどはしているようだが、そうはいっても外出できないストレスでつい飲みすぎたり、食べすぎることも。私の友人たちは「ワインの減りがはやい・・」とぼやき、私は外出禁止令が出る直前に買ったズボンが既にきつくなっている。

「この隔離期間が終わったら、私たちは変わります!」外出禁止令でモナリザもこの通り。「この隔離期間が終わったら、私たちは変わります!」外出禁止令でモナリザもこの通り。

体型だけではなく、身だしなみにも無頓着になりがちだ。地質学者のLorenzo Giacomelli(ロレンツォ・ジャコメッリ)は、普段は体を鍛えているサイクリングが趣味のこちらの爽やかなイケメン。

外出禁止令が出る前の普段のロレンツォさん。サングラスのCMモデルのようだ。サングラスのCMモデルのようだ。

そんなロレンツォから、自宅軟禁生活の身だしなみに対するこんなアドバイスが。

”Il modo migliore per superare questo periodo è avere cura di noi stessi. Pettinatevi, fatevi la barba, non state tutto il giorno in tuta.”
「この時期を乗り越えるための最善の方法は、自分自身を大切にすることです。 髪をとかし、ひげをそり、一日中パジャマで過ごさないでください。」

そして、このアドバイスに添えられた現在のロレンツォの写真がこちらである。

自宅軟禁中のロレンツォさん。サングラスのCMモデルはどこいった?サングラスのCMモデルはどこいった?

外出禁止生活というものは、かくも人を変えるのである。

ちょうどこの原稿を書いている途中、窓の外から「マコーーー」と私の名を呼ぶ声がする。窓を開けて下を見ると、近所に住むGivanni Orazio Lepore(ジョバンニ・オラツィオ・レポレ)ではないか。フィレンツェ大学の地球科学研究者でテレワーク中のこの友人は、スーパーの帰りらしく買い物袋を手に提げている。

通りからこちらを見上げているジョバンニ。通りからこちらを見上げているジョバンニ。

誰もいない通りにぽつんと立っているジョバンニ。なんだかその姿からは哀愁さえ漂ってくる。そんなジョバンニの第一声がこれだった。

「明日から毎日一緒にスーパーへ行こうぜー!じゃないとオレは頭がおかしくなりそうだ!」

孤独で退屈な軟禁生活を、なんとか持ち前のポジティブさで乗り越えようとしているイタリア人たち。ヨガをやったり、料理に凝ったり、読書に没頭したり。でも、なんだかんだいっても彼らの本音はやっぱりこれにつきるようだ。「外へ出たいー!気が狂うー!

4月に入り、フィレンツェは日中20度を超える素晴らしい晴天続きで、イタリア人でなくても外に飛び出して行きたくなるような絶好の外出日和の毎日だ。そんな中、外出禁止は5月3日まで延長が決まった。「うおー、まだあと3週間も続くのかー!」という悲鳴がイタリア中から聞こえてきそうだ。聞こえてきそうどころか、自分も思わず叫んでしまった。先が見えない状況でどこまで外出の誘惑に抗うことができるのだろうか。自分の身すら心配になってきた今日この頃だが、これからもイタリア人たちの動向を見守っていきたい。