ART & DESIGN

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日本在住のイタリア人写真家、Marco Ferri(マルコ・フェッリ)さんインタビュー

東京の街に魅せられたイタリア人写真家Marco Ferri(マルコ・フェッリ)

イタリア・ミラノ出身の写真家マルコ・フェッリさんは、東京をベースに写真家として活動されています。彼が日本へ拠点を移した理由、日本の文化や東京の街が彼の作品や世界観へ与えるインパクトや彼のプロジェクト「KINTSUGI」についてお話を伺いました。

Marco Ferri氏ポートレート

―――まずマルコさんが写真家となったきっかけと経緯を教えてください。
Marco : 12歳の時に初めて写真の授業を受けました。サマーキャンプの一部でとても簡単な授業でしたが、写真の基本とフィルムの現像の仕方を学びました。そしてすぐに写真が好きになりましたが、当時は写真への愛を自分の心の中だけに留めていたのです。
20歳になってからミラノでジャーナリストとしての仕事を始めたことをきっかけに、どこへ行くにもカメラを持つようになり、写真を撮ることへの情熱がさらに高まりました。24歳の時にプロの写真家の友人が私のために特別レッスンを用意してくれて、そのあとは正式にミラノの写真専門学校で勉強をしました。26歳頃からファッション写真に関わる仕事が多くなり、カメラマンとしてではなくキュレーターやPR担当として携わった7年間は、たくさんのフィルムやカメラ、照明、写真や写真家に囲まれた日々を過ごしましたね。それから写真家のキュレーターとしての仕事のため中国へ移住し、自分自身も写真を撮り続けました。その時点では、自分にとって写真を撮ることは、自分が好きなものを記録したり表現するためのプロセスであり、自分の感情を表現する方法でしたが、中国から東京に拠点を移し、再び自分自身の創造性、この都市のエネルギー、当時の自分の生活に関連するイベントを探求し始め、写真と自分の創造性を追求する新しいエネルギーの流れを作り出しました。

写真家として本格的に活動するようになったきっかけは、写真を通じて一つの物語を作ることができると気付いたことです。自分の本当の心の内や現実問題をそのまま伝えることもできるし、現実を変えて全く違うストーリーを伝えることもできます。被写体と光を使用して、自分の心の中にあるものとビジョンを正確に構築して表現することもできますが、必ずしも現実と一致する必要はないと思っています。

―――マルコさんの代表作品やスタイルについて教えてください。
Marco : 私のアートワークの主体は写真ですが、それだけではありません。異なる素材やテクニックを融合して、ユニークなストーリーを作り出しています。特にコラージュを作るのが好きで、このテクニックは写真家としての私のメインビジョンでもあります。また、伝統的な手工芸の技法を取り入れて、それを写真の作品と融合したりしています。
もう一つ私が追求しているトピックは、カメラやライトを誤って使用した時の「不完全さ」です。私のスタイルは私の個性そのものを反映していると言えます。プロジェクトごとに結果は異なりますが、常に内省の深い感覚、そして美とバランスの追求という共通点があります。ほとんどの場合、私のアートワークは、私個人の記憶に残っている感情や他の人が経験した感情と深く繋がっています。

作品作りの様子©Alfonso Catalano

―――なぜ東京に活動を移されたのですか?
Marco : 昔からアジアに興味を持っていて、すでに中国に住んでいたので、もっと多くの国を探求することにしました。 当初は数ヶ月滞在していくつかの展示会を開催するだけの予定でしたが、東京という街は私の感覚や感情の多くを刺激してくれました。溢れ出た感情は、私の創作意欲を向上し、写真とアートの制作再開を後押ししてくれたのです。

―――日本への移住はMarcoさんのアートへどのように影響しましたか?
Marco : 環境の変化はアーティストのアートワークや制作に強い影響を与えます。私にとって東京への移住も同じでした。この街は独特の美学を持っていますし、日本の文化や習慣は私が生まれ育ったイタリアの文化とはまったく異なります。拠点を移したことにより、大きな文化的ショックを生み出し、現地で何が起こっているのか、現実と向き合うように促されました。私の作品の中で最も人気のあるシリーズの1つはKINTSUGIというプロジェクトです。このプロジェクトは、日本が私自身と私のアート制作にどの程度影響を与えているかを顕著に表していると思います。

―――日本のどこが好きですか?
Marco : 日本の街の秩序と整然としている様子が好きです。それから現代の流れに屈していない伝統的な文化も大好きです。日本に来て、日本人の静けさを敬う心と誠実に意見を述べる方法を学びました。 日本の人が服装やスタイルなどを選んだり、何か行動を起こすときに、情報をとことんリサーチする熱意やこだわりは素晴らしいと思います。

―――KINTSUGIプロジェクトのインスピレーションと、この作品に込められたMarcoさんの想いやメッセージについて教えてください。
Marco : 私が東京に移住した頃は、自分にとって精神的に大変な時期でしたので、写真を撮ることを心の拠り所にしていました。自宅にスタジオを構え、1日のうち精神的に辛い時や気分が落ち込んでいる時にセルフポートレイトを撮るようにしていました。また都内のお寺や公園、お墓など静かな場所をよく訪れていましたね。日本に来てからは毎日何千もの写真を撮り、多くは白黒で、自分の思い出を記録するためのセルフポートレートでした。
大学の時に授業で伝統工芸である金継ぎの話は聞いていましたが、日本にいるせっかくのチャンスだと思い、金継ぎの技術をきちんと勉強しようと決めました。金継ぎの制作プロセスは瞑想的で、当時の自分の精神状態を改善するには良いと思いましたが、焼き物作りでは気持ちが満たされなかったので、その金継ぎの技術を自分が好きな写真に取り入れることができないかと試してみたところ、自分の感情と向き合いアートを創作するのにぴったりの手法となりました。今まで撮った自分の悲しい姿のポートレートを金継ぎにすることで、自分にとって良いセラピーとなったのです。壊れたモノを修復するというコンセプトは、ダメージを受けた魂を修復するための行動となり、時間とともに、自分が困難な時期を乗り越えるために必要なものとなり、一つの大きなプロジェクトとなりました。もとより、人にメッセージを伝えるための作品ではありませんでしたが、今でこそ言えるのは、「あなたが人生のうちでどれほど傷ついたり、試されたりしても、常に自分自身を再構築し、その経験のおかげで自分により多くの価値を加えることができ、同時にあなたの傷を誇りに思うことができる」ということです。



―――Marcoさんが尊敬しているまたは見本にしているアーティストはどなたですか?またその理由をお聞かせください。
Marco : 自分のアートのインスピレーションのほとんどは他のアーティストからもらっています。私のように自己流で学んだ芸術家にとって、美術館や展示会へ足を運び多くの作品を観察することが、アートへのアプローチや自己表現を学ぶための大きな支えとなっています。また、都会に住んでいてイベントに参加したり、展示会をしている有名なアーティストだけがよく話題になっていますが、今ではインスタグラムを通じて、自分とは離れた地球の反対側、小さな村や田舎で活動している名も知られていないたくさんの素晴らしいアーティストを見つけることができるので、よくインスタグラムを使っています。
私が好きなアーティストの一人は、フランス人のビジュアルアーティスト、Sophie Usunier(ソフィー・ウシュニエ)です。彼女は地元のコミュニティとの繋がりを大切にしていて、 高齢者介護施設などで素晴らしい活動をしています。アートと普段あまり共通点のない人々がアートにふれあい、時にはアートプロジェクトに参加するように奨励するその彼女のアイディアはとても素敵と思います。
それから日本でも活動している写真家のKaren Knorr(カレン・クノール)も気に入っています。彼女の作品にはそれぞれストーリーがあり、とても魅力的です。 私から説明するより彼女のプロフィールを是非チェックしてみてください。
フォトジャーナリストとして、日本で活躍しているイタリア人のLaura Liverani(ローラ・リヴェラーニ)も好きなアーティストの一人です。私がフォローしているもう一人のアーティストは、日本人のYUMIKI AKIBAさんです。私とは共通点が多く、彼女は私も時々使用するポラロイドをメインに作品をつくっています。

ポラロイドカメラを持つマルコさん©Alfonso Catalano

―――普段使われているカメラの種類を教えてください。オススメはありますか?
Marco : デジタルでもアナログでも、古い型のカメラを特に好んで使っています。ポラロイドカメラは数台持っていて、トイカメラも使っています。最新のカメラを使うと、仕上がりが鮮明すぎてしまいあまり好きではありません。どちらかというと少し粗い仕上がりを好みます。それぞれの表現の方法ごとに、ツールやカメラ、照明の使い方は異なると思うので、オススメはしないでおきます。特にクライアントのためのコマーシャル用の写真でない限り、芸術として大切なのは、技術や機材ではなく、完成したアートワークの背景に隠された意味や写真に映る人の感情をどのように表現できるかだと思います。

―――COVID-19のパンデミックにより、ご自分を含めアーティストにとってどのような影響があったと思いますか?
Marco : 今回のCOVID-19パンデミックだけではなく、全ての大きな出来事がアートには影響します。もちろん自由の制限や自宅での隔離状態が続いたことにより、多くのアーティストが現状を反映し創作をしたと思います。アーティストだけでなく私人間は皆、多くの出来事にインスピレーションを受け影響されますが、自分たちに直接関わらない出来事が世界中では起きていて、それらには関心を持つこともなく気付くくことなく日々を過ごしていましたが、今回のCOVID-19は私たち全員に影響を及ぼしました。多くのアーティストは、芸術のレジデンシーや展覧会のオープニングのために海外へ行くことができず、たくさんの人が参加するアートプロジェクトやパフォーマンスの機会を失いましたが、 私のアートはすでに内省的だったので、ある意味私にとっては良い創作の機会となりました。

―――今後「アフターコロナ」のMarcoさんのメインの活動はどう考えていらっしゃいますか?何かすでに動いているまたはこれから始める新しいプロジェクトはありますか?
Marco : パンデミックになる前から、夜の夢から人生の夢に至るまで広い観点における人々の夢に関連した新しいプロジェクトを始めていました。 アフターコロナでは、夢を見る方法も変わっているはずなので、この進行中のプロジェクトにも影響を与えると思います。今回は刺しゅうを媒体として使いはじめましたが、最終的なアートワークには写真を使用します。 まだすべてのプロセスを決めていないので、詳細をお伝えできませんが、またすぐに皆さんに情報をシェアしますね。 今の時点では、自分の夢について多くの人にインタビューをし、ぞれぞれの人の本質を捉え、それらをベストな形で表現できるように模索しています。

マルコさんの作品

―――Marcoさんにとってアーティストとしてのゴールは何ですか?
Marco : 私のアートの主な目的は、私自身と私が歩くべき道、人生に関係しています。アートは私にとってセラピーであり、自分の内面を理解し何かに集中する手段です。私は自分や他の人の感情を処理し、作品として痕跡を残していきたいと思います。もう一つの考えとしては、自分のアートを通じて接触する人に感情や反映を生み出していきたいと思っています。

―――Marcoさんの素晴らしいKINTSUGIプロジェクト、そして今後についてお話いただきありがとうございました。新しい「夢のプロジェクト」について詳しくお聞きできるのを楽しみにしています!

Marco Ferri(マルコ・フェッリ)プロフィール

東京を拠点に活動しているイタリア人ビジュアルアーティスト。 ミラノにある写真家エージェンシーでの長い経験と、ヨーロッパをはじめ世界中への出張を繰り返した後、アジアの国々やその文化に魅了される。 上海に移住しキュレーターとして働いたのち、東京へ移り常に新しい発見と共に自分のアートワークを展開している。

個展
KINTSUGI(代々木ギャラリー・東京 / 2016年)
Concept Winter 2016: the 2nd International Exhibition on Conceptual Art. (CICA Museum・韓国 / 2016年12月16日 – 2017年1月1日)
SAKURA(Gastronimia Yamamoto・ミラノ / 2019年)
THE GOLD EXHIBITION September(SPIRAL・東京 / 2020年)

公式HP: https://www.marcoferriart.com/
Instagram: @marcoferriart

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