CULTURE

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大人も子供も夢中に!フェラーラ大道芸の祭典

ユネスコ遺産の街で楽しむ世界屈指のストリート・フェスティバル

イタリア各地で40度を記録する熱波に見舞われた8月下旬。私が引っ越してきたばかりのフェラーラも例外ではありませんでした。日中の外出は必要最低限にとどめ、夕食後の涼しくなりかけた頃に新しい街を散策したいと思っていたところ、ちょうど開催されていたのがフェラーラ夏の風物詩『バスカーズ・フェスティバル(Buskers Festival)』です。



「Busker」とは「大道芸人」を意味しますが、このフェスティバルでは多ジャンルのバンド演奏から、アクロバット、子供向けの出し物、タロット占いまで、イタリア国内外から多彩なストリート・アーティストたちが、この地方小都市フェラーラに集結。1988年に初めて開催されて以来、その規模と知名度は広がり続け、今や世界有数のストリート・フェスティバルとして、地元民だけでなく多くの観光客に親しまれています。 町おこしの成功事例ともいえるでしょう。


今年度のポスター

会場のフェラーラ旧市街は、ユネスコ世界遺産にもなっているほど美しいところです。王道のイタリア観光ルートからは外れてしまうような小さな町ですが、その魅力はこれから住み慣れていく中で、少しずつご紹介したいと思います。 


ちょっと覗くだけのつもりが帰りたくないほど楽しい夜に 

街のシンボル、エステンセ城前の広場も夜はステージに 

毎年8月下旬に街中をにぎわせる祭典『バスカーズ・フェスティバル』。今年の会期は8月23日~27日で、前日22日には、水路が美しい近郊の町、コマッキオで恒例の前夜祭が行われました。


メイン会場のフェラーラ旧市街に新居を構えたばかりのわが家も「週末は混雑するだろうから、今日のうちに覗いておこうか」と、開幕二日目の木曜に思い立って参加。息子に甚平を着させ、日本の地元の夏祭りに行くような気軽さで出かけました。 


初めて見るアクロバット演技に息子も興味津々

事前に出演者情報も何も確認せずふらっと出かけたのですが、この夜出くわしたステージは、また見たいと思ったものばかり。予想以上の楽しさに、結局五日間の会期中、三夜に渡って参加したのでした。 


大盛況だったスペインのバンド

『バスカーズ・フェスティバル』をおすすめしたい理由

出演者と観客の距離の近さ

出演者と観客の距離の近さはストリート・フェスティバルならでは。お客さんの中には、ミュージシャンの目の前まで躍り出てノリノリに身体を動かす人、演奏の合間にアーティストとお喋りに興じる人も。警備員が止めに入ることもなく、とにかく自由な雰囲気です。 


大人も子供も大はしゃぎ

人混みを気にせず楽しめる

会場は、程よく賑わう旧市街の広場や公園、道端の随所に分散するので、日本の大花火大会や三大祭のように、人混みをかき分けてやっと見物!なんてことはありません。飲み物を片手に夜のそぞろ歩きをしながら、偶然通りがかったパフォーマンスに足を止めては、心行くまで楽しむような気ままなイベントです。 


大通りも夜は歩行者天国に 

子連れも安心

大混雑することがない自由参加の野外フェスティバルというのは、幼い子供連れの家族も安心して参加できるポイントになりますね。実際、子供を対象としたパフォーマンスもそこかしこで見かけました。 


最終日はシャボン玉のショーに子供たちが大はしゃぎ 

会場の一体感が最高潮だったステージ


先ほど舞台へ躍り出る観客について書きましたが、逆に自ら聴衆をステージに引き込む出演者もいました。5メートルもあるポールの上で、ヘルメットも命綱もなしに次々とアクロバット技を披露していたチリ出身の曲芸者、ミストラル(Mistral)です。 


高所で神業を繰り広げる彼を四方からロープで支えていたのは、なんと演技開始前に突如指名された観客8名。もちろん、いきなり彼らにロープを託したのではなく、まず2名ずつステージに呼んでは、アドリブの物真似や冗談でお客さんを一緒に笑わせます。これに費やすることおよそ半時間。本番の曲芸とは一見無関係のようで、実はショーのコンセプトでもある「信頼」を観客と築くため、意図的に仕込まれたプロローグでした。


蛍光色ベストの男性たちがこの日選ばれた助っ人 

そうしてようやく始まったアクロバットは、誰も目が離せない圧巻の技の連続。あいにく途中で息子がぐずってしまい、最後まで見届けることができませんでしたが、来年も会えることに期待です。 


ユニークなアクロバット演技に広場は拍手喝采の嵐 

『バスカーズ・フェスティバル』の歴史と次回情報 

さて、少しはバスカーズ・フェスティバルの良さをお伝えできたでしょうか。本記事にも登場したアーティストのステージ動画は、こちらにも少し載せています。


では最後に、『バスカーズ・フェスティバル』誕生の歴史を少し。きっかけはステファノ・ボットーニという音楽愛好家の一市民による呼びかけでした。


1980年代後半、鍛冶屋職人だった彼は、旅先のパリでストリート・アーティストに魅せられ、自国での大道芸の祭典を思いつきます。イタリアはまだ、音楽家が街角で歌うにもなにかと肩身の狭い時代で、彼らが自由に表現できる場を作りたかったそうです。しかし、こうした時代背景もあり、大道芸に特化したお祭りというのは突飛なアイデアでした。


バンド演奏の前に挨拶をする赤いシャツの男性がボットーニ氏


さらに、当時のフェラーラ市長が開催を許可したのは8月、住民はこぞってバカンスに出払ってしまう時期で、インターネットとも無縁の時代に他所から観光客が来ることは稀でした。 


それでも信念を貫き準備に奔走したボットーニ氏は、1988年に初回の開催を成功させます。そして翌1989年には、近郊のボローニャに住んでいた国民的歌手の故ルーチオ・ダッラも出演。これにより、フェスティバルの名は瞬く間にイタリア全土へ知れ渡りました。以降も著名人の参加は続き、2020年にはロック歌手のジャンナ・ナン二―二がサプライズでコンサートをしています。 


こうして35年以上の歴史を歩んできた当フェスティバルは、これまでに80万人以上を集客、世界中から9千以上のバスカーズが出演してきました。後者については現在招聘枠と事前選考枠があり、いずれも選りすぐりのアーティストだけが舞台に立つことができます。 


火の曲芸をするカップルは近年常連の出演者 

出演者情報は随時公式サイトに掲載されるので、お目当てのアーティストを観に来るのもいいですね。次回日程はまだ発表されていませんが、例年通り8月下旬となるはずです。この時期にフェラーラの近くへいらっしゃる機会があれば、どうぞバスカーズ・フェスティバルをお見逃しなく! 


フェラーラ・バスカーズ・フェスティバル公式サイト 

www.ferrarabuskers.com