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インテリアデザイナー、コマタトモコが語るイタリア家具の魅力

Keiko Shimada

2025.04.18

「イタリアンモダン」という言葉があるほど、デザインの世界をリードしてきた芸術の国。アルド・ロッシの建築事務所に勤務した経験をもち、イタリアに縁の深いインテリアデザイナー、コマタトモコさんの視点から、イタリア家具の魅力について探ります。



アルド・ロッシと内田繁に学んだインテリア哲学

建築とデザインの分野で、世界に大きな影響を与えたイタリアの建築家、アルド・ロッシ。日本を代表するデザイナーとして世界で活躍した内田繁。コマタさんは内田繁に師事し、当時、ロッシが内田氏とともに日本でのプロジェクトを手がけていたことから、アルド・ロッシの築事務所に配属されました。2000年以降、COVID-19が流行するまでの20年間、ミラノサローネにも毎年通い、常にイタリアのデザインに触れ、たくさんのイタリア家具と暮らしているインテリアデザイナーです。


田園調布にある横堀建築設計事務所は、建築家の横堀健一さんとインテリアデザイナー、コマタトモコさんご夫妻が主宰する横堀建築設計事務所のオフィスと自宅を兼ねた美しい建築。「SOLE E LUNA 太陽と月」と名付けられた建物は、刻々と変化する陽射しや月明かり、風や雲の動きなど季節の移ろいを感じるために、東西南北に窓のある日本の農家の「田の字」の間取を採用しています。日本建築のほどよい明るさを取り入れた居室では、イタリアの名作家具やコマタさんがデザインした家具、日本人作家のアートが完璧に調和し、初めて訪れたのに、なぜか懐かしさを感じる趣に満ちていました。


モダンデザインが開花した芸術の国

「イタリアは、モダンな家具の発展が世界で一番進んだ国です。たとえばフランスではクラシックやアンティークが好まれ、アメリカは西洋諸国の植民地だった背景から欧風カントリーのテイストがいまも好まれます。北欧のスカンディナヴィアスタイルは機能主義で、日本のミニマリズムに近い。イタリアは、アルド・ロッシもデザインしたモルテーニ、B&B、カッシーナ、ミノッティなど、モダンな家具の発展度が世界一だと思います」。


「SOLE E LUNA」のオフィスのエントランスでゲストを迎えるのは、アルド・ロッシがデザインしたMolteni & C(モルテーニ)の「Teatro テアトロ」。劇場のためにデザインされた名作椅子は、繊細なグリーンを纏った独創的な美しさが際立っています。


「いまも活躍されているデザイナーの中で尊敬するのは、Antonio Citterio(アントニオ・チッテリオ)。B&Bをはじめ色々なヨーロッパブランドをデザインしていて、FLEXFORM(フレックスフォルム)というブランドはすべてチッテリオがデザイン監修し、世界各国のブルガリホテルはミラノ、ロンドン、パリ、東京もデザインしています。チッテリオは、イタリアのモダン家具を牽引してきた一人だと思います」。コマタさんが特に好きなのが、B&B ITALIAの「MAXALTO マクサルト」というコレクション。「彼のデザインの中でも、東洋と西洋、古典と現代が融合していて、クラシックかつモダン。それは、私が目指している世界観と同じだからです」。


有名デザイナーが手がけた傑作たち

オフィスのミーティングルームの窓辺には、革張りのコンパクトな折りたたみテーブルが。この家具は、PROMEMORIA(プロメモリア)の「Battista バティスタ」。1978年、Romeo Sozzi(ロメオ・ソッツィ)がデザインした最初の家具として知られています。


コマタさんはソッツィと親交があり、ご自宅に招かれたことも。「ミラノのご自宅もそうなんですが、クラシックとモダンが絶妙なバランスで共存しているところが素晴らしいですね。ソッツィさんは、もともと画家を目指していたのですが、お父さまが家具職人だったので家具をデザインするようになったそうです」。テーブルは折りたたんでも自立し、豊富なバリエーションから革や仕上げが選べて、世界に一つだけのオリジナルが完成します。



この部屋にあるもう一つの名作は、Cassina(カッシーナ)の「699 SUPERLEGGERA スーパーレジェーラ」。Gio Ponti(ジオ・ポンティ)によってデザインされたアームレスチェアです。1957年に完成するまでに5年の歳月をかけたチェアは、極限まで削ぎ落とされた幅18mmの三角形フレームによって、重さ1,700gという軽量を実現。発売から半世紀以上にわたって人気のロングセラーとなっています。


西洋と東洋が融合したリビング

ミーティング用のチェアとして使われているのは、Phillip Starck(フィリップ・スタルク)がデザインしたKartell(カルテル)の「LA MARIE ラ マリー」。世界で初めてポリカーボネート一体成型によって造られた透明チェアで、ゴーストシリーズの先駆けとなったモデルです。美しいデザインですが、座り心地をよリ良くするために、コマタさんはオリジナルのクッションとカバーを制作。チェアの形にフィットする美しいシルエットのカバーは、名作家具に新しい表情を加えています。


自宅のリビングのチェアは、Tobia Scarpa(トビア・スカルパ)がデザインしたモルテーニの「MHC.3 MISS」。リズミカルに続くラインの形状は座り心地の良さにも結びつき、完成された美しさに満ちています。中庭に面した窓辺に、コマタさんがデザインした東洋の美を形にしたような皮のコンソールと2脚の「MHC.3 MISS」、書棚のある空間は、まるで絵のような美しさ。日本の伝統色「桜鼠」がテーマカラーの部屋には菅原健彦の桜の絵が飾られ、まさに「East Meets West」の世界が広がります。



宝物を集めたアルド・ロッシのキャビネット

2階オフィスのワークスペースの主役は、アルド・ロッシとルカ・メダがデザインしたモルテー二の「Piroscafo ピロスカフォ」。ペルージャにあった建造物のファサードからインスピレーションを得て、同じ窓が整然と並ぶキャビネットが誕生しました。中には、コマタさんにとって恩師である内田繁とアルド・ロッシの著作やデザインしたプロダクト、倉俣史朗の一輪挿しなど、大切なものが収められています。


「イタリア人は、捨てるものは買わないと言われています」と語ったコマタさん。「好きなものを選んで、直していつまでも使い続ける。それこそが、美しいデザインと暮らしながらサステナブルにもつながると思います」。イタリアンモダンの名作家具が、風情あふれる日本の美とみごとに調和した唯一無二の空間。インテリアの夢がつまったホームオフィスで、イタリア生まれの家具は活きいきと暮らしていました。