「より長く、より健康に生きるには」をテーマに、食事や運動、科学研究、ウェルビーイングの観点から長寿社会の未来を考える国際シンポジウム「MeDiet Japan 2026 ― The Longevity Meet」が、2026年10月16日(金)・17日(土)の2日間、東京・渋谷の国連大学で開催されました。
長寿とは、ただ長く生きることではない
「MeDiet Japan」は、在日イタリア商工会議所(ICCJ)が2021年に立ち上げたシンポジウム型の取り組みです。日本やアジアにおける地中海式食事法とウェルネスの普及を出発点に、健康、総合的なウェルビーイング、持続可能なライフスタイルへとテーマを広げてきました。

平均寿命が延びる現代社会では、単に長く生きるだけでなく、健康を保ちながら自分らしい生活を続ける「健康寿命」が重要なテーマとなっています。
今回のシンポジウムでは、老化の仕組みや最新の研究に加え、食事、睡眠、運動、社会的なつながり、心の健康など、日々の暮らしに関わる幅広いテーマが取り上げられました。
科学の進歩によって老化を理解することはもちろん大切ですが、毎日の生活習慣や人との関わり方も、充実した人生を考えるうえで欠かせない要素です。研究者による講演に加え、ヨガやヴィーガン料理、エキストラバージンオリーブオイル、臨床栄養など、科学的な知見を日常生活に結びつけるプログラムも行われ、幅広いゲストの関心を集めました。

運動が老化や健康に与える影響
注目を集めたテーマのひとつが、運動と老化の関係です。
「運動と老化の生物学――エクササイズ、細胞、長寿医療」と題したセッションでは、運動が身体の機能や免疫、慢性炎症にどのような影響を及ぼすのかについて議論が交わされました。
早稲田大学の鈴木克彦教授は、加齢に伴う身体機能の低下や、がん、動脈硬化などとの関係が指摘される慢性炎症に着目。運動によって脂肪組織の炎症反応が抑えられる可能性や、免疫機能との関係について紹介しました。
また、高齢者を対象とした研究では、週2回、12週間にわたってウォーキングを行う取り組みが紹介されました。参加者の多くは普段から積極的に運動していませんでしたが、参加率は90%を超え、一部の酸化ストレス関連指標にも変化がみられたといいます。
こうした研究は、健康づくりのために必ずしも特別なトレーニングだけが必要なのではなく、日常生活の中で無理なく身体を動かすことにも意義があると示唆しています。
今回の登壇者の中でも注目を集めたのは、テロメア生物学と加齢における役割を解き明かしてきた、世界を代表する研究者の一人であるマリア・A・ブラスコ博士。博士の代名詞である「テロメア(命の回数券とも呼ばれる染色体の端)」と、それを保護する「テロメラーゼ酵素」の最新研究をベースに、細胞レベルから若さを保ち、健康寿命を延ばすアプローチについて語られました。


さらに、オンラインで登壇したジョルト・ラダーク博士によって、DNAメチル化などを用いて生物学的な年齢を評価する研究も取り上げられ、運動と細胞レベルの老化の関係について理解を深める機会となりました。
生きがいとコミュニティが人生を豊かにする
健康長寿を考えるうえで、心や人間関係に目を向けた議論も行われました。
「生きがい、模合・コミュニティ ― 長く生きる技法」をテーマとしたセッションでは、年齢を重ねるなかで直面する困難への向き合い方や、人とのつながりが持つ意味について意見が交わされました。

登壇した澤岡詩野教授は、「他者との関係には、自分自身を客観的に見つめ直す機会を得たり、自分では気づかなかった生きがいや可能性を見つける意味がある」と指摘しました。また、心地よい人間関係を大切にする一方で、「自分とは異なる考え方を持つ人との交流も、精神的な豊かさにつながる可能性がある」と語りました。

このセッションで会場がひときわ盛り上がったのは、長寿とライフデザインの戦略家、マーカス・ピアース氏の登壇。登壇者を含めて会場全体に立ち上がるように促し、隣の人をパートナーに、簡単なエクササイズを提案しました。身体を動かすだけで会場全体に笑顔が広がり、気分がほぐれた瞬間でした。
イタリアの食文化から考えるウェルビーイング
「MeDiet Japan」の出発点となったのが、地中海式食事法です。
野菜や果物、豆類、穀物、オリーブオイルなどを取り入れる地中海式食事法は、食材や栄養の組み合わせだけでなく、食を通じた暮らし方にも目を向ける考え方として知られています。
食事を単なる栄養摂取として捉えるのではなく、何を選び、どのように食べ、誰と食卓を囲むかという日々の選択から、健康と豊かな人生を考えることを重視しています。
2日目には、ヨガやヨガセラピー、ヴィーガン料理、エキストラバージンオリーブオイル、臨床栄養などをテーマとしたセミナーも開催。科学的な研究成果を理解するだけでなく、食事や運動などの習慣にどのように取り入れるかを考える機会となりました。


日本とイタリアがともに考える、これからの長寿社会
ICCJの事務局長、ダヴィデ・ファントーニ氏は、「ロンジェビティ(長寿)とは、ただ長く生きることだけでなく、心身のバランスを整え、健康的で充実した毎日を送ることでもある」と語りました。
そして、日本とイタリアが互いに何を学び合えるのかを問いかけ、世界の健康分野をリードする専門家の議論を通じて、参加者の日々の習慣がより快適で豊かなものになることへの期待を示しました。
長寿を実現するための答えは、ひとつではありません。科学の進歩を取り入れながら、日々の食事や運動を見直し、人とのつながりを大切にし、自分にとっての生きがいを見つけること。「MeDiet Japan 2026」は、長く生きることの先にある『どう生きるか』を、改めて考える機会となりました。