東京ミッドタウン日比谷に現れた162mのレッドカーペットを、観客の声援とまぶしいフラッシュを浴びながら歩く世界の映画監督やスター俳優たち。10月27日から11月5日にかけて開催される「東京国際映画祭」には、イタリア映画やイタリアが舞台となった作品も参加し、映画のお祭りが華やかにスタートしました!
映画を通して世界の「いま」を体感する祭典
国内外から263名の豪華ゲストがレッドカーペットを彩ったオープニング。トップバッターとしてオープニング作品『てっぺんの向こうにあなたがいる』から、阪本順治監督、吉永小百合、のんが登場して会場が沸き立ちます。海外からは『母なる大地』のファン・ビンビン、今回は監督として参加する『イン・アイ・イン・モーション』のジュリエット・ビノシュ、コンペティション部門審査委員としてグイ・ルンメイなど、豪華ゲストが華麗な衣装とファンサービスで観客を魅了しました。

10月28日に行われた審査委員記者会見では、審査委員長を務めるイタリア人ジャーナリスト、カルロ・シャトリアンがコメントを述べました。 「10日間、審査委員の皆さんとともに色々な作品を観ながら議論していきます。審査委員長として責任を感じますが、我々が感じた気持ちや感情をまとめて結論を解決に導いていきたい。映画祭では、常に予期しなかった見事なものを見られます。それに立ち会えることが私たちの仕事ですし、驚かされたいと思っています」。

また、審査委員の俳優・監督の齊藤工は、「国境やボーダーというものを意識せざるをえない時代で、違いだったり国境を越えられる一つの手立てが映画だと思っています」と語り、映画祭だからこそ実現できる可能性について言及しました。

イタリア流のシュールなアンチ・ウェスタン
コンペティション部門にエントリーした唯一のイタリア映画は、アレッシオ・リゴ・デ・リーギ、マッテオ・ゾッピス監督の『Testa o Croce? 裏か表か?』。ナディア・テレスキウィッツを主演に迎え、米国の人気俳優ジョン・C・ライリーがキーパーソンを演じる、西部劇へのオマージュあふれる作品です。

【あらすじ】
20世紀初頭の北イタリアの農村地帯。アメリカから来たバッファロー・ビル率いる「ワイルド・ウエスト・ショー」の⼀座が多くの観客を集めている。暴力的な地主の夫ルイジの抑圧に耐えていたローザは、ショーの会場で牧童のサンティーノに出会い、魅了される。その後、ある出来事をきっかけにルイジが撃ち殺され、賞金首となったサンティーノとともにローザは⼭岳地帯に逃亡する…。
途中まで正統派の西部劇っぽく進行していた物語が、あるところから転調し、シュールな世界観へ。正直、筆者は前半部分を退屈だと感じていたのですが、後半、俄然面白くなって目が離せない展開に。見終わってみると、窮屈なコルセットに縛られていた女性が解き放たれ、自らの手で自由を掴みとる物語だったのだと納得しました。
今年の映画祭では『ウィメンズ・エンパワーメント』という部門も注目を集めていますが、まさにその世界観を西部劇のスタイルで描いた作品でした。

伝統的な西部劇を壊す新しい世界観
監督は、アレッシオ・リゴ・デ・リーギ、マッテオ・ゾッピスのふたり。2013年から共同監督としてタッグを組み、初の長編フィクション『The Tale of King Crab』は2021年のカンヌ国際映画祭の監督週間で初上映され、いまイタリア映画界でもっとも期待を集める監督です。
10月29日の上映後に開催されたQ & Aでは、ふたりの監督が主催者や観客からの質問に答えました。この映画の発想について「バッファロー・ビルは実際にローマに2回来たことがあって、そのときのロデオ対決でイタリアが勝ったという話が伝わっています。今回はそこから物語を構想しました」。彼らの作品は、農村に伝わる民話や伝説、口承に焦点を当てた作品で知られています。

また、途中から転調する物語についてはこうコメント。「私たちは初めから、アンチ・ウェスタンを目指していました。西部劇というのはカウボーイが主役で、今回カウボーイを演じたアレッサンドロ・ボルギは、イタリアでとても人気のある俳優。誰もが彼が主役だと思っていますが、途中でストーリーは意外な方向へ流れていきます」。

時間切れで質問できなかった筆者は、舞台裏で監督に直撃しました。「この映画にはメタファーがたくさん散りばめられていますが、冒頭に暴れ馬として登場し、やがてローザを導いていく白い馬は何を象徴していますか?」。筆者の質問に、「君は何を象徴していると思う?」と逆質問する遊ぶ心あふれるふたり。「自由?」と答えると、「おー、ありがとう」と、意図が伝わっていたことを喜んでいました。

世界中からたくさんの応募があったコンペティション部門に選出された「裏か表か?」。自由を求めて力強く成長していく女性を、奇想天外なエンターテイメントとして描いた、観客賞も狙える意欲作です。まだ2回上映があるので、映画のお祭りでにぎわう日比谷・有楽町エリアに足を運んで、ぜひスクリーンでイタリア流アンチ・ウェスタンをご覧ください。
裏か表か?(イタリア/アメリカ)
上映スケジュール
◼️10月31日(金)18:55〜 TOHO ヒューリックホール東京
登壇ゲスト(予定):アレッシオ・リゴ・デ・リーギ(監督/脚本)、マッテオ・ゾッピス(監督/脚本)
◼️11月3日(月・祝)20:20〜 ヒューマントラストシネマ有楽町 シアター1
◼️一般1,800円、学生1,400円
東京国際映画祭 公式サイト

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