CULTURE

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【連載】大塚ヒロタとイタリアと、コメディア・デラルテ「愛すべきイタリアシリーズ vol.2」

「カルチャーショック!」イタリアでの生活はそれの連続だった。

私は師匠アントニオ・ファーヴァのコメディアデラルテに出会い28歳の時にイタリアに渡った。それなりに海外生活にも慣れていたつもりだったが、この国には毎日の様に驚かされた。この「愛すべきイタリアシリーズ」では私が実際に体験したそんなカルチャーショックな話を紹介しているのだが、前回が好評だったので直ぐにvol.2を書くにことにした。(Vol.1を読む

あれは確かイタリア生活が半年を過ぎた頃の話だ。まずはイタリア語の学校に3ヶ月ほど通い、慣れない男性名詞や、女性名詞、多様に変化する動詞に四苦八苦しながらもイタリア語でのコミュニュケーションもなんとか様になってきて、肝心のコメディアデラルテのクラスも夏季の集中クラスに向けて熱の入った稽古が続いていた。

イタリア語の語学学校にて。

コメディア デラルテの稽古風景

そう、いわばイタリア生活にすこしずつ慣れ充実してきたのだ。馴染みの肉屋や、お気に入りのピザ屋、パニーニが食べたければあそこがいい!!などと楽しい時間も増えてきた。だが!!同時に大きな問題に直面していた!!

『食べ物が全部、トマト、チーズ、バジル味なんだ!!!!』

いや、美味いんだよ。とっても美味いんだけど、毎日だと飽きる・・・。
日本人の私はやっぱり醤油や味噌の味が恋しくなるし、例えば中華やハンバーガーだっていい!!イタリアン以外の飯が食いたい!!という衝動が半年を過ぎて爆発寸前だった!!

イタリアという国はもともと都市国家で、自分の街にとても誇りがあり、その中でも食文化にはとてつもないこだわりがある。ボローニャでは皆ボロネーゼが何より美味いと思ってるし、フィレンツェでご馳走といえば必ずステーキのフィエオレンティーナだ。そして港町ジェノヴァのレストランではどこでも圧倒的イチ押しはバジルソースのジェノベーゼなのだ。だから、ボローニャに行って昨日もボロネーゼ食べたからジェノベーゼを食べたいなぁ、なんて言おうものなら全員から『なんで??』の視線を向けられる。むしろボローニャのレストランにはジェノベーゼがない可能性も十分ある。自分の土地のメニューが世界一美味いとみんな信じている。だから、あまり外国や他の都市の食文化が入ってこないのだ。

ステーキのフィオレンティーナ

私のいたレッジョ・エミリアはちいさな町だったので、なおさら日本食レストランはもちろん中華もなかった。おそらくあの町で暮らしていたアジア人は、僕と駅前で小さな中華系の雑貨屋さんを営んでいた老夫婦の3人だけだったのではないかと思う。そんな状況では、特に私が愛してやまないラーメンなんてのは夢のまた夢であり、半年もそれを食べていないので禁断症状で体が震えそうなほどであった。
 
そんな時である!!稽古から帰ると玄関の扉に何やら黄色い紙が挟まっていた。おもむろにそれを手に取ると、それは郵便局からの不在通知であった。差出人は実家。その瞬間、わたしの体には電流が走った!!

「そーーだ!!!母ちゃんが日本の食べ物を段ボールに詰めて送ってくれたんだ!!」

船便で2ヶ月くらいかかってしまったのですっかり忘れていたが、スナック菓子や調味料、そしてカップラーメンを頼んであったんだ!!しかも、当時流行り始めたクオリティの高いお店の味を再現した生麺タイプのものや、具材が真空パックになった「ちょっといいカップラーメン」をお願いしたんだった!!うぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!!母ちゃんありがとう!!!私の口は完全にラーメンになった!

最寄りの郵便局はここから徒歩3分だ!!私はスキップしながら郵便局に向かった。郵便局に着くと、日本のそれと同じようにチケットを取って順番を待つシステムだった。私は逸る気持ちを抑え、チケットを取った。局内には5〜6人の人が待っていたが、それくらいならすぐに順番が回ってくるだろうと胸を躍らせて待っていたが、待てど暮らせど俺の番号は呼ばれない。。。。なぜかと思ったら、チケットなんて取らないで直でカウンターに行ってしまう人がほとんどで、しかもそれに普通に局員が対応してしまうのでチケットの意味がないのだ・・・。しかも、荷物を取りに来たとかではなく、近所のやつがただ雑談しに来てるだけだったりする。なんなんだ!!ふざけるな!!俺はラーメンが食いたいんだぞ!!しかも狂おしいほどに!!私はチケットを振りかざし、雑談してる近所のおじさんと局員の会話に割り込んだ!!
 
私 「私はずっと待ってる!!いつになったら俺の番号は呼ばれるんだ?」

局員 「オイオイオイ、どうしたんだ?何を怒っている中国人?」(なぜ中国人と呼ばれるかは前回の記事を読んでほしい。)

私 「荷物を取りにきた、このチケットを取って俺はずっと待ってる!!」

局員 「荷物を取りに来たのか?ならなぜ俺のところに言いに来ないんだ?」

ここでキレてはいけない。俺は楽しい気持ちでラーメンが食べたいんだ!私は深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、不在通知表を局員に手渡した。ただ、そのまま引き下がるのは癪なので私も一言言ってやることにした。

私 「直で来ていいなら、チケット意味ないじゃん。なんでおいてあんの?」

局員 「チケットは順番を決めるために必要だ。ただ、今この俺の友人が俺に話があって来た、チケットと友人とどっちが大切なんだ?」

なんだか、俺が間違っていたような気にさせられた上に、人間としてもしかしたら俺はとんでもない狭い見識を日本の社会に植え付けられたのではないか?と思えてきた・・・。いや、そんなこたーない!俺はサムライだ!!負けるか!!そんな道徳的な話をしているんじゃない。現にチケット無視で荷物を受け取っていく人もいたし、とにかく適当なだけだ!!私は気を取り直して言った。

私 「とにかく、雑談してないで、いち早く俺の荷物を取って来い」

大きなため息をついた局員は保管庫に消えていった。しばらくすると局員はダラダラした歩調で手ぶらで戻ってきた。

局員 「おい中国人、荷物ないぞ」

私 「そんなはずはない、そっちが不在通知を入れてきたんだろ?しかも、配達は午前中だ!もうここにあるはずだ!」

局員 「だから、見たけどないんだって。わかるか?中国人」

私 「もう一回見て来い!!俺はラーメンが食べたいんだ!!!!!!!!」

私のシャウトに局員はさっきの倍の大きさのため息をして、もう一度保管庫に渋々消えていった。しかし、また手ぶらで戻ってきた。

局員 「聞け中国人、ここにはお前の荷物はない。もしかしたら本局にあんじゃないのか?」

聞くと、ここからバスで30分程度のところにこの地域の本局があり、そこに荷物があるのではないか?というのだ。いやいや、なんで家から徒歩3分のところから来た荷物がバスで30分の別の局に行っちゃうんだよ・・・。と思ったが、私はどうしても今日ラーメンが食べたいのだ!!意を決して私はバス停へ向かうことにした。

続く