フィレンツェでおすすめのレストランを聞かれたら、真っ先に名前を挙げたいのが 「SANTABARBARA(サンタ・バルバラ)」です。 本当は秘密にしておきたいお店でもあります。ただでさえ予約が取りにくいのに、これ以上人気が出たら困るからです。それでも料理を思い出すたびに、誰かに話したくなる。私にとって、フィレンツェで今、最もお気に入りの一軒です。

初めて訪れたのは、2024年9月のオープン翌日でした。イタリア人の友人がシェフと知り合いだった縁で、開店したばかりの店に行くことになったのです。評判もメニューも、まだ何もわからないまま席に着くのは、私にとってちょっとした冒険でした。

ところが、一度食事をして、すっかりファンに。「また行きたい」と思っていたところ、 今度はお店から招待を受けて再訪しました。好きになったレストランに迎えていただけたこともうれしかったのですが、改めて料理を味わい、この店への思いはいっそう強くなりました。
寿司カウンターを思わせる空間
店に入ってまず目を引くのは、日本の寿司店を思わせるカウンターです。これを見ただけ で、「ここのシェフはきっと日本好きだな」と期待が膨らみました。

店内は約20席の親密な空間。小さなオープンキッチンを囲むようにカウンターが設けられ ています。シェフが料理を仕上げる姿を眺めながら、できたての一皿を受け取る。客席と厨房の距離が近く、料理について言葉を交わせるのも、この店ならではの楽しさです。

SANTABARBARAを営むのは、アレッシオ・ニンチとロレンツォ・キリミスキ。二人のシェ フは長年、高級レストランの世界で経験を積んできました。その経験を生かしながらも、 ファインダイニングの華やかさや過度な形式を追うのではなく、自分たちらしい食事の場をつくる道を選びました。
目指したのは、料理の質や美しさを大切にしながら、肩肘を張らずに食事を楽しめる場所。食卓を囲む喜びと、料理への探究心が共存するレストランです。シェフと客の間に隔 たりをつくらないカウンターには、その思いがよく表れています。二人は2024年9月、フィ レンツェのピエル・カッポーニ通りにSANTABARBARAを開きました。
塩麹に和食器、あふれる日本愛
私がこの店に強く惹かれる理由の一つが、ロレンツォシェフの日本愛です。

箸置きを思わせるカトラリー置き、和食器、居酒屋のような楽しさを感じる前菜。日本を連想させるものが店のあちこちに自然に息づき、フィレンツェにいながら、日本の店にいるような親しみを覚えます。

ロレンツォシェフは、日本旅行がブームになるずっと前から何度も日本を訪れてきたそうです。「いつか鎌倉・湘南あたりに住んでみたい」と話すほどの日本好き。その関心は、 店内のしつらえや器だけにとどまりません。

料理の説明を聞いていたとき、耳に飛び込んできたのが「SHIOKOJI」という言葉でし た。「えっ、イタリアで塩麹?」と思わず聞き返した私。「どこで手に入れるの?」と尋 ねると、「もちろん手作りだよ。自分で作っているんだ」との答えが返ってきました。これには驚きました。

ユッケを思わせる一品も登場します。ただ、単に和食材を添えて「日本風」に見せているわけではありません。塩麹のような日本の味を、洗練されたイタリア料理に自然に落とし込んでいるのです。

もちろん、すべての料理に和食材が使われているわけではありません。和の要素が印象に残る皿もあれば、そうではない皿もあります。日本への愛を感じさせながら、料理の軸はあくまでイタリアン。そのさじ加減に、日本人の私も感心させられます。
料理名を書かない4つのコース
SANTABARBARAには、もう一つユニークな特徴があります。メニューが、まるでタロットのようなカードになっているのです。カードに書かれているのはコース名だけ。4つのコースから一つを選び、どんな料理が出てくるかは、その日の厨房に委ねます。
コースは価格や皿数が異なり、それぞれ「Fulmine(雷)」「Torre(塔)」「Cannone(大砲)」「Corona e Spada(王冠と剣)」と名付けられています。

各コースには水、パン、コペルト(席料)、プレデザートが含まれます。アレルギーや食 物不耐症、食事の好みについても相談できますが、対応は食材の入荷状況や厨房の状況によります。必要なことがあれば、予約時に伝えておくと安心です。

料理の内容は、市場の状況や仕入れ先、近隣の生産者から届く食材に合わせて変わりま す。決まった料理のために食材をそろえるのではなく、そのとき手に入るものを生かしてコースを組み立てるのです。旬の食材から献立を考えるところには、日本の料理店にも通 じるものを感じます。

「今日は何が食べられるのかな?」。そのわくわく感がたまりません。運ばれてきた料理 を見て、シェフの説明を聞き、ひと口食べる。そうして少しずつ、その日のコースの輪郭 が見えてきます。料理名が書かれていないからこそ、目の前の一皿との出合いを楽しめるのです。
おまかせに込められた理由
おまかせコースには、客を驚かせる以上の理由があります。SANTABARBARAは、レストランの運営そのものを見直そうとしているのです。

選択肢を絞り、そのとき手に入る食材を生かすことで、料理の質を高めながら食品ロスをできる限り減らす。必要以上に食材を仕入れたり保管したりしなければ、厨房での消費や作業も抑えられます。お店が目指すのは、環境だけでなく、厨房で働く人への負担にも配慮した形です。

理念だけを聞くと、少し難しく感じるかもしれません。でも、席に着けば、まずあるのは 食事の楽しさです。「次は何が出てくるかな?」と待ち、おいしい一皿に出合う。そのあとで店の考え方を知ると、このスタイルがいっそう腑に落ちます。
忘れられない玉ねぎの一皿
私が食べた料理の中で、とりわけ忘れられないのが、前菜の一品「玉ねぎのキャラメリ ゼ」です。シンプルな料理ながら、ひと口食べると、濃厚な甘さが病みつきになり、また 次のひと口が欲しくなります。

とはいえ、おまかせの店ですから、訪れた日に必ず同じ料理に出合えるとは限りません。 それでも、次は何が出てくるのかを楽しみに、また予約を取りたくなります。

ただ、その予約が簡単には取れないのが唯一の悩み。1カ月先まで席が埋まることもある 人気店なので、フィレンツェ旅行の日程が決まったら、早めに予約を確認したい一軒です。私にとっては、旅の途中で偶然立ち寄る店というより、ここで食事をするために予定 を組みたくなるレストランです。
新しいBARの前にも大行列
そのSANTABARBARAが、9月19日、レストランのほぼ隣に新しいBARをオープンしました。私もオープニングに足を運んだのですが、目の前の光景には驚かされました。

店の前には、想像を超える行列と人だかり。フィレンツェで今、SANTABARBARAがどれほど人を惹きつけているか。オープニングの行列が、何より雄弁に物語っていました。
新しいBARも加わり、二人の挑戦はまだまだ続きます。その新しいBARについても、いつかご紹介できたらと思っています。
SANTABARBARA DESCO & CUCINA(サンタ・バルバラ・デスコ&クチーナ)
住所:Via Pier Capponi 72/A, 50132 Firenze FI
月~土 19:00-22:30
https://www.santabarbarafirenze.com/
SANTABARBARA DESCO & CANTINA-Wine Bar
(サンタ・バルバラ・デスコ&カンティー ナ ワインバー)
住所:Via Pier Capponi 34/R, 50132 Firenze FI
月~土 18:00-24:00