明るくて、皮肉が効いていて、でもやっぱり人間愛に満ちてホロリとさせる……。今回はイタリアらしさ満載の映画をご紹介します! それはエドアルド・ファルコーネ監督の《神様の思し召し》(2015年イタリア公開)。原題『Se Dio vuole』を直訳すれば「もし神様が望むなら」という意味です。
今日も完璧なオペで、患者の命を救った心臓外科医のトンマーゾ。医師としては天才だが、傲慢で毒舌で周りからはケムたがられていた。ボランティアが趣味の妻との仲は倦怠気味で、お気楽な長女はサエない男と結婚。でも、頭脳明晰な長男が医学の道を継いでくれれば満足だ。 ところが、あろうことか医大生の息子が「神父になりたい」と宣言! 表向きはモノわかりのいいフリをして教会に潜入したトンマーゾは、息子がハデなパフォーマンスで人気のピエトロ神父に“洗脳”されているとニラむ。さらに、神父が実は“前科者”であることが判明。トンマーゾは、失業して無一文で妻からはDVを受け、もうどん底だと悩む信者を演じて神父に近づく。すると、親身になった神父に家族に会いに行くと言われてしまい、追い詰めるはずが追い詰められるトンマーゾ。果たして、神父の正体は? 崩壊寸前の家族の行方は?
(公式サイトより)
*《神様の思し召し》は現在 Amazon Prime Video、iTunesなどの配信レンタルで視聴が可能です。

なかなか面白そうなストーリーだと思ったあなた、特にイタリアが大好き、イタリアに興味がある、という方ならこの映画はオススメです!
イタリア映画らしいポイント
以下に、この映画について私が「イタリアらしくて好きだなぁ」と思うポイントをあげます。
人間が活き活きと描かれたドラマ
ファルコーネ監督はもともと映画の脚本家で、この『神様の思し召し』が初の監督作品。イタリア人にとって重要な要素でありながら、映画などでは取り上げられることが少ない〈信仰〉(イタリア人は8割以上がカトリック信者)をテーマにした物語が、絶妙なさじ加減で展開します。

イタリア人と接していると、結構ドライで洞察力のある一面と、人間の良心を信じる、友情に厚い一面を併せ持っていると思うことが多いのですが、その二つが、超一流の心臓外科医で自分以外の人間を見下しているトンマーゾと、過去に傷を持つけれど真の信仰心とカリスマ性を持つ神父ドン・ピエトロという二人の主人公に象徴されていると思うのです。
神父役のガスマンがカッコいい
俳優たちは適材適所。まずは外科医トンマーゾ役のマルコ・ジャッリーニ。ヒゲと嗄れ声が渋い! いかにもイタリア人好みの声です。そして眩しそうに細めた目元が厳しそうな雰囲気を醸し出しています。話し方は明瞭で、それが独善的な印象を与えるのも上手い。一方、神父のドン・ピエトロ役は少し甘いマスクの元美男俳優アレッサンドロ・ガスマンが演じています。彼が開く説教の会には若い男女が集い、キリストと弟子たちの冒険話に拍手喝采となります。スター性があるガスマンにぴったりの役です。人懐っこくて人たらしな雰囲気がイタリア人らしく、ドン・ピエトロ神父がヘルメットをかぶって古い石畳をスクーターで走る姿はまさにローマの街ならではの光景……という感じで、イタリア映画の王道を感じさせます。

ファルコーネ監督は最初のうちは、これまで庶民を演じることが多かったジャッリーニを神父役に、ブルジョア階級を演じることが多かったガスマンを外科医役にと考えていたそうですが、熟考の末、それをひっくり返したら最高の結果になりました。加えて、トンマーゾの妻カルラを演じる名女優ラウラ・モランテの、何不自由ない暮らしをしながら自分の存在意義に苦しむ中年女性の演技も素晴らしい見どころです。
イタリアのイケてる音楽に注目
『神様の思し召し』は特に大人にはツボる内容が多い映画だと思います。例えば音楽の使い方。1990年代ごろのポップスやロックの音楽を使っており、主人公トンマーゾのようなインテリ層が好むシンガーソングライター、フランチェスコ・デ・グレゴーリのちょっと哲学的な歌(映画のエンディングに使われている『Cose(ものごと)』)と、甘い歌声で大衆的な人気を集めるナポリ出身のポップス歌手ジジ・ダレッシオの歌(トンマーゾが車を運転している時に流れる曲『Comme si fragile(君はとても傷つきやすくて)』)を、トンマーゾと彼の娘ビアンカの言い争いにからめて使っているのは、実際それらのアーティストを知らなくても納得してしまう心憎い演出です。
『Comme si fragile』ジジ・ダレッシオ
ローマのピッツアが美味しそう!
映画の大きな楽しみといえば食事シーンです(笑)。ちなみに、イタリアではピッツァのタイプが大きくナポリ風ピッツァとローマ風ピッツァに分かれるのをご存知ですか? 縁の部分がふっくらとして少し厚みがあり、歯ごたえが少しモチっとしているのがナポリ風、全体的に生地が薄くて歯触りがカリッとしているのがローマ風です。
トンマーゾとドン・ピエトロが少しずつ交流を深めていく場面で登場するのがこのピッツァ。といってもピッツェリアで食べる丸いピッツァではなくて、切り売りの四角いピッツァにモルタデッラを挟んだもの。ローマのストリート・フードの代表で「ピッツァ・エ・モルタッツァ(Pizza e Mortazza)」と呼ばれています。ドン・ピエトロ神父が荒れ果てた教会の修復作業を独りで進めているところにトンマーゾが訪れる場面で、神父が肉体労働の合間に食べているのがこのピッツァ・エ・モルタッツァ。少し時間が経って紙袋に油が染みているのをかぶりついている姿がめちゃくちゃ美味しそうです。そして物語の後半ではドン・ピエトロとトンマーゾが仲良く並んでピッツァ・エ・モルタッツァにかぶりついている姿が見られるのもウケます。
考えさせる結末
ドン・ピエトロとの出会いのおかげで、トンマーゾは自分の人生に今までとは違う光を当てて見ることが出来るようになります。しかし、物語の最後に思わぬアクシデントが……。映画の結末は、見る人が自分で決められるように余白を残したものになっています。ここでこの映画のタイトル《神様の思し召しのままに》が、この作品のもっとも大事なメッセージになっているように私には思えるのです。

発売中
『神様の思し召し』
\1,257(税込)
発売・販売元:ギャガ
©Wildside 2015
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