マッジョーレ広場に突如現れる巨大スクリーン
毎年、暑さが本格的になる頃、ボローニャの旧市街中心、サン・ペトローニオ教会に面したマッジョーレ広場では、大きなスクリーンの設営が始まります。そして、広場の一段高くなった部分、Crescentone(クレシェントーネ)(ボローニャ名物のストリートフード「Crescentine(クレシェンティーネ)」に由来)にはパイプ椅子が並べられます。
これは、毎年ボロニェーゼたちが楽しみにしている無料の野外映画祭の準備です。
ヨーロッパでも最高峰の映画フィルム修復技術を誇るチネテカ
ボローニャには1963年に設立され、95年から市の独立機関となったCineteca Bologna(チネテカ・ボローニャ。以下チネテカ)があり、映画フィルムの保存・修復技術はヨーロッパでも最高峰と言われています。
そのチネテカが主催する野外映画祭が「Sotto le stelle del Cinema(星空の下の映画館)」です。第26回目となる今年は、コロナウイルスの影響で「大人数が集まる野外映画祭は開催されるのか?」と、多くの人が気にかけていましたが、無事、密を避ける方法で7月4日から40日間以上にわたる上映が決定しました。
野外映画祭を開催する上でのコロナ対策
例年であれば、広場に椅子が配置され、いつでも、誰でも、席が空いていたら予約なしでも腰掛けることができ、映画を鑑賞することができていました。しかし、今年は開催方法もコロナ対策仕様となっています。
日本のイベント開催時のコロナ感染防止対策としても参考になるかもしれないので、以下に特徴をご紹介します。
1.座席は全て予約制。チネテカのオンライン経由、もしくは、マッジョーレ広場に面したポテスタ宮(Palazzo del Podestà)の中にあるボローニャの観光インフォメーションオフィス「Bologna Welcome」で事前予約必須。
2.家族・カップルなどは隣同士で座席指定できるが、グループ間は2席開けること。
3.21時30分からの上映に向けて、夕方には広場は柵で囲まれる。20時に広場の四隅にある入り口がオープンし、チケットを持っていない人は入場不可。
4.野外だがマスク着用は必須。熱があれば入場不可。
5.マッジョーレ広場以外に郊外にあるチネテカの施設BarcArena(バルカレナ)でも同じ映画を同時上映することで、座席数の少なさを補っている。
といった具合です。
映画上映前に、ボローニャの魅力を発見
日が落ちてくると、映画祭の名前通り、空に星がちらほらと見え始めてきました。
さあ、いよいよ21:30に星空の下の映画館オープンです!
この日、上映された映画は「I ragazzi dello Zecchino d’Oro(ゼッキーノ・ドーロの少年少女)」(2019)。日本でもお馴染みの「黒ネコのタンゴ(原題:Volevo un gatto nero)」や「ママごめんなさい(原題:Non lo faccio più)」、「44ひきのねこ(原題:Quarantaquattro gatti)」や「トレロ・カモミロ(原題:Il Torero Camomillo)」など、枚挙にいとまがないほどの童謡を世に送り出している、ボローニャの子どもの歌のための音楽コンクール「Zecchino d’Oro(ゼッキーノ・ドーロ)」に参加していた子どもたちを描いた映画です。
本編上映前に、この映画の監督であるAmbrogio Lo Giudice(アンブロージョ・ロ・ジューディチェ)氏から、映画の背景となった60年代のボローニャのことやキャスト選びの話、そして、ボローニャを代表する歌手 故Lucio Dalla(ルーチョ・ダッラ)氏に関する映画を現在制作中というニュースがありました。
続いて、映像作りに取り組む若い才能の表現力向上を目的としたルーチョ・ダッラ財団のイニシアティブ「FLD Labo-contest videoclip | residenza artistica da Lucio 2019」の勝者Alessandro Amante(アレッサンドロ・アマンテ)氏が登場。彼が作った、ラッパーGhemon(ゲーモン)氏の曲「Solo per me」(ルーチョ・ダッラ氏の楽曲「Henna」をリニューアルした曲)のビデオクリップ(*1)が上映されました。この曲は、世界にまだまだ存在する地雷で罪のない多くの子どもたちの命が失われていることに警鐘を鳴らすものでした。
*1: アマンテ氏が制作したビデオクリップ「”Solo per me” Ghemon ft. Lucio Dalla」は、ボローニャ市議Matteo Lepore(マッテオ・レポレ)氏のフェイスブックページで閲覧可能です。
このように、本編に入るまででも、情報が盛り沢山です。
ただ単に野外で映画を見るだけではなく、映画監督の目を通した昔のボローニャや、地元の若者の未来をサポートする財団の取り組みといったボローニャの魅力に気づくことができたり、人の命の尊さに思いを馳せる機会を得ることができる素敵な映画祭だと思いました。
本編上映!
そして、いざ、映画の本編へ。
時は1960年代。南イタリアからボローニャへ移り住んだ両親の元で生まれた、音楽の類稀なる才能を持つ男の子Mimmo(ミンモ)が主人公。母親がボローニャのアントニアーノで初めて開催される合唱コンテスト「ゼッキーノ・ドーロ」のオーディションに息子を連れて行くことにする。そこで、ミンモの人生を変える若いコーラスの先生Mariele Ventre(マリエーレ・ヴェントレ)と出会う、という物語です。
楽しい歌がいっぱい散りばめられていて、思わず口ずさんでしまうような素敵な映画のため、チケットを持っていない道ゆく人も思わず足を止めて見入ってしまうほど。
ボローニャの街の映像も沢山出てきますし、ボローニャが世界に誇る子どもの歌のための合唱コンクールやその合唱団「ゼッキーノ・ドーロ」の様子もわかるので、ご興味のある方は是非Rai(イタリアのNHKのようなテレビ局)のサイトから無料で見られるのでご覧になってみてください。
上映会終了
大きな拍手で上映が終了した後は、係の人がびっくりするほどテキパキした動きで、マッジョーレ広場全体を囲っていた柵の撤収をスタート。5分程度だったでしょうか、一瞬にして人々が広場を通り抜けられるようにしていました。
そして、会場には映画「アメリ(原題:Le fabuleux destin d’Amélie Poulain(アメリ・プーランの素晴らしい運命))」の曲「J’y Suis Jamais Allé(邦題:初めての場所)」が心地よく流れ、まだまだこのまま星空の下で余韻に浸っていたい気持ちになりました。
もう一つの映画祭「Il Cinema Ritrovato」
このマッジョーレ広場とバルカレナの2会場で開催される野外映画祭「Sotto le stelle del Cinema」は、今年は8月21日までですが、ボローニャの野外映画上映はまだ続きます。
8月22日から9月1日は、これまでの2会場に加え、Teatro Comunale di Bologna(ボローニャ市立劇場)や「Teatro Auditorium Manzoni」(マンゾーニ劇場)、ボローニャの映画館を会場として「Il Cinema Ritrovato(直訳は「(復元によって)再び出会うことができた映画」という意味)」と題された「ボローニャ復元映画祭」が開催予定です。こちらも今年で34回目という歴史ある映画祭であり、世界に誇るボローニャの復元技術を用いて息を吹き返した過去のお宝映画たちを見ることができる貴重な機会です。基本的に有料(今年はコロナ感染対策のため、開催期間中使える入場カードを購入し上映会ごとに事前予約が必要)ですが、マッジョーレ広場は引き続き無料で見られるとのことです。
今年の夏は、旅行で海外へ行くのはハードルが高いと思いますが、安心して世界中を移動できるようになった暁には、星空の下で映画を満喫し、小腹がすいたら広場横にある店で生ハムやサラミの盛り合わせ、パルメザンチーズなどをつまみつつ、地元民のようにゆったりと夜を楽しんでみてはいかがでしょうか?
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