エディターの濱口重乃さんをホスト役に、イタリアのデザイン(ファッション、インテリア、プロダクト)やカルチャーに精通するゲストをお招きしてトークを繰り広げる対談スタイルの連載「シゲノリ・サローネ」。
今回のゲストは、イタリア人のトンマーゾ・ナーニさんと日本人の池内野有(イケウチ・ノア)さんによるデザインユニットMist-o(ミスト)。2012年よりミラノで活動をスタートし、現在はミラノと東京を拠点に活動中のふたりにお話を聞きました(前口上:「SHOP ITALIA」編集部)。
【後編】日伊デザインユニットから見たイタリアンデザインの現在/ゲスト:Mist-o(インテリアデザイナー)
対談構成:梅森 妙、「SHOP ITALIA」編集部
デザインの自由な発想で若手にも門戸を開くイタリア
濱口:Mist-oのふたりは、ミラノと東京を拠点にインテリアやプロダクトデザインの分野で活動していますが、クライアントはイタリアのメーカーが多いんですか?
ナーニ:今のところはイタリアが多いです。たとえばOLUCE(オールーチェ)、CAPPELLINI(カッペリーニ)、LIVING DIVANI(リビングディバーニ)など。
濱口:ここ数年、すごくいい仕事をしていますね。最近、LIVING DIVANIから発売したアウトドア用のベッド「Daydream」もすごくいいなと思った。ファッション系だと、TOD’S(トッズ)の仕事もやってましたね。
池内:イタリアのメーカーに限定しているわけではなく、少しずつ他の国のプロジェクトも進めているところです。有名なメーカーと仕事できることは光栄ですが、それよりも僕らが大事にしているのは、(クライアントの人たちと)人として議論のできる関係を築けるかどうか、そして作品をつくって終わりではなくヴィジョンを共有したモノづくりを続けていけるかということですね。
濱口:クライアントとのコミュニケーションはどちらがやるんですか?
池内:今はヨーロッパのメーカーとの仕事が多いので、トンマーゾがメインでやっています。とくに役割分担を決めてるわけじゃないんですが、彼は社交的でクライアントとのコミュニケーションも得意なんです。日本でも、僕より彼のほうが知り合いが多いくらいです(笑)。
濱口:イタリアのデザイン業界について、ふたりはどういうふうに見ていますか?
ナーニ:ポジティブな面としては、新人でも若手でも、デザインのよさや実力さえあればメーカーの門を叩けるし、メーカー側も、いいと思ったらつくる。そういう度量があるところは、イタリアのデザイン業界のよさですね。だから、今でもミラノ・デザイン・ウィーク(*いわゆる本会場フィエラの「ミラノサローネ」と、街中の「フオーリサローネ」を総じてミラノ・デザイン・ウィークと呼ぶ)は、世界中の若いデザイナーの登竜門になっていますし。日本では、若いデザイナーが直接メーカーに「作品を見てください」と言っても、門前払いであることも多く、ある程度の実績がないと作品を見てもらうことも難しいですね。
濱口:イタリアは懐が深いんですね。
池内:いい意味でワンマンというか、決定権のある人たちと直接、話ができるんです。だから「売れるかどうか、確信はないけど、面白そうだから試してみよう」ということになります。もちろんマーケットに対してシビアな面もありますが。
トレンドに敏感なメーカーが増えている
ナーニ:ただ、最近の傾向として、トレンドに敏感に反応するメーカーが多くなってきているのも事実です。トレンドに左右されることなく、自分たちの哲学やアイデンティティに忠実に製品をつくっていくタイプのメーカーが少なくなっていることに対しては悲観的ですね。
濱口:僕も今年4月のミラノ・デザイン・ウィークを見て、全体的なトレンドが空間のデコレーションのほうへ行っているのを感じました。それもファッションブランドの店舗やラグジュアリーホテル、大富豪の邸宅をコーディネートするといったハイエンドユーザー向けのオーダーメイド的なデコレーションですね。なにも今年に限ったことではないんだけど、とくにここ数年は、家具だけにとどまらず、トレンドを汲んだデコラティヴな空間コーディネートを提案できる中堅デザイナーたちがとても注目を集めていますよね。
池内:まさにそういう状況になっていて、目に見える評価は空間演出やコーディネートのほうに傾いていますし、モノがそのために生まれていることもあります。
濱口:一方でデザインには、一般ユーザー向けの家具やテーブルウェアのような、「プロダクトでみんなの暮らしを豊かにしたい」という方向性もあるわけですが。
池内:最近、よくふたりで議論するんです。僕たちは量産品の中にも価値を求めていきたいと思っていて。世界経済の発展期にあって、いつの間にかあまりにも個性を抑えた大量生産品が溢れて、また大量消費が問題となりました。ここにきて、その反動としてクラフトやアートといった要素を含んだ作品が評価されているのはわかります。
でも、モノというのは「世の中を豊かにする」という役割が根底にある。大量生産自体が悪なわけではない。量産品に思想が反映されていれば、さまざまな社会的問題を解決することができ、いろいろな人が手を出せる値段でおさまることは一種の理想だと思ってるんです。インダストリアルデザインにおけるデザイナーの仕事って、無駄のない成形や加工方法を考えながら、なおかつ美を生み出していくことのせめぎ合いだと思っているので、そういう意味では、僕らは今の主流から外れたデザイナーと言えるかもしれないですね。
【後編】日伊デザインユニットから見たイタリアンデザインの現在/ゲスト:Mist-o(インテリアデザイナー)
Mist-o(ミスト)
イタリア人のトンマーゾ・ナーニと、日本人の池内野有のユニット。ともに1983年生まれ。イタリア・ミラノのデザイン学校IED(Istituto Europeo di Design)で知り合い、2012年よりMist-oとしての活動をスタート。現在はミラノと東京をベースに、インテリア、プロダクトの分野を中心に意欲的な作品を発表している。
Mist-o Webサイト http://www.mist-o.com/
LIVING DIVANI 内プロフィール https://livingdivani.it/en/designers/mist-o/
★撮影協力:エ インテリアズ https://www.interiors-inc.jp/
東京・南青山「エ インテリアズ」は、LIVING DIVANIなどイタリアを中心とする家具、キッチン、収納、アートなど、空間をトータルでコーディネートできるアイテムを取り扱う。