ART & DESIGN

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フィレンツェに根づく日本の職人たちの肖像~木象嵌細工職人~「ZOUGANISTA望月貴文氏」

フィレンツェでただ一人の木象嵌細工職人

フィレンツェには世界中から様々な業種の職人の卵達が超一流の技術を習得するために集まってきます。その中でイタリア人から技術を託され、その技術とともに歴史を継承している日本人がいるのです。
木象嵌(もくぞうがん)細工師、望月貴文氏
彼は工房「ZOUGANISTA(日本語とイタリア語を組み合わせた木象嵌細工師という意味)」を立ち上げ、活躍しているフィレンツェに存在する唯一の木象嵌細工師。伝統的あるフィレンツェ木象嵌技術の手法を継承し、我々が身近に接することができる作品を創り続ける職人です。ちなみに、木象嵌とは種々の天然木材を用いて絵画や図柄を表現する木画技術です。

木象嵌(もくぞうがん)細工とは、様々な異なる木目、色目の木版を組み合わせ作られる工芸品

木象嵌(もくぞうがん)細工とは、様々な異なる木目、色目の木版を組み合わせ作られる工芸品
「フィレンツェは、身を置くだけで想像力が掻き立てられ、空気そのものが芸術へと導かれ物づくりが凝縮している街」と彼は表現します。今年5周年を迎える彼の工房「ZOUGANISTA」。そこに一歩足を踏み入れると彼の作品への情熱と誇りを容易に感じ取れます。これまでの道程で培われた感覚と想像力、そして彼の地道な努力が見事にフィレンツェの地に根づいているのです。

レナート・オリヴァストリの下で数百年前の家具修復を学ぶ

象嵌のスペシャリストであるレナート・オリヴァストリ氏の元には、イタリア国内外から100年、200年以上前の貴重な家具の修復依頼があり、地味で根気が必要である修復作業に携わりながら、彼は、象嵌に興味を抱き、技術を磨きました

望月氏は、金型職人の祖父、そして父の元で育ち、ベーゴマなど「何でも家で作ってもらえる」環境だったそう。その影響から小学生の頃、「伝統工芸を滅ぼさせたくない」と作文に書き記すほどで、彼の職人への誇りと伝統工芸への愛は少年時代から培われてきたもの。そんな彼が日本の家具メーカーで働いた後、フィレンツェに渡ったのは2007年。マエストロ、レナート・オリヴァストリに師事。家具職人であり象嵌のスペシャリストであるレナート・オリヴァストリ氏の元には、イタリア国内外から100年、200年以上前の貴重な家具の修復依頼があり、地味で根気が必要である修復作業に携わりながら、彼は、象嵌に興味を抱き、技術を磨きました。
少年時代に糸鋸や彫刻刀に接していた感覚が修復作業中に舞い戻ってきたそう。マエストロも彼の器用さと我慢強さ、そして感性に信頼を寄せたのでしょう。

イタリア人が大切にする「魂のつながり」

日本人の望月氏がフィレンツェで木象嵌細工師として起業し、活躍するまでには、一筋縄ではいかない数々の苦労があったことは想像に難しくありません。夫をイタリア人に持つ私でさえ、イタリアで生活を始めるまでの手続きには四苦八苦し、心が何度も折れそうになりました。生活だけではなく、事業を立ち上げ、職人として生きていくまでにはただならぬご苦労があったに違いありません。
しかし、木象嵌を後世に伝える情熱と実力をもった日本人をフィレンツェ商工会議所は温かく迎え入れたのでした。彼から滲み出る伝統工芸への敬意が伝わり、神が木象嵌細工師としての使命を彼に与えたことを、フィレンツェ人達は魂で感じ取ったのかもしれません。
彼は「つながり」をとても大切にする人。「職人同士のつながり」、「イタリアとのつながり」、すべてのつながり。
イタリア人はつながりをとても大切にします。
彼の魂はフィレンツェに根付き、そして、日本とつながり、フィレンツェ唯一の木象嵌細工職人として手法、技術と伝統は国境なしに未来へとつながっていくことでしょう。

望月貴文氏のフィレンツェ唯一の木象嵌細工職人として手法、技術と伝統は国境なしに未来へとつながっていくことでしょう

最後に、11月29日~12月1日の三日間、東京の成城のギャラリーにて彼の作品を目にすることができることをご報告します。そして、毎年フィレンツェで開催されるPittti Uomoでも出会えます。是非、彼の作品を実際に手に取っていただきたいと私は強く思うのです。作品からただよう彼のテクニックはもちろん、それ以上に熱意、決心が感じられるはずです。

ZOUGANISTA

Via dei Cardatori,20/r Firenze
Firenze +39-3318223767
http://www.zouganista.com
https://www.instagram.com/zouganista/

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