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いまを生きる私たちの心に響く、視覚化された風景。「ルイジ・ギッリ 終わらない風景」

Keiko Shimada

2025.07.25

イタリアを代表する写真家であり、近年、ますます評価が高まっているルイジ・ギッリの写真展が、東京・恵比寿の東京都写真美術館で開催されています。およそ20年という短い時間の中、ギッリが残した唯一無二の世界観に触れる、貴重な個展です。


ガラス細工のような煌めきを放つ20年の写真家人生

まるで絵画のような静謐な美しさに、ひと目で心を奪われた写真体験。筆者とルイジ・ギッリとの出会いは、「Atelier MORANDI モランディのアトリエ」というフランスとイタリアの出版社が共同で出版した写真集でした。日常的なようでいて、どこか違和感があって幻想的なルイジ・ギッリの写真。なぜだかその作品がすごく気になり、そこから遡って、1970年代の風景写真を収めた写真集なども買い求め、時折眺めるようになりました。


ギッリは測量技師としてのキャリアを積んだのち、コンセプチュアル・アーティストたちとの出会いをきっかけに、1970年代から本格的に写真家として活動を始めました。ギッリが30歳の頃で、49歳で早逝しているので、写真家として過ごした時間はわずか20年ほど。その短い時間の中で、イタリアや旅先の風景、アーティストのスタジオ、自宅の室内、美術品、看板やポスター、窓や鏡に映る風景など、多様な作品を残しています。

ルイジ・ギッリの写真集3冊
(右下) 「Atelier MORANDI 」(CONTREJOUR,PALOMAR刊)

初期作品から最晩年の傑作まで約130点を展覧

東京・恵比寿の東京都写真美術館で開催中の「ルイジ・ギッリ 終わらない風景」は、アジアで初めて美術館で開催される個展。初期の代表作〈コダクローム〉や〈静物〉シリーズ、ギッリが生まれ育ったイタリア北部の都市レッジョ・エミリアなど欧州の風景、画家ジョルジョ・モランディと建築家アルド・ロッシのアトリエを撮影したシリーズを含む約130点を紹介しています。


併せて、ギッリの活動を語るうえで欠かせない存在であり、自身もグラフィック・デザイナーとして活動した妻パオラ・ボルゴンゾー二の作品や資料も展示し、約20年にわたるギッリの写真に対する多角的な思索をたどる展示となっています。

地図の上に立つ女性の足元
《カプリ、1981》〈イタリアの風景〉より 1981年 ©Heirs of Luigi Ghirri

アート写真というとほとんどモノクロだった時代に、その流れに逆行するようにカラープリントの作品を発表したギッリは、アート写真に欠けていたものを取り戻した存在でもありました。実際の風景であるのに、どこか幻想的にも見える風景写真。ギッリはその不思議な風景の中に、後ろ姿の人物を写し続けました。

風景画の前に立つ数人の人
《ザルツブルク、1977》 〈F11、1/125、自然光〉より 1977年 ©Heirs of Luigi Ghirri

ドキュメンタリー映画『Infinito』を日本初上映

展覧会会期中、2022年に公開されたドキュメンタリー映画『Infinito』(イタリア語で「無限」)を、日本語字幕付きで日本初上映。撮影するギッリの姿、生前ギッリと交流の深かった関係者のインタビューなど、とても興味深い内容であると同時に、ドキュメンタリー作品としても質の高い作品となっています。


筆者が鑑賞した日は、ルイジ・ギッリの作品を数多く所蔵するレッジョ・エミリア市立博物館写真部門キュレーターのイラリア・カンピオーリ氏が登壇し、貴重なアフタートークを拝聴しました。

地図の上に束ねられた写真
《モデナ、1978》〈静物〉より 1978年 ©Heirs of Luigi Ghirri

この映画のナレーションは、実際にギッリ自身が書いた文章で構成されていること。ギッリの作品に添えられた文章は説明ではなく、イメージに対する思考の過程が記され、いわば「思考の実験室」であることなどが語られました。


「ギッリの作品の鍵となるのは、現実の中に異質なものを入れること。それにより、世界が真の姿を現す」とカンピオーリ氏。「現在の私たちの課題を、30年前から見抜いていたかのようなギッリの視点。だからこそ、彼の作品が、いま私たちの心に響いてくるのではないか」と語りました。

雪景色の中の看板
《レッジョ・エミリア、1985》 〈イタリアの風景―エミリア通りの散策〉より 1985年 ©Heirs of Luigi Ghirri
展覧会会場の2点の写真
今回の展示で最も印象に残った(右)《ボンボネスコ、1985》
〈イタリアの風景〉より 1985年 ©Heirs of Luigi Ghirri

あのモランディのアトリエが目の前に!

ドキュメンタリー映画『Infinito』を観て、アフタートークを聴いてから、再び展示室へ。展覧会のラストを飾るのは、建築家アルド・ロッシと画家モランディのアトリエを撮影した作品たち。筆者が33年前にルイジ・ギッリと出会ったあの作品のオリジナルプリントと、じっくり向き合うことができる至福の空間!ずっと、そこにいたかったのは言うまでもありません。

モランディのアトリエを写したルイジ・ギッリの作品
《ボローニャ、1989-90》〈ジョルジョ・モランディのアトリエ〉より
1989-90年 東京都写真美術館蔵 ©Heirs of Luigi Ghirri

やはり、圧倒的に美しい。モランディの没後、25年間そのままになっていたアトリエを撮影したものだというけれど、まるで、ちょっと席を外しているだけで、すぐにモランディが戻って来るかのような気配すら感じました。ギッリ最晩年の作品は、この上なく静かな趣の美しい作品です。

展覧会で作品を眺める女性の後ろ姿
後ろ姿の人物を写し続けたギッリに敬意を表して展示室で撮影

芸術の国、イタリアにおいて1970年に彗星のように現れてアート写真に美しい光と色彩をもたらし、たった20年の活動期間に珠玉の作品の数々を残したルイジ・ギッリ。ITALAINITY読者の皆さまには、ぜひ体感していただきたい展覧会です。

ペアチケットが当たるSNSキャンペーンも実施いたします。

詳しくはこちら https://italianity.jp/campaign/campaign_luigighirri


Luigi Ghirri ルイジ・ギッリ(1943-1992)

イタリアのレッジョ・エミリア県スカンディアーノ生まれ。1970年代より本格的に写真制作に取り組む。色彩、空間、光に対する類まれな美的感覚と、ありふれたものをユーモラスに視覚化する才能によって、主にカラー写真による実験的な写真表現を探求してきた。また制作活動のみならず、写真専門の出版社「プント・エ・ヴィルゴラ(Punto e Virgola)」を仲間たちと立ち上げ、さらにプジェクト大学で写真理論に関する講義を行うなど、多岐にわたる活動を展開した。


総合開館30周年記念
ルイジ・ギッリ 終わらない風景

会 期:2025年9月28日(日)まで

会 場:東京都写真美術館 2階展示室

10:00-18:00(木・金曜日は20:00まで、ただし8/14(木)-9/26(金)までの木・金曜日は21:00 まで)※入館は閉館30分前まで

休館日:毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館、翌平日は休館)

観覧料:一般800円(640円)、学生640円(510円)、高校生・65歳以上400円(320円)
※( )は有料入場者20名以上の団体、当館映画鑑賞券提示者、各種カード等会員割引料金 ※中学生以下および障害者手帳をお持ちの方とその介護者(2名まで)は無料 ※8/14(木)-9/26(金)までの木・金曜日17:00-21:00はサマーナイトミュージアム割引(学生・高校生無料/一般・65歳以上は団体料金、要証明書) ※オンラインで日時指定チケットを購入いただけます。


関連イベント

ドキュメンタリー映画『Infinito』上映とゲストによるアフタートーク

(上映80分+アフタートーク約50分)

8 月24日(日)14:00~16:30 ゲスト:岡田温司(京都大学名誉教授)

9 月12日(金)17:00~19:30 ゲスト:森岡督行(森岡書店代表)

会場:東京都写真美術館 1階ホール

定員:190名(整理番号順入場/自由席/日本語字幕付)

参加費:無料

※当日10:00より1階総合受付にて整理券を配布します