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【連載】大塚ヒロタとイタリアと、コメディア・デラルテ「アートにエールを!」

「お前のやっていることは、必要とされていない!」

自粛期間にそういう気持ちにさせられた人は私だけではないはずだ。多くの人が自分の存在意義や新たな価値観について考える時間を持ったのではないだろうか。
確かに私の生業としている「芝居、演劇」は、それがなくても人が死んでしまうようなことはない。
しかし、国民総自粛という誰も経験したことのない、終わりの見えないトンネルの中をひたすらに歩かされる様な期間を過ごす中で、人々は何を強く欲したか?それは心を豊かにしてくれる時間だったのではないか。

心を豊かにしてくれるものの代表格に「芸術・アート」がある。その中でも私は、こんな時こそ人々に笑い声と笑顔を提供する“コメディ”の出番なんじゃないかと自粛生活が始まる前から思っていた。
しかし、私のコメディア・デラルテは、目の前にいるお客様とコミュニケーションをとりながらの即興の要素が肝になる演劇だ。観客の呼べない会場で私に何ができるのか?弱気になりかけた時スタッフが教えてくれたのが、

「アートにエールを!東京プロジェクト」

だった。かいつまんで言えば、プロのアーティストが映像作品をWeb上に掲載し、発信する機会を設けることにより、アーティストの活動を支援するとともに、在宅でも都民が芸術文化に触れられる機会を提供するものだ。これは、1作品につき最大10人まで協力金が支払われる、いわゆるアーティスト支援のプロジェクトだ。
舞台は映像で見るより劇場で体感するもの。という大前提はあるとしても、これは逆に今しかチャレンジできないことだと思い、私は「アートにエールを!」に作品を提出することに決めた。そして、まず私の団体の公演スタッフに声をかけ、今回のことで実質仕事がほぼなくなってしまったいつものメンバーが、この自粛で廃業に追い込まれる事のないように参加を呼びかけた。

一人でのスタジオ稽古はなんだか豪華でした一人でのスタジオ稽古はなんだか豪華でした

 自粛生活の真っ只中、企画会議やミーティングはオンライン上で行い、稽古や撮影時にもいわゆる「三密」にならない用な対策を皆で話し合った。幸いスタッフの一人が、リモートワークで誰も使わなくなったオフィスを稽古場兼撮影場所として提供してくれた。稽古場までの移動も公共の交通機関を避け、稽古場にも最小人数、そして換気やソーシャルディスタンスに気をつけて進めていった。

稽古中もソーシャルディスタンスを保つ。いつもとは勝手が違う稽古中もソーシャルディスタンスを保つ。いつもとは勝手が違う

 最初は10分以内の作品で2、3日の稽古で準備できるものをと思っていたが、進めているうちに25分のがっつりの一人芝居が出来上がった。 台本を書き、会議を重ね、稽古をする毎日。私はその試行錯誤の日々に、この上ない充実感を感じていた。コロナ自粛により沢山の楽しみにしていた仕事が延期や中止になった。そして、自分の「できること」「しなきゃいけない事」がどんどんなくなった。そこに舞い込んできたこの機会。協力金はもちろんありがたいが、私にはこの時間と環境をもらえた事が何よりのエールとなった。

グリーンバックで合成素材撮影!!仕上がりには笑った。グリーンバックで合成素材撮影!!仕上がりには笑った。

 私はこの受け取ったエールを、今度はコメディア・デラルテを通して皆様にお返しするという気持ちでこの作品を作った。いつもながらの全身全霊の喜劇。ただ、十八番の客いじりは無観客のため封印された。そんな中、映像で何ができるか?自分たちのカラーを残しつつ限られた環境の中で全力で挑んだ。そして、私たちの初めての映像作品が出来上がった。

ラストシーン撮影前の一コマラストシーン撮影前の一コマ

こちらから無料でご覧いただけるので是非ご覧ください。
タイトルは
「Value」


https://cheerforart.jp/detail/503

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