2025年の大阪・関西万博において、ヴァチカンパビリオンに門外不出とされたカラヴァッジョの『キリストの復活』が展示され、イタリアパビリオンには連日3時間待ちの行列ができました。カトリックの総本山、ヴァチカンに眠る数々の至宝。その“知と美の宝庫”ヴァチカン教皇庁図書館から、歴史的な名著の数々が到来し、一堂に展示されています。
印刷の誕生が変えた人類の知と文明
ヴァチカン教皇庁図書館との共同企画として、東京・小石川の印刷博物館において、2002年、2015年に続く第3弾として開催されている「名著誕生展 ヴァチカン教皇庁図書館Ⅲ+」。世界初公開となる中世写本や初期刊本を含む貴重資料66点を通じて、“名著”とは何か、そして印刷技術が人類の知と文明にどのような革命をもたらしたのかを紐解いていく展示です。
古代ギリシャの哲学者たちの言葉は、弟子たちによる筆記と口承によって受け継がれ、やがて写本として定着していきました。しかし15世紀、グーテンベルクによる活版印刷の登場は、知のあり方を根本から変えたのです。

ルネサンスの思想に影響を与えた古代ローマの名著
第1部「はじまりの名著」は、対話からテキストへと変化していく知の原点を追う展示。ルクレティウス『物の本質について』やアウグスティヌス『神の国』など、人類の思想史を形作った書物が並びます。
ルクレティウス『物の本質について』は、紀元前1世紀の古代ローマの詩人・哲学者ルクレティウスが、ギリシアのエピクロス哲学(原子論的自然観)を美しいラテン語の叙事詩(長編詩)形式で歌い上げた古典の名著。中世時代は散逸していましたが、1417年にイタリアの人文主義者ポッジョ・ブラッチョリーニが南ドイツの修道院で写本を再発見し、ルネサンスの思想界に多大な影響を与えたというドラマチックなエピソードをもつ名著です。

パスカルの『瞑想録 パンセ』初版本を展示
第2部では、科学革命以後の“近代の名著”に焦点を当てられています。ガリレオによる観測、パスカルの思索、そして『百科全書』へと至る知の体系化。精密な図版、数式、校正技術など、印刷文化が科学そのものを加速させた時代が、再現された道具や書物によって浮かび上がります。

「人間は考える葦である」というフレーズであまりにも有名なパスカルの『瞑想録 パンセ』は、愛読者が多く、筆者も読んだことのある名著。1670年の初版本は、なんと印刷博物館の所蔵品で、ヴァチカンの至宝とともに展示されています。

ニーチェから雑誌、マンガまで広がるメディア文化
第3部は、ニーチェ、放射能研究、記号論、サイバー空間など、近代以降の新たなテーマと“名著”の関係を探っていく展示。日本が「哲学」という概念をどのように受容したのか、現代における雑誌やマンガ、映画といったメディア文化の視点からも検証されている興味深い企画です。


単なる古書展ではない。
それは、「人間は何を考え、どう記録し、どう伝えてきたのか」という壮大な問いに触れる展示です。
AIによって“知の概念”が塗り替えられつつある現在。そんな時代だからこそ、“一冊の本”が世界を動かしてきた歴史に、改めて触れてみませんか。
会期中の土・日・祝には、館内施設「KOISHIKAWA XROSS®」のVR THEATERにて、『システィーナ礼拝堂』特別上映も実施。
全長20m、高さ5mの大型LEDカーブビジョンによる16K超高精細VR映像で、ミケランジェロの視点から天井画・壁画を体験できます。
名著誕生展 ヴァチカン教皇庁図書館Ⅲ+
会期:2026年7月20日(月・祝)まで
会場:印刷博物館
開館時間:10:00〜18:00(最終入場17:30)
休館日:月曜休館(7月20日は開館)
入場料:一般1000円、学生500円、高校生300円
公式サイト
https://www.printing-museum.org/collection/exhibition/t20260425.php