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世界で活躍するイタリア人アーティスト、 Donatella Alamprese(ドナテッラ・アランプレセ)さんインタービュー

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世界で活躍するイタリア人アーティストDonatella Alampreseとは?

Donatella Alamprese(ドナテッラ・アランプレセ)はクラシックのトレーニングからはじめ、幅広い音楽ジャンルを開拓し、オペラからジャズ、ポップ、タンゴ、実験音楽まで、洗練された音楽を生み出している世界で活躍をするイタリア人アーティスト。イタリアのバラエティ番組「Indietro tutta!」へ出演後、質の良い音楽を求め、主にリサーチと音楽制作へとキャリアを転向。父方のアルゼンチンルーツに影響され、タンゴのジャンルへ進出し、彼女の並外れた声域、ボーカルテクニックとフレージングで、クラシックタンゴだけでなくアストル・ピアソラ(アルゼンチンの作曲家)のモダンな曲をレパートリーに持ち、もっとも影響のあるタンゴ歌手の一人としての地位を確立した。生まれ持ったステージでの存在感と8カ国語を巧みに歌う才能で、人々を魅了している。

2008年にFIAT500のアジア公式アンバサダーに選ばれ、東京文化会館での公演を含め日本ツアーを2回開催。
2009年、日本人のアコーディオン奏者伊藤ちか子氏と共演するために再来日。
2015年には東京・大阪・京都をツアーのために来日し、東京と大阪のイタリア文化会館など数カ所でコンサートを行う。

日本とも所縁があるDonatella Alampreseさんに、彼女が表現する音楽やパフォーマンスをする時のこだわりなどについて伺いました。

Photo credit:SATORU KAWAGISHI

SHOP ITALIA 音楽との出会いについて教えてください。
Donatella Alamprese 音楽と出会ったというより、生まれた時から私の魂には音楽がありました。
物心がついた時からよく歌を歌っていたし、曲を覚えるのも早かったです。
まだ私が母のお腹の中にいる頃に、母が木から落ちてしまったゴシキヒワを拾い、私が生まれてから、Cicciと名付けられたその鳥は私の親友になりました。私が9歳のときにCicciが死んでしまうまで、いつも一緒に歌を歌い、 音楽で会話をしていたのを覚えています。

SHOP ITALIA 歌手を目指すきっかけをくれた人物はいらっしゃいますか?
Donatella Alamprese 父も歌うことが好きで優秀なマンドリン演奏者だったので父にギターを教わり、音楽の勉強を始めました。それで幼い頃は、父とよく一緒に楽器演奏したり、歌ったりしていました。学生時代はソプラノとして歌の勉強をしながら外国語と文学の学位を取得しました。

SHOP ITALIA タンゴのレパートリーが多いかと思いますが、タンゴを好きになったきっかけは何でしょうか?
Donatella Alamprese 父方の祖父がより豊かな生活を求めてバジリカータ州(イタリア)からブエノスアイレスに移住し、アルゼンチン出身の祖母と結婚しました。小さい頃は、その祖母からスペイン語でタンゴの話をよく聞かせてもらっていました。
父が他界した時、タンゴへの愛がより深くなり、カルロス・ガルデルの「Volver(ブエルボ)」を聴いてよく泣いていました。この曲を聴くと父がブエノス・アイレスでの生活を話してくれた時のことや父のタンゴを歌う歌声、母と一緒に踊っていた姿を思い出します。そのとき、自分の中のアルゼンチンの血を強く感じます。タンゴは私たちが感じる愛、痛み、情熱や、喜びなどを語ることのできる言語だと思っています。

SHOP ITALIA 歌手としての活動を始められたときの話をお聞かせください。
Donatella Alamprese 父が他界した2002年に、ミュージシャンのMarco Giacomini(マルコ・ジャコミーニ)に出会いました。彼と一緒に様々なジャンルの音楽を製作することに力を入れ、アルゼンチン作曲家のAstor Piazolla(アストル・ピアソラ)の後継人とも言われている優秀な作曲家であるSaul Constantino(サウル・コンスタンティーノ)や、現代のタンゴ界で最も影響力のある女性の一人である詩人のMarta Pizzo(マルタ・ピッツォ)とコラボを始め、すべてが魔法のように思えました。
それからしばらくマルタと一緒に、女性の社会進出や音楽とアートを通して国境間の橋を築くことを目標に様々なプロジェクトを手がけました。、それらの活動の一員になれたことがとても誇らしく、貴重な経験ができたと思います。

Photo credit: ANTONIO DESANTIS FOTOGRAFIA

SHOP ITALIA 音楽を製作するときやパフォーマンスを披露する時のこだわりなどはありますか?
Donatella Alamprese “歌声は魂から”が私のモットーです。私がパフォーマンスする時に最も大切にしていることは、誠実に自分を表現するために、自分の気持ちを解放し、感情を観客とに共有することです。今まで歌声を磨くために様々なテクニックを勉強してきましたが、他のアーティストとの違いを生むために必要なのは、テクニックではなく、自分の感情を自由に表現すること、そしてそれを人に伝えることだと思います。自分の心の中で燃える火のように、自分が感じていることをうまくコミュニケーションをしていくことです。毎回ショーを終えたあと、観にきてくれた方々にできるだけハグをします。人と繋がるその瞬間こそが、私のアートの真理です。

SHOP ITALIA 日本語やその他の言語でも歌を歌われていますが、イタリア語以外で歌うことは難しいですか?どのように練習されていますか?
Donatella Alamprese 音楽は世界共通の言語であり、言語に関係なく、人々の心に残る感情的な影響があると思います。言語には独自の音や雰囲気があり、歌うためにその言語を理解する必要はないと思います。
その国の文化や人々の考え方などを知ることができるので、多言語の歌を歌うことが好きです。
私は発音をすぐに覚えることができるのでとてもラッキーですが、本番前は歌詞の意味を調べてから発音をよく練習します。
歌の意味や作詞家の伝えたいことを説明できるまで理解するようにしています。他言語で自然に歌が歌えることは自分でもとても不思議に思いますが、生まれ持った才能に恵まれたと思い、とても感謝しています。それでも、日本語で歌うことはとても難しいと思います。

SHOP ITALIA 一番お気に入りの日本語の曲はなんですか?
Donatella Alamprese 一番のお気に入りは「Yoimachi gusa」という伝統的な曲です。月見草、月明かりだけで身が咲く花など、日本の言葉はとても美しくて、一語一語から生まれる魔法のような表現の仕方がとても好きです。


Video credit:STEFANO GAMBACCIANI

SHOP ITALIA 日本で何度かツアーがあり、パフォーマンスをされているかと思いますが、日本ツアーでの1番の思い出は何でしょうか?
Donatella Alamprese 日本は2008年が初めてで、最後のツアーは2015年に行いました。どちらも素晴らしい思い出になりました!日本人はみんな親切で、アートとイタリア文化を理解してくれていて、美しいものに深い興味があると感じました。日本の文化がとても好きで兄妹が住んでいるということもあって、私の中ではとても特別な場所です。

初めて訪れたのは、自分のアートを通してFIAT 500の発売を記念するイベントをサポートするためでした。イベントは成功して、その後、東京にあるイタリア文化会館で2回ほどパーフォマンスをしましたが、どちらも満席で日本の方々の暖かさを感じました。他言語で歌う歌にも拍手してくださったり、パフォーマンスを楽しんでもらえました。

SHOP ITALIA コンサートの構成はどのように考えますか?
Donatella Alamprese 私がコンサートをする目的は、自分のパッションを共有するためです。コンサートをする時は何から何まで、構成を一から考えます。曲のアレンジをしてくれているマルコとバイオリニストのAndrea Farolfi(アンドレア・ファロルフィ)と一緒に音楽と構成のアイデアを共有し合います。コンサートでは、言葉や音楽を通じて物語を作り、観客に冒険を提供します。詩を通じて人生の様々な経験を語ったり、社会的なトピックなどを取り上げたりしています。コンサートを通じて送っているメッセージは人それぞれ感じ方や捉え方は違うと思いますが、コンサート後、観てくれた人が私に「ありがとう」と感謝の言葉を言いに来てくれたときがミュージシャンとして一番達成感を感じます。

SHOP ITALIA 新型コロナウィルス(COVID−19)が私たちに与えた影響はなんだと思いますか?
Donatella Alamprese COVID-19は私たちの人生だけでなく、考え方や生活の仕方に大きな変化を与えました。ロックダウンは人生において本当に必要なものは何か?と考えさせてくれたと思います。
それと同時に、愛する人を亡くすという痛みを経験して、命の儚さ、この出来事に対する無力さと今この瞬間を生きるという概念を常に持って生活していくことの大切さを教えてくれたと思います。

SHOP ITALIA 世界中で新型コロナウィルスの感染者が増え、自宅で過ごす時間が多くなっている中、多くのアーティストが自宅から音楽を届けていますが、この状況の中で音楽とエンターテインメントはどのように役に立つと思いますか?
Donatella Alamprese パンデミックが起きている中でも、音楽を自宅から届けることはアートや音楽を通じて気持ちを表現してコミュニケーションを取ることの大切さを象徴していると思います。大変なときだからこそ団結して希望を届けています。音楽や気持ちを直接表現できるライブの再開やシアターの営業再開などがもうすぐできるといいですね。

SHOP ITALIA ドナテッラさんにとって、音楽業界で活躍する女性たちの中で一番インスピレーションを受ける人はどなたでしょうか?
Donatella Alamprese ソプラノとしてクラシック音楽を勉強していたときのインスピレーションは、カルチャー音楽とポピュラー音楽を融合させた素晴らしい歌手のCathy Berberian(キャシー・バーベリアン)でした。音楽ジャンルを限定するのではなく、視野を広げて融合させることが好きです。Ella Fitzgerald(エラ・フィッツゲラルド)とEdith Piaf(エディット・ピアフ)も尊敬する女性歌手です。音楽を通じて、困難を乗り越えた方々です。そのほかには、アルゼンチン人の作曲家兼歌手のEladia Blazquez(エラディア・ブラスケス)も尊敬しています。独裁政権の中、彼女は抗議の歌を歌っていたとても勇敢な女性です。同性愛者であることも周りを恐れずに公表していました。音楽はどんな時代であろうと、どんな形でも、女性を勇気づける力があります。

SHOP ITALIA ”The Voices Of Eve”について教えてください。
Donatella Alamprese 私のショー、”The Voices of Eve”は女性の視点で描かれており、、世界中のあらゆる国や文化の中で生活する女性が時代が変化しても暴力の対象であることがハイライトされています。この物語は、西暦415年の哲学者でヒロインであるアレクサンドリアのヒュパティが、誰もが自由の思想を持つべきだと主張し、群衆から石を投げられた出来事から始まります。世の中が持つ、女性に対する考え方が昔も今も変わらないということに焦点を当てています。

この物語を作るためには、たくさん勉強が必要でした。その目的は、女性の権利と社会の変革における女性たちの役割をより認識させることです。男性の方もよくショーを観に来てくれますが、観ていただいた方の心に変化を与えて、やがてもっと多くの人に影響を与えていけたらいいなと思います。

SHOP ITALIA 今回、SHOP ITALIAの読者向けに詩を詠んで頂きましたが、その詩について詳しく教えてください。
Donatella Alamprese 私は詩がとても好きで、詩集を集めています。若い頃から詩を読むのが大好きでした。今回は、3人の女性作家が書いた詩を選びました。

一人目は、イタリア人作家のAntonia Pozzi(アントニア・ポッツィ)が書いた詩です。彼女は、詩を書くこと通じて感情を表現していましたが、父は作家としての活動を認めてくれませんでした。26歳の時に自殺をして亡くなった方です。

二人目は、イタリア人作家のIsabella Morra(イザベラ・モラ)が書いた詩です。彼女は隔離されたイタリア南部、ヴァルシニ近くのファヴァーレ城で短い生涯を過ごしました。彼女は作家としての才能が溢れていましたが、家族を含め周りの人に誤解されていました。26歳の時に、スペインの貴族と恋愛していると勘違いした自身の兄弟に殺されてしまいます。

三人目は日本の作家、詩人、フェミニスト、平和主義者と社会改革者の与謝野晶子が書いた詩です。彼女の詩は日本のもっとも古い詩である短歌です。彼女が書いた詩はとてもロマンチックで繊細で、すごく好きです。

SHOP ITALIA 女性として強く生きた方々を読者の皆様へご紹介いただき、ありがとうございます。
ドナテッラさんによる詩の朗読を楽しみにしています。

SHOP ITALIA公式IGTVにて、シリーズDonne e Poesiaを配信していきます。
ドナテッラさんが選んだAntonia Pozzi(アントニア・ポッツィ)、Isabella Morra(イザベラ・モラ)と与謝野晶子の詩を朗読してもらいます。
ぜひご覧ください!

Donne e Poesia Vol. 1

Stelle cadenti – Antonia Pozzi, 21 Ottobre 1933

原文
Quante !
così da pensare
che il vento,
l’immenso
fanciullo supino,
le scagli per gioco oltre il ciglio
della sua culla affondata
di là dai monti,
nelle invisibili valli –

quante! così da pensare
a un improvviso migrare
di luminose rondini, in fuga
davanti al volo
lentissimo della luna –

Prodigiose stelle – zampilli
di aeree fontane –
piume scosse da un’ala
di fiamma – sui mondi –

fiori di mandorlo colti
negli orti
infiniti – che la notte disfoglia –

gioia effusa alla soglia
degli alti spazi – per celesti
sponsali –

ombre di faci ed echi
di canti astrali
sulla pena
degli uomini

日本語要約

「流れ星」アントニア・ポッツィ作 / 1933年10月21日

多くも、多くも、吹き荒れる風は
いたずらをする子供が
連なる山の間の見えない谷にある
ゆりかごの端から(星を)投げているかのように

多くも、多くも、
(星が)輝くツバメの群れがゆっくり動く月の前を通って
突然飛び立つかのように

夜空が解き明かす、この素晴らしい星たちは
空中の噴水からくる水しぶきのように
世界中の燃え上がる炎によって舞い上がる羽根のように
無限の畑から収穫するアーモンドの花のように

天の夫婦のために、人間の苦悩を消し去る、
顔の影と星気の歌声のエコーのように
空へと喜びを広げる

SHOP ITALIA IGTV
「Donne e Poesia vol.1」はこちらから

Donne e Poesia Vol. 2

Ecco ch’un’altra volta, o valle inferna – Isabella Morra, Opera Postuma 1552

原文

Ecco che’un’altra volta, o valle inferna,
o fiume alpestre, o ruinati sassi,
o spirti ignudi di virtute e cassi,
udrete il pianto e la mia doglia eterna.
Ogni monte udirammi, ogni caverna,
ovunqu’io arresti, ovunqu’io mova i passi;
che Fortuna, che mai salda non stassi,
cresce ogn’or il mio male, ogn’or l’eterna.
Deh, mentre ch’io mi lagno e giorno e notte,
o fere, o sassi, o orride ruine,
o selve incolte, o solitarie grotte,
ulule, e voi del mal nostro indovine,
piangete meco a voci alte interrotte
il mio piu d’altro miserando fine.

日本語要約

またもや地獄のような岩谷
アルプスの山河、破滅的な高峯
全ての美徳が取り除かれた空っぽの魂
私の叫び、終わりのない悲しみが響く
どこに立とうが、どこへ歩いていこうが、
すべての山、すべての洞窟へ私の声は届くはず
時間が経つとともに永遠に続く痛みを増し
休むことも止まることもない私の運命のために
日夜泣き暮れる私に、
野獣よ石よ廃墟よ、
手付かずの森と孤独な洞窟よ、
病気を予兆する鷹とフクロウも
私と一緒に枯れた声で大きく吠えよ
誰よりも悲惨なこの運命を嘆き悲しもう

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「Donne e Poesia vol.2」はこちらから

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