世界屈指のミックスカルチャー都市である東京を舞台に、アート、デザイン、インテリア、ファッションなど、多彩なジャンルをリードする才能が集結した日本最大級のデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO」。今年は、「TOGETHER ~融合する好奇心~」をテーマに掲げ、2022年10月21日(金)~10月30日(日)まで、全92の作品とエキシビションが都内各所で展示され、大盛況のうちに閉幕しました。
今回ご紹介するのは、DESIGNART TOKYOの展示としても参加し話題を集める、プラダ財団が後援するアーティスト、サイモン・フジワラ(1982年・ロンドン生まれ)による展覧会「Who the Bær」。2023年1月30日(月)までプラダ 青山店にて開催中です。
イギリスのケンブリッジ大学で建築を専攻し、その後ドイツのフランクフルト造形美術大学で美術を学んだフジワラ。現在はベルリンを拠点に活動しています。日本人の父とイギリス人の母のもとに生まれ、日本とヨーロッパで過ごした自身の生い立ちや、家族の物語を取り入れた作品で知られています。本展は、東京での開催のために特別構成されたもので、彼自身がこれまでも取り上げてきたアイデンティティをテーマにした作品が並んでいます。
Who the Bærは、フジワラが生み出した漫画のキャラクターで、おとぎ話や空想文学、アニメーション、テーマパークの世界感がインスピレーション源となっています。Who the Bærの物語を通じて、私たちが現代においてアイデンティティを形成し表現する方法に影響する、イメージ文化の力と見せかけだけのSNSに疑問を投げかけています。
フジワラがWho the Bærを生み出したのは、2020年のコロナ禍での最初のロックダウンの頃だといいます。「ハイパー資本主義的な娯楽文化のどんどん意味をなさなくなっている世界に対する子供らしいダダイズムのリアクション」として創作したそう。
クマのような見た目のWho the Bærには、特定のアイデンティティがありません。ジェンダーもなければ人種もセクシャリティも決まっていません。アイデンティティ政治が支配する世界において、アイデンティティがまったくないとはどういうことになるのでしょうか? Who the Bærはイメージの世界で別のイメージ以上の存在になれるのでしょうか?
Who the Bærの展示は、「Who is Who?(Whoって誰?)」と書かれた巨大なコラージュになった本の表紙から始まります。人種やジェンダー、出身といった基本的なアイデンティティだけでなく、セルフマーケティングの法則や独自さを求めるプレッシャーが、Who the Bærの生きる道を支配しています。
「人間の世界は『人生とはこうあるべき』というイメージを固める、イメージの長い歴史に支配されている。異性愛や性別二元論、宗教、家族構成などの伝統的で社会的に受け入れられている考え方は多くの場合、広く一般的にアピールするために単純化されている」と、フジワラは述べています。「Who the Bærの視点から見れば、人間のアイデンティティなんて単なるルールや見た目、ムードやスタイルでしかなく、その時々に何かになったように『見せる』ものだ」としています。
フジワラが生み出したキャラクターWho the Bærの成長の物語を通じて、気候崩壊から文化的流用、美容整形、そしてポップアートまで、様々な分野にわたる数々のテーマについて触れられる本展。SNSの歪んだ視点の中で、自己表現にはまり込む現代人について、熟考させられます。
■「Who the Bær」展
会期:2022年10月15日(土)―2023年1月30日(月)
会場:プラダ 青山店 5階(東京都港区南青山5-2-6)
入場料:無料