11月26日に開幕した東京国際映画祭。昨年はイタリア流のシュールなアンチ・ウェスタン『裏か表か?』が監督賞に輝きました。2026年、コンペティションに選出された『地獄が来たとしても』は、第二次大戦下のパルチザンの過酷な闘いを描いた衝撃作。観客の心に何を突きつけるのでしょうか。
イタリアのパルチザンの過酷な闘い
東京国際映画祭が開幕して3日目、東京・有楽町のヒューリックホール東京を会場に、Samuele Rossi(サムエレ・ロッシ)監督の『地獄が来たとしても』(Se venisse anche l’inferno, Even If Hell Came)が上映されました。
劇映画とドキュメンタリーの両分野で活動し、歴史の記憶や人間の尊厳をテーマに作品を制作してきたサムエレ・ロッシ。長年ドキュメンタリーを中心に活動してきた監督にとって、長編フィクション映画への本格的な進出を示す作品でもあります。

【あらすじ】
第二次世界大戦末期の1944年、ドイツ軍とファシスト勢力の支配が続く北イタリアのアルプス地方を舞台に、若いパルチザン兵士ジオの孤独な戦いを描いた作品。
激しい掃討作戦によって仲間たちを失った20歳のジオは、連合軍の侵攻が始まる春まで、山中の避難小屋を守るために生き延びようとする。寒さと飢えに苦しみながら、ナチの強制収容所から逃亡してきた元軍人、戦地に赴いた孫の帰還を待つ老女、ふもとの村との連絡役を務める農夫など、極限状態の中で生き延びようとしているさまざまなな人々と出会っていく。
過去の戦争を描くことの意味
上映後は、サムエレ・ロッシ監督と主演のLuca Tanganelli(ルカ・タンガネッリ)が登壇し、メディアや観客の質問に答えました。
「この物語を語ることは、私にとってとても重要なことでした。とくに、パルチザンの精神を描くことには、大きな意味があると考えています」。

「現在、世界では戦争が続き、多くの地域が危機的な状況に置かれています。だからこそ、過去に何が起きたのかを思い出し、語り継ぐことが重要なのです。そのためには、イタリアの歴史の中でも、パルチザンが経験した最も暗く、苦しい時代を描く必要があると考えました」と語った監督。
正直言って筆者は、1944年のイタリアが、既に連合国によって解放されていた南部と、ナチスやファシストに支配されていた北部に分断されていた事実を知りませんでした。

「そうした状況の中で、何万人もの人々が立ち上がり、連合国とともに戦いました。主人公の物語には、私が約10年前にドキュメンタリーを制作した際に出会った元パルチザンの人々の体験が反映されています。当時、彼らは80代、90代になっていましたが、それぞれが自分の経験を語ってくれました。
特定の一人の人生をそのまま描いたものではなく、さまざまな証言や記憶を組み合わせて、ドキュメンタリー出身の監督ならではの手法によって、一つの人物像と物語を作り上げた監督。映画の中で、ジオはパルチザンの仲間に「トスカーナの若者」といった呼び方をされていました。つまり、彼は故郷を離れ、北部を救うために志願したパルチザンだったことがわかります。


実際に過酷だった撮影現場
極寒の山の中で寒さと飢えに追い詰められていく主人公ジノを演じたルカ・タンガネッリは、こう語っています。

「私は、レジスタンスの人々が置かれていた状況に、できる限り深く入り込むことを選びました。映画に登場する森や寒さ、閉塞感のある狭い空間、雪などは、自然のままの環境を利用しています。しかし、その経験は、私自身にとっても、主人公を理解するうえで非常に大きな意味を持ちました。身体的な苦しさを通じて、登場人物の感情により深く近づくことができたと思います」。

過酷な環境下で仲間を待ち続け、飢えが極限まで達したときに負傷して、倒れ込んでしまったジノ。目を覚ますと、暖かな部屋の中、傷には手当が施され、熱々の料理が用意されていました。
戦地に赴いた孫を一人で待ち続ける老女との交流は、目を背けたくなる場面の多いこの映画の中にあって、唯一ほっとできるシーン。孤独な闘いを続ける主人公に降り注いだ天からの恩寵を思わせる場面として、深く印象に残りました。

映画を通して追体験するイタリアの痛ましい歴史
パルチザンとファシスト、同じ国の人間が憎み合い、殺し合う「地獄」が描かれた衝撃作。映画の冒頭で亡くなったパルチザンの女性が、亡霊となって登場するシーンがいくつかありました。
その場面について尋ねられた監督は、こう答えています。
「亡くなった人々は、今を生きる人々とともに存在し続けています。彼らの記憶を持ち続けることは、レジスタンスの精神を受け継ぎ、闘いを続けることにもつながります」。
戦争の無くならない世界、分断の進む現在において、ドキュメンタリー出身の監督が、切実な危機感をもってこの映画を作ったことが伝わってきました。
ITALIANITY読者の皆さんも、ぜひ映画体験を通じて、知られざるイタリアの歴史にふれ、イタリアをより深く知ってください。

第39回 東京国際映画祭
地獄が来たとしても
Se venisse anche l’inferno (イタリア)
上映スケジュール
10月30日(金)13:20〜 TOHOシネマズ シャンテ1
11月2日(月)14:00〜 TOHOシネマズ シャンテ1
一般2,200円、学生1,100円、学生当日700円
東京国際映画祭 公式サイト