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ジャズ・ピアニスト 西山瞳がイタリア音楽を深掘り①巨匠エンリコ・ピエラヌンツィを語る

Hitomi Nishiyama 西山瞳

2025.03.17

ヨーロッパジャズを背景とした独自の音楽性により、幅広い音楽ファンから支持されているジャズ・ピアニストの西山瞳は、メタラーとしても有名。ジャズ、クラシック、ヘヴィメタルと、多様な音楽を愛する人気ピアニストがイタリア音楽を深掘りする新連載、待望のスタート!


はじめまして、ジャズ・ピアニストの西山瞳です。
ジャズ・ピアニストといっても、昔のジャズ喫茶で流れていたような1940~60年代のモダンジャズや、アメリカの古き良きジャズ・スタンダード曲を毎日演奏しているわけではなく、自作曲を演奏することを活動のメインとしています。

私とピエラヌンツィの出会い

ヨーロッパジャズを背景とした独自の音楽性により、幅広い音楽ファンから支持されているジャズ・ピアニスト、西山瞳

実は、今の私の活動の原点は、イタリアの音楽、イタリアのジャズ。
今回は、私が大きく影響を受けたイタリアのジャズ・ピアニスト、Enrico Pieranunzi(エンリコ・ピエラヌンツィ)を、ご紹介します。


1949年生まれのピエラヌンツィは、イタリアの巨匠として知られ、日本のジャズファンからも愛される存在。叙情的なオリジナル曲と甘美なメロディ、ソリッドなタッチのピアニズム、フリージャズのエッセンスも含んだ自由な演奏は、多くのジャズファンを魅了してきました。


私がピエラヌンツィの音楽と出会ったのは、2000年頃。この頃は、日本のジャズ市場でヨーロッパ・ジャズのムーヴメントが起き始めていた頃でした。
もちろん、それより前からヨーロッパのジャズに注目してきたジャズファンは沢山いましたが、2000年前後にスウェーデンのジャズ・ピアニストLars Jansson(ラーシュ・ヤンソン)の作品のヒットや、良質なヨーロッパ・ジャズを紹介するレーベル澤野工房が登場したことにより、ヨーロッパ・ジャズが日本の市場で大きく注目され、様々なヨーロッパのジャズ・ピアニストが紹介されることとなりました。


そんな中でも、ピエラヌンツィは大きな存在感を放っていました。
それは、彼が非常に多作なアーティストであったことも理由の一つ。複数のレーベルから1年に3、4枚は作品がリリースされ、アメリカの有名ミュージシャンとの共演も多く、レーベルごとに演奏のカラーが変わるため、追いかけ甲斐のある存在だったからです。

イタリアが世界に誇るジャズ・ピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィ(Photo:オフィシャルサイトのメディアサービスより)

イタリアの心を奏でる至高のジャズ

ITALIANITYでご紹介したいのが、まずこの一枚。

『Racconti mediterranei』



Apple Music https://music.apple.com/jp/album/racconti-mediterranei-feat-marc-johnson-gabriele-mirabassi/1362153859?l=en-US



2000年、EGEA Recordsというイタリアのレーベルでの作品です。このレーベルは、全ての作品が徹頭徹尾イタリアの美意識に溢れ、叙情的で、物語を紡ぐような色彩豊かな世界を味わえます。
その中でも、Racconti mediterranei=地中海物語は、レーベル全体の代表作品とも呼べる傑作。エンリコ・ピエラヌンツィ(ピアノ)、マーク・ジョンソン(ベース)、ガブリエル・ミラバッシ(クラリネット)という、ドラムのいない室内楽的な編成で、全てピエラヌンツィの自作曲で構成されます。
1曲目「The Kingdom」を聴いて、「これってジャズなの?」と感じられるかもしれません。


ジャズは、当然のことながら、アメリカで生まれた音楽。
しかし、この作品はどうでしょう。クラシック作品のような気品と完成度を持ち、ジャズがこのように他文化と交わり昇華されるのかという、驚きに満ちています。
私はこの作品が出てすぐの頃に聴いて、このジャズの自然な在り方と無限の可能性に心から感激し、今の音楽家としての指針になりました。


2曲目「Les Amants」は、曲調こそクラシカルですが、テーマからコール・アンド・レスポンスになっており、転調を繰り返し、ベースからピアノ、クラリネットへソロが移るというジャズの演奏形式をしっかり踏まえ、インタープレイしていることがわかります。あまりにも優雅なので、これが即興により紡ぎ出されるメロディとは、思い難いですが。


この、アメリカの音楽の物真似をするのではなく、育った土地の空気や文化的背景、クラシックからの学びや個人の音楽的背景など、持っているものを全部活かし、アイデンティティを大事にして即興演奏と会話をするという、他文化を容易に受け入れてしまうジャズという音楽の懐の深さを感じた一枚です。
また、このEGEA Recordsは、カタログの大半がイタリアの録音で、イタリア製のピアノFAZIOLI(ファツィオリ)が使用されており、なんとも温かく豊かな音色がします。


モリコーネの名曲をトリオで演奏

そして、もう一枚。『Play Morricone 1 & 2』


以前、別々にリリースされていたものが、2021年に2枚まとめて再リリースされました。
イタリアの大作曲家エンニオ・モリコーネの素晴らしい曲たちを、エンリコ・ピエラヌンツィ・トリオで演奏した作品です。
もはや説明不要の「ニューシネマ・パラダイスのテーマ」も収録。
実はピエラヌンツィは、この映画オリジナルレコーディングのサウンドトラックでもピアノを弾いており(※)、すでに皆さんの耳に馴染みがあるかもしれません。
(※映画のオリジナルレコーディングには、Alberto Pomeranz、Enrico Pierannunziという2名のピアニストが記載されており、どちらがどの曲を弾いたのかは不明です)


この作品で初めて知ったモリコーネの曲も多かったのですが、なかでも「Il Prato」は、あまりの美しさに心打たれ、何度繰り返し聴いたことでしょう。


1979年の映画、『Il prato』のテーマだそうです。
余計な装飾や華美な歌い回しは全くせずメロディを弾き、数度の転調で少し持ち上げて、さらに誠実にメロディを再現するのみ。アドリブソロもなく、エンリコ・ピエラヌンツィ・トリオの音色を十二分に活かし、シンプルにエモーションを高めるアレンジにも、大変感銘を受けました。

原曲はこちら。



ピエラヌンツィ入門ならこの1枚!

そして、2024年昨年の作品『HINDSIGHT – Live At La Seine Musicale』が、最新ライブアルバムであり、ピエラヌンツィ入門作品として最適の一作です。


https://amzn.asia/d/aolB11v


ピエラヌンツィといえば、ジャズ・スタンダード曲の演奏も素晴らしいのですが、ニーノ・ロータやエンニオ・モリコーネから脈々と流れるイタリアン美旋律の作曲が魅力。
代表曲であり、世界中のジャズ・プレイヤーが見るスタンダード楽譜集にも掲載されている「Je Ne Sais Quoi」、「Don’t Forget The Poet」や、近年ライブでよく演奏されている「Castle of Solitude」、「B.Y.O.H.」など、とにかく良い曲ばかり収録されています。
楽曲、アンサンブル、全てが充実した決定版のような作品で、発売されて日が浅いので購入しやすいこともあり、最初の一枚にお勧めです。


Amazon

https://amzn.asia/d/1RE1KsX


Apple Music

https://music.apple.com/jp/album/hindsight-live-at-la-seine-musicale/1728579723


ぜひ、イタリアの豊かな響きのジャズに、触れてみて下さい。


エンリコ・ピエラヌンツィ オフィシャルサイト

https://www.enricopieranunzi.it


『Echo 』エコー / 西山瞳 3,190円

西山瞳(ピアノ)、西嶋徹( ベース)、則武諒(ドラムス)

except 5:鈴木孝之(クラリネット)、橋爪亮督( テナーサックス、フルート)、maiko(ヴァイオリン)

2023年『Dot』、2024年『Echo』は、ジャズ、ヘヴィメタル、クラシックを踏まえた活動集大成の連作として発表され、配信サービスで13カ国でチャートイン。