東京に安藤忠雄が設計・デザインした教会があるのを知っていますか?いま、そのストイックな美しさに満ちた教会で、テンペラ画家 服部州恵さんの個展が開催されています。降誕を祝うクリスマスシーズンに、普段は限られた機会にしか入れない“聖なる空間”で、光り輝くアートに出会ってみませんか。
三角形をテーマにした安藤忠雄建築
東京メトロ・日比谷線の広尾駅から徒歩数分、閑静な住宅街に現れるコンクリート打ちっぱなしの建物は、ひと目で安藤忠雄建築とわかる外観。建物自体が二等辺三角形で、礼拝堂とその下にある祈りの部屋(洗礼室)も二等辺三角形。明かり取りの窓や館内の装飾にも三角形が用いられ、神と主イエス・キリスト、聖霊の『三位一体』を連想させられます。


昨年、信徒以外にもたくさんの人が訪れて鑑賞したテンペラ画家 服部州恵(はっとりくにえ)さんの個展は、今年も12月6日、『聖なる空間Ⅱ』―冠―と題して開幕。オープニングとして、礼拝堂で作家のヒストリービデオの上映に続き、俳優の大浦龍宇一さんや服部さん自身が演じる朗読劇「恵みとあわれみの冠」によって開幕が告げられました。
テンペラとは、「temperāre 混ぜ合わせる」というラテン語を語源とするイタリア語。中世のイタリアでは主流だった技法で名画もたくさん残されていますが、現在では、卵と色の基となる顔料を混ぜ合わせて描く技法を「テンペラ画」と呼んでいます。「長い年月にわたって美しい色彩を保ち、独特の質感が魅力です」と語る服部さん。その作品の多くは、テンペラと油彩、金箔の混合で描かれています。

イタリアの教会で気づかされたこと
10代の頃、フラ・アンジェリコの『受胎告知』(コルトーナ ディオチェザーノ美術館)と出会い、金色に輝く清らかな美しさに心打たれた服部州恵さん。その後、精神的な悩みから救われたのをきっかけに美術大学在学中に洗礼を受け、イタリアへ留学して語学学校に通いながら、本格的にテンペラ画を学び始めます。

「フィレンツェではテンペラ画の先生の家にホームステイしたのですが、先生のご主人がエンジニアでありジャズ・ピアニストで、息子さんもサックス奏者だったので、朝、仕事に行く前に仲間が集まって、よく家でセッションしていましたね」。日常に当たり前のこととしてアートが存在する、イタリア流のゆたかな暮らしに触れた服部さん。その後、“テンペラ画の宝庫”シエナや一目惚れした小さな街トーディにも滞在し、毎日のように教会を巡ったそうです。

「シエナでは、朝早く教会に行っても人が集まっていて、何かしらイベントが行われて、日本でいうと公民館のような感じで人が交流していましたね」。筆者がイタリアを旅していると、よくバールのようなゲームセンターのような店におじさんや男性の老人がたむろっていましたが、教会もそんな癒しの空間になっているようです。「シエナは音楽学校もあったので、プロの卵が歌う本格的なオペラが教会で上演されて、みんな聴きに行っていました」。


そんな教会巡りで気づいたのが、絵画や音楽があるとキリスト教の教えが伝わりやすいということ。「教会で礼拝に参加しても、イタリア語がわからないので、何を言っているかまったく理解できなくて。でも、絵画や音楽があると礼拝で感じ取るものがあるって実感しました」。プロテスタントでは絵画や彫刻を飾ることはしませんが、イタリアのカトリックでは、偉大な絵画や彫刻、すばらしい音楽を通じて信仰心を育んできた歴史があります。実際にそこで暮らし、教会に通うことで、服部さんはたくさんの恵みを受け取りました。


イエス・キリストから授けられる祝福の冠
昨年は琳派を思わせる聖母子像を通じて“日本に来てくださったイエス様”を表現した服部さん。今年のメインとなった2枚の作品は、ともに冠をテーマにしています。
筆者が一番好きだったのは、いばらの冠を被ったイエス・キリストが、和服の女性に花冠を授ける『ふたつの冠』。個展の初日の朝5時まで筆を入れていた力作です。「イエス様は私たちの罪や哀しみや憂いをすべて引き受けて、私たちに祝福の冠を授けてくださる。そうすることですべてが逆転して、それこそが一番のクリスマスプレゼントなのではないか。それを表現したくて描きました」。

もう1枚は、冠を授けられた2人の少女が祈る『祈りを紡ぐ』。「神の祝福を受けた少女たちが祈りを重ねることによって、今度は祝福を広げていくという想いを込めた作品です」。少女たちの衣の色にも意味があり、「青は聖母マリアの色であり、ユダヤ人にとって神聖な色。それと並べるピンクは、やさしさや愛、やわらかさを表現しています」

普段は無機質な教会内部に服部さんの絵が飾られると、金箔のまばゆい光と相まって「聖なる空間」が広がります。「なんだか花の香りがするような気がしませんか?」と話していた方もいらっしゃいました。
「クリスマスシーズンは色々な過ごし方がありますが、教会の雰囲気に触れて、本来のクリスマスの感動や祝福を味わって欲しい。普段は決められた日に予約しないと入れませんが、この期間はどなたでも入れる貴重な機会です」。
イタリアに留学した若い頃、教会の芸術を通じてキリスト教への想いを深め、「日本の教会に、芸術を取り戻したい」と思った服部さん。その想いは、いまも変わらず持ち続けています。
聖なる空間Ⅱ テンペラ画家 服部州恵
会期:12月10日(水)〜12日(金)、12月17日(水)〜19日(金)、12月25日(木)
12:00〜17:00 入場無料
会場 : 21世紀キリスト宣教会(東京都渋谷区広尾5-9-7)
お問い合わせ:03-6277-1257(事務局)
服部州恵 公式サイト https://sononism.com/