過日、東京・有楽町にある「M5 Gallery」とイタリアの「COLLI Independent Art Gallery」の企画によるグループ展「Spartiacque(分⽔嶺) 」が開催されました。2022年秋にオープンしたM5 GALLERYは、国内外ギャラリーなどの紹介、他業種とアートのコラボレーション、美術関係者による情報発信など、これまで事業としておこなってきた分野をより⽬に⾒えるかたちで活動。主に、アートフェア東京に参加する海外のギャラリー、あるいは地⽅のギャラリーの紹介をする展覧会などの企画・構成・運営のほか、セミナーやトークなどを通じて、ギャラリー、アーティスト、コレクター、キュレーターなど美術関係者との交流する場を提供し、⽇本のアートマーケットの活性化に貢献しています。
この展覧会を企画したCOLLI Independent Art Galleryはイタリア・ローマに拠点のあるギャラリーで、その独自性の高い展示を実現するスペースやアーティストへの支援、交流の機会をもつスペースを持ち、出版やさまざまな美術機関との共同研究など幅広い活動を行っています。このギャラリーが選ぶ新進気鋭なアーティストや斬新な展覧会などといった新しい試みは、私たちの感性を刺激します。本展覧会において、イタリアの現代美術における貴重な一段面を注意深く見つめ、分析的な提示を行いました。
本展覧会に参加したイタリアの注目すべきアーティスト4人、エンツォ・クッチ、マウリツィオ・ナヌッチ、フランチェスコ・カヴァリエレ、ペッシェ・ケーテは、世代そして表現方法の違いを超えて、M5 Galleryの空間でどのような対話、時には対立を生み出すのか、またこの開かれた空間でどのように刺激し合い鑑賞者との間に関係を結ぶのかを問いました。それぞれの作家は独自のコンセプトをもち、それをすぐに理解することを拒むかのような表現方法を選んでいるかもしれません。しかし、彼らの作品が同じスペースに展示されることは、空間を一変させ、新しい文脈の発見をもたらし、観る者との対話を活性化させる可能性に満ちていました。
次に、各アーティストの作品をご紹介します。
1.イタリアのトランスアヴァンギャルディア運動の先駆者の一人であるエンツォ・クッチ
1949年⽣まれで、イタリアのトランスアヴァンギャルディア運動の先駆者の⼀⼈であり、⼈物画と象徴主義の復活で知られるエンツォ・クッチ。トランスアヴァンギャルディア運動とは、1970年代末から80年代にかけてのイタリアで興った芸術運動のこと。観念や抽象よりも感情や具象を重視し、アヴァンギャルドを超えるもので「イタリアにおける新表現主義」とも⾔われています。
クッチの質感のある表⾯や本能的な⽊炭線は洞窟壁画に似ており、実際に彼のイメージの多くには原始的な道具、家畜、炎、⽬が含まれています。同じトランスアヴァンギャルドのフランチェスコ・クレメンテやサンドロ・チアのように、クッチのアーストーンの⾊彩構成には暴⼒が吹き込まれています。⾝振りと⾊彩への⾃信が、彼の絵画に即時性とドラマ性を与えており、感性が刺激されます。クッキは、哲学的な思索に満ちたタイトルで、眠気を誘う⽇常と真に⽣きる驚きの間を⾏き来しながらこの作品を描いているといいます。
2.ネオンライトを建築に詩的に取り⼊れたことで知られるマウリツィオ・ナンヌッチ
1939年⽣まれで、イタリア現代美術のパイオニアとして国際的な地位を確⽴し、ネオンライトを建築に詩的に取り⼊れた発明者としても知られるマウリツィオ・ナンヌッチ。フィレンツェの美術アカデミーとベルリンで学んだ後、実験的な劇団で⻑年セットデザイナーとして働きました。1960年代前半、芸術、⾔語、イメージの関係を探求し、後に彼の視覚⾔語となる基本的な要素を固めています。同時に、フルクサスのアーティストと交流し、ビジュアルポエトリーに興味を持ち、スタジオ「S 2F M」(フィレンツェ)とコラボレーションして電⼦⾳楽を制作しました。ナヌッチは、声や⾔葉を使ったサウンド・インスタレーションを制作することに⼒を注いでいます。
ナンヌッチは、ヴェネツィア・ビエンナーレに数回参加し、ドクメンタ、カッセル、サンパウロ、シドニー、イスタンブール、バレンシアのビエンナーレにも参加。ニューヨーク近代美術館、アムステルダム市⽴美術館、パリのポンピドゥーセンター、ロサンゼルスのポール・ゲティ・アートセンターなど、世界中の美術館に作品が所蔵されています。また、ハーバード⼤学カーペンターセンター(ケンブリッジ)、パルコ・デラ・ムジカ公会堂、ペギー・グッゲンハイム財団など、公共施設や場所のために多くのインスタレーションを制作しています。
こちらの作品は、「慣⽤句」とネオンのポエムで構築的な表現を試みており、まるで⾵景の中にある建築物のような作品に仕上げられています。
3.⽂章、⾳、声、ドローイング、彫刻を組み合わせた多義的な活動を通して、鑑賞者の内⾯を刺激するフランチェスコ・カヴァリエーレ
1980年にイタリアのトスカーナで⽣まれた、ビジュアル・アーティスト、ライター、サウンド・プロデューサーと様々な肩書を持つフランチェスコ・カヴァリエーレ。現在は、ベルリンとトリノを拠点に活動しています。彼の作品は、⽂章、⾳、声、ドローイング、彫刻を組み合わせた多義的な活動を通して、鑑賞者の内⾯を刺激し、儚い存在によって横断される⻑い旅に出ることができます。⾳、ノイズ、⾔語の粒⼦に基づいたサウンドストーリーや⾳楽を書き、しばしばインスタレーションや空間演出の要素、ライブパフォーマンスと統合し、最も多様な形態のエキゾチシズムに対する特別な趣向を⽰します。オブジェ、動物、植物、惑星、軌跡、宇宙物体、ガラス、鉱物、声によって⽣成される物理的・知覚的現象のハイブリッドであり、アナログ技術で録⾳・演奏されます。
カヴァリエーレの作品は、第7回ベルリンビエンナーレ、ローザンヌのLes Urbaines Festival、東京都現代美術館、ロスキレ現代美術館、ベルリンGrimmuseum、CTM festival Berlin、ワルシャワ現代美術館、QO2 Bruxelles、Kraak Ghent、ART Brusselsなどで展示されました。
4.現代的な抽象表現を使った作品が印象的なペッシェ・ケーテ
1980年⽣まれのペッシェ・ケーテは、ジェスチャーと本能に基づく古典的な絵画表現への回帰を提案する⼀⽅、現代的な抽象表現の作品で知られています。ケーテの活動の中核を占めているドローイングに、彼は油絵具、パステル、⽊炭、スプレー⽸を使⽤。彼の作品は、ルールだらけの空間への跳躍、出来事のパターン、ギャンブルの結果として理解されています。秩序と混沌、構成と偶然は、絵画の性質に注意を向ける極性の⼀部であり、意味的、⽐喩的な漂流は、その都度、具象と抽象、概念と⾃発性といった⼀般概念を破壊します。
ケーテは、プリミティブなサイン、スクラッチ、制御不能な抽象図形で、独特な詩的表現の作品を生み出しています。
以上、M5 GalleryとCOLLI Independent Art Galleryによるグループ展「Spartiacque(分⽔嶺) 」をご紹介しました。世界的なアーティスト2人と、若手のアーティスト2人をひとつの空間で体験することで、イタリアの現代美術の流れや、それぞれのアーティストが表現したい世界観を見比べることができた本展覧会。ぜひイタリアの素晴らしいアーティストをチェックしてみてくださいね。