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ルネサンスだけじゃない。「ファルネジーナコレクション」でイタリア現代美術の“いま”を体感

Keiko Shimada

2026.09.15

イタリアといえば中世の宗教画やルネサンス。そう思っている人も多いかもしれません。でも、それだけではありません。“芸術の国”の現代美術は、常に世界の注目を集め、社会に鋭い批評を突きつけています。イタリアを代表する現代美術コレクション「ファルネジーナコレクション」を通して、いまを生きる私たちが直面している問題と向き合ってみませんか。


現代美術の国際巡回展がいよいよ東京に!

東京・九段のイタリア文化会館で、9月12日、イタリア現代美術展「境界を越えるアイデンティティ ― 人間と自然の対話 ファルネジーナコレクション」が開幕しました。


本展はイタリア外務・国際協力省が推進する国際巡回展であり、イタリアを代表する現代美術コレクション「ファルネジーナコレクション」創設25周年を記念して開催されています。ベルリン、ヴィリニュス(リトアニア)、ヴァレッタ(マルタ)などを巡回し、今回初めて、ヨーロッパを離れて東京で開催されることとなりました。


2023年に同館で開催された「イタリア現代美術展 ファルネジーナコレクション」の流れを受け継ぐ展覧会は、イタリア現代美術の歴史を紹介するだけではなく、「アイデンティティ」という現代社会における重要なテーマに焦点を当てています。


環境危機、移民、地政学的な不安定さ、そして急速な文化変容という世界的課題のなかで、人間はどのように自己を認識し、他者や自然と関わるのか。本展はその問いを、アートを通して来場者に投げかけています。


エレナ・ベッラントー二《キツネとオオカミ 主導権をめぐる争い》2014年

イタリア大使ゆかりの現代美術コレクション

開会式には、マリオ・アンドレア・ヴァッターニ駐日イタリア大使、本展監修者のベネデッタ・カルピ・デ・レズミーニ氏をはじめ、多くの関係者が出席しました。


なかでも印象的だったのは、ヴァッターニ大使によるスピーチです。大使は、本展と自身との間に特別な縁があることを紹介しました。実はファルネジーナコレクション創設の立役者の一人が、当時イタリア外務省事務次官を務めていた父ウンベルト・ヴァッターニ氏だったのです。大使は、25年前に父が抱いた「イタリアの創造性や技術力を世界に伝えるためには、ルネサンスや古典美術だけでなく、現代美術も広く紹介されるべきだ」という理念が、現在も受け継がれていることへの誇りを語りました。


父君が創設に尽力した「ファルネジーナコレクション」の開会式で挨拶するヴァッター二大使

日本ではイタリアというと、ローマやフィレンツェに代表される歴史遺産やルネサンス芸術が広く知られています。しかし、イタリア文化は過去の遺産だけではありません。現代のアーティストたちもまた、社会や環境、人間の在り方について鋭い視点を提示し続けています。ファルネジーナコレクションは、そうした現代イタリアの創造性を世界へ発信するために生まれた文化外交プロジェクトでもあります。


イジーニオ・デ・ルーカ《テヴェレ博覧会》2021年

現代社会と向き合う女性アーティストたち

展示は「抵抗の根」「離脱の地理学」「不安定な生態系」の3つのセクションで構成されています。出展作家の多くは女性アーティストであり、それぞれ異なる世代や背景を持ちながらも、現代社会が抱える課題に向き合っています。「女性アーティストだから選ばれた訳ではなく、重要な作品を集めたところ、結果的に女性の比率が高くなった」と、監修者のレズミーニ氏は語りました。


シルヴィア・ジャンブローネ《鏡 No.34》2023年

アイデンティティを固定されたものではなく、他者との関係や経験によって変化し続ける存在として捉え直し、人間中心主義的な価値観を問い直している点が特徴です。


マルティーナ・デッラ・ヴァッレ《尾道の太陽の下で》2009年/2011年

筆者がもっとも心惹かれたのは、Silvia Camporesi シルヴィア・カンポレージの《イタリア図譜 Atlas Italia》。イタリア全20州に点在する「忘れ去られ、放棄された場所」を刻印した写真。無人となった街、かつて劇場だった場所など、朽ち果てる過程にある空間は、不思議な美しさを感じさせます。


シルヴィア・カンポレージ《イタリア図譜 Atlas Italia》2013/2015年

筆者はもともと廃墟が好きなのですが、この作品を観ていて、やはり人々がそこで対話し、笑い、暮らしていた記憶が残され、時を超えて心に訴えかけてくるのが廃墟の魅力なのだと、改めて感じました。


日本との文化的対話を物語る作品も

東京展では、日本との文化的対話を意識した展示も加えられています。例えばエリーザ・モンテッソーリの作品には、日本の伝統的な折本(おりほん)を思わせる表現が取り入れられています。さらに会場近辺で拾った石や枝を加えた作品も展示され、作品と空間、そして鑑賞者とのあいだに新しい対話が生まれています。


エリーザ・モンテッソーリ《無題》2019年
ジェア・カゾラーロ《我々の未来について #5》2005年

監修者のレズミーニ氏は、「境界とは単なる地理的な線引きではなく、通過し、出会い、変化するための場所である」と語りました。その言葉どおり、本展における“境界”は国境や文化の違いを意味するだけではありません。人間と自然、自分と他者、過去と未来を結びつける接点として描かれています。


監修者のベネデッタ・カルピ・デ・レズミーニ氏

2026年は日本とイタリアの外交関係樹立160周年という節目の年でもあります。両国の交流がさらに深まるなかで開催される本展は、現代アートを通じて新たな対話を生み出す貴重な機会となっています。イタリア現代美術の魅力に触れるだけでなく、私たち自身のアイデンティティや、人間と自然の未来について考えるきっかけを与えてくれる貴重な展覧会です。


9月の連休中も日曜日を除いて開館しているので、ぜひご来場のうえ、「いまのイタリアを象徴するアート」を体感してください。


イタリア現代美術展
「境界を越えるアイデンティティ 人間と自然の対話 ファルネジーナコレクション」

2026年10月22日(木)まで

10:30‒17:30
休館日: 日曜日

イタリア文化会館 エキシビションホール
入場無料

https://iictokyo.esteri.it/ja/gli_eventi/calendario/identita-oltre-confine-dialogo-tra-essere-umano-e-natura-nelle-opere-della-collezione-farnesina/