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【連載】大塚ヒロタとイタリアと、コメディア・デラルテ「愛すべきイタリアシリーズ vol.3」

 この私が実際に体験したそんなカルチャーショックな話を紹介している「愛すべきイタリアシリーズ」vol.3はvol.2の続きとなるので、未読の方は是非vol.2から読んでいただきたい。

愛すべきイタリアシリーズ vol.1を読む
愛すべきイタリアシリーズ vol.2を読む

【前回のあらすじ】

 <トマト、バジル、チーズ味のものを食べ続け、イタリア料理以外のものが食べたい!特に大好物のラーメンに対する思いがMAXになったイタリア生活6か月目。コメディア デラルテの稽古から帰宅すると不在通知。実家から送られてきたカップラーメンがたくさん詰まっている国際郵便の段ボールだ!!それを受け取りに私は不在通知表を手にスキップして徒歩3分、いやスキップ2分の郵便局に荷物を取りに行ったのだが、そこでもカルチャーショック満載の対応を受けただけでなく、そこに私の荷物はないというのだ。。。そっちが不在通知を入れてきたのに??狂おしいほどにラーメンが食べたい私は吠えた!!うぉぉぉぉぉっ!!そんな私に郵便局員は呆れながらこう言った「聞け中国人、ここにはお前の荷物はない。もしかしたら本局にあんじゃないのか?」と。

 聞くと、ここからバスで30分程度のところにこの地域の本局があり、そこに荷物があるのではないか?というのだ。いやいや、なんで家から徒歩三分のところから来た荷物がバスで30分の別の局に行っちゃうんだよ・・・。と思ったが、私はどうしても今日ラーメンが食べたいのだ!!意を決して私はバス停へ向かうことにした。>

 話は少しそれるが、私はバスが好きだ。特に海外で街の中を移動する時のバスが好きだ。街の景色を見ながら、多くの発見があるし、なんせ地理的感覚が養われる。「あっ!こことここって一本道で繋がってたんだ!」とか「むむ、あんなところに美味そうなジェラッテリアがあるぞ!」など電車や地下鉄ではできない発見があるのだ。ローマのバスはスリとの睨み合いだが、コメディア デラルテの学校のあったレッジョ・エミリアはのんびりとした小さな町なので、そんな心配もない。ただ、一つバスにも問題があって、どのバスがどう走っているのか、どのバスに乗れば目的地にたどり着けるのか把握するのがなかなか難しい。今ならgoogle mapで簡単にできるのかもしれないが、当時そんな便利なものはなく、苦労したものだった。

 そして、その本局のある場所はかなり町の中心地から離れた場所にあるようだった。そこに行くにはバスを乗り継いで行くしかないようだ。自転車で行く方法もあったが、おそらく一時間近くかかるし、荷台がなかったので帰りにダンボールを抱えて帰るのは無理なので、バスを乗り継いで行くことにした。こんなにイライラして楽しくないバスもなかなかないが、ラーメンのためだ!私は決して時間通りには来ないバスを乗り継ぎ目的地に向かった。

 目的地は本当に町はずれで景色を楽しむどころか何にもない道をひたすら走る。。。そして何やら倉庫街のような地域にたどり着いた。運転手に本局に行きたいと言っておいたので、「ここで降りなぁ。」と運転手が教えてくれた。そこは人っ子ひとり歩いていない倉庫街の片側3車線の大きな幹線道路にポツンとあるバス停だった。車はブンブン走っている、人が歩いて移動するところではないのは一目でわかった。すると道の先の方に小さく郵便局の看板が見えた。10分以上かけて私は埃と汗にまみれて歩き本局にたどり着いた。

 本局は郵便局というよりまさに倉庫であり、郵便物が保管されている巨大な倉庫にプレハブのような簡易の受付が付いているだけだった。受付には例によってチケット発券機が鎮座していたが、私も郷に入っては郷に従いそんなものは無視して不在通知を手に早くも臨戦体制をとってこう言った。

 私 「ここに私の荷物があるようだ。これがその不在通知表だ。早く俺の身荷物を持ってきてくれ。」

 すると、不在通知表を一瞥した局員は私にこう言った。

局員 「これは、うちが発行したものではない。おい、中国人、これはお前の家の住所のすぐ近くの分局のものだ。なぜお前は家からすぐのところに郵便局があるのに、こんなところまで来てしまったんだ??」

 私 「・・・・そっちに行って、ここにあるって言われたからわざわざ来たんだよ・・・。」

局員 「とにかくここにあるはずがない。」

 でしょうね。あるはずがないのよ。だってこっから来てんじゃないんだもの荷物は。。。私はなすすべなくまた埃まみれになりながら幹線道路を逆戻りし、バスを乗り継ぎ元いた場所に戻るしかなかった・・・。バスの中で私は怒りと無力感で泣きそうになった。ラーメンが食べたいだけなのに、不在通知の来た荷物を受け取りたいだけなのに・・・。こんな簡単なことができないのかこの国での私は・・・。アメリカに渡ったばかりの時に「ストロベリー」が通じなくて1ヶ月毎日ブルーベリークリームチーズのマフィンを食べた日々が蘇ってきた。

 私は、最初に来た郵便局に怒鳴り込むように入った。もちろんチケットは無視した。驚くべきことに俺がさっき話に割り込んだ近所のオヤジがまだカウンターで局員とだべっていた。俺はもう何もかも無視してさっきの局員に言った。

 私 「おい!本局まで行ったがなかったぞ!!あるわけないって言ってたぞ!!」

局員 「オイオイオイ、そんなこと俺に言われても俺のせいじゃない。じゃー、俺にはわかんないよ」

 私 「いや、お前がそこにあるかもっていったんだろ!つべこべ言ってないで、もう一回俺の荷物があるかどうかチェックして来い!!」

 すると局員は「このわけわかんないやつどうにかしてくれよ」と言った表情でそこにいた全員に目配せすると、奥に消えていった。私もこの局員をもう一度見に行かせても何が起きるとも思えなかったが、このまま負けっぱなしではサムライの国に生まれた男として面目が立たなかったのだ。

 ただ、この物語はここであっけなく終焉を迎える。その局員は私の荷物をもって倉庫から戻ってきたのだ。そしてこう言った。

局員 「おい、お前の荷物あったぞ。」

 私はワナワナと震えた。。。なんだったんだ、今までの数時間の無駄足と屈辱の数々は・・・。なんだったんだ・・・。これにはどんな経緯かあったのだ?

 すると、局員こう言った。

局員 「なんだ、あったのに何怒ってんだ?嬉しくないのか?」

 くぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~、しびれる!!これぞ愛すべきイタリア!! Ti Amo

 そんな風にして食べたカップラーメンの味は涙で塩っ辛かった。

この大騒動の舞台小さな町レッジョエミリアの中心広場。気候のいい週末は人がたくさん集まる。

コメディア デラルテの鼻の長いカピターノの仮面をかぶっている私

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