自転車大国のイタリアには自転車を歌った楽曲も多く、歌詞中に情景描写として自転車が登場するものまで入れたらキリがないほどです。 毎年5月にイタリアで開催される自転車レース競技「Giro d’Italia(ジーロ・ディターリア/日本語表記:ジロ・デ・イタリア)」では、高揚感を盛り上げるために音楽ライヴを行うステージを設けたり、テーマ曲が作られることもあります。
イタリアに数多ある自転車を歌った楽曲を、例によってイタリアらしく、新旧の時代からジャンルを問わずにピックアップして紹介いたします。
プレイリストの内訳
16までは自転車レース関連の歌です。 17以降は自転車そのものや自転車ライフの楽しさを歌った作品や、歌詞の中に自転車が印象的に取り入れられた歌となります。
Buon ascolto!(ブオン・アスコルト / 意:聴いてね!)
プレイリスト収録曲詳細
1. ジロ・デ・イタリア2013の公式テーマ曲。 まさにジロを楽しむ生活を歌った作品。 自分の町にジロが通る喜びを歌っています。 イタリアでは珍しく若くして大成したチェーザレ・クレモニーニが自作して歌っています。
2. ジロ・デ・イタリア2014および2016年の公式テーマ曲となったことから、ジロ・デ・イタリアといえばこの曲!のイメージがすっかり根付いた楽曲です。 ラッパーのフランキー・ハイ・エナジー(イタリアでは“アイ・エネルジー”の発音になりますが)のサンレモ音楽祭2014出場曲で、タイトルの「Pedala(ペダーラ)」は“ペダルを漕げ!”の意味です。
3. “イル・ピラタ(意:海賊)”の愛称で親しまれた有名な自転車競技選手の故マルコ・パンターニ(1970-2004)に捧げられた楽曲です。 彼の死後2006年にベテランバンド、ノーマディ(意:遊牧民たち)が発表して大きな注目を集め、タイトルは「最後の坂」を意味し、特にクライマーとして突出した実力を誇ったパンター二の象徴そのもの。 死後のパンターニが偶像化されていったことあり、今ではパンターニのテーマ曲のような位置づけとなっています。
4. これもマルコ・パンターニに捧げられた楽曲。 タイトルの「Le rose di Pantani(レ・ロゼ・ディ・パンターニ)」とは、ジロ・デ・イタリアの勝者の証である“マリア・ローザ”と呼ばれるピンクのジャージのことで、それが複数形になっているので、パンターニが数々の大会で優勝を納めたということが判るタイトルです。 歌っているのは故クラウディオ・ロッリ(1950-2018)で2006年発表曲です。
5. 同じくマルコ・パンターニに捧げられた楽曲。 サンレモ音楽祭優勝歴&来日歴もあるアレクシアの2004年アルバム収録曲。
6. ロックバンド、リトフィーバの1999年発表曲。 歌詞は自転車レースを歌っているように感じられます。 特に誰を歌っているかは歌詞中からは判りませんが、後の彼らの言動から推察するにこの曲もマルコ・パンターニに捧げられた曲と考えても良いかと思います。
7. エリオ・エ・レ・ストリエ・テーゼの1990年発表曲。 同年のサンレモ音楽祭でミルヴァが歌った楽曲タイトルをそのまま拝借したパロディにしています(さすがはコミックバンド!)。 ミルヴァの楽曲は“私は幸福” という意味ですが、彼らは “僕はフェリーチェ”、すなわち自転車競技の名選手フェリーチェ・ジモンディ(1942-2019)の事を歌っています。 ジモンディは1965年のツール・ド・フランス初出場にして総合優勝を果たし、史上2人目の全グランツール総合優勝者となりました。 そしてジモンディのツール優勝後33年ぶりのイタリア人優勝者は前出のマルコ・パンターニで、ジモンディはパリに駆けつけてパンターニを労いました。
8. エンリコ・ルッジェーリの2000年発表曲で、タイトルに掲げられているのは前出のフェリーチェ・ジモンディと “Il Cannibale(意:共喰い)”と呼ばれたベルギーのエディ・メルクス(1945- )という2人の運命的なライバル関係を歌っています。
9. フランチェスコ・デ・グレゴーリの1993年発表曲で、タイトルは「悪党とチャンピオン)」を意味し、アナーキストで数々の犯罪に手を染めたサンテ・ポッラストリ(1899-1979)と第二次大戦以前の自転車レースで驚異の記録を残したコスタンテ・ジラルデンゴ(1893-1978)の2人の事。 なんとこの2人は同じ町の出身者かつほぼ同世代。 2人とも少年時代から自転車に情熱を持っていたそうですが、片や悪党、片や今でも破られることのない国内選手権9連覇のレコードを持つ英雄と人生が分かれていく不思議を歌っています。
10. パオロ・コンテが1979年にセルフカヴァーした楽曲(最初はブルーノ・ラウツィが1978年にリリース)。 歌われているのは第二次大戦前後に大活躍した自転車選手ジーノ・バルタリ(1914-2000)。 彼のジロ・デ・イタリア通算7回優勝という記録は今でも破られていません。
11. 1940年代から活動していた“古き佳きイタリア”の雰囲気たっぷりの男女混成ヴォーカルグループ、クァルテット・チェトラの1952年発表曲。 “カンピオニッシモ(意:チャンピオンの中のチャンピオン)”の異名を取った名選手ファウスト・コッピ(1919-1960)と前出のジーノ・バルタリの2人が歌われています。 ファウストは19歳のデビュー戦でいきなりジロ総合優勝に輝き、21歳の時にはアワー・レコードで14年ぶりに新記録を更新し、その後14年間破られることはありませんでした。
12. 1950年代の終わりから活動を続ける現役シンガーソングライターのジーノ・パオリが1988年に発表したファウスト・コッピ讃歌。
13. まだ無名だったフランチェスコ・バッチーニがラードリ・ディ・ビチクレッテ(意:自転車泥棒たち)と組んで披露し、フェスティヴァルバール1990で優勝を勝ち取った記念すべき楽曲。 「この太陽の下で」という意味のタイトルで、ところどころに出て来る固有名詞は明らかにジロ・デ・イタリアのコースに登場するもので、MVは前出のファウスト・コッピとジーノ・バルタリをイメージしていました。 驚くべきことは、同年夏はイタリアでサッカーのワールドカップが開催された年にも関わらず、自転車競技を歌った歌が夏の象徴のようなフェスティヴァルバールで優勝したことです。 イタリアの自転車ファンの間では、 “自転車がサッカーに勝った”と誇りをもって語り継がれているようです。
14. 19世紀のイタリアで大流行した“リショ”と呼ばれたダンス音楽を現代に継承する第一人者だった故ラオウル・カサデイ(1937-2021)が歌う、自転車競技讃歌。 “ゴールは上り坂だから / 漕いで、できるだけ漕いで / 君が勝者になるよ”と歌われています。
15. 前出のクァルテット・チェトラ1961年発表曲。 「チャオ、ママ」というタイトルなので、母の日特集のプレイリストに入れようかと思っていたのですが、歌詞の内容は自転車レースに出場する息子視点の歌詞ですので、この自転車特集に回しました。 “勝って帰るよ”と勇ましい息子の歌です。
16. ベルギーで開催される自転車レース“フレシュ・ワロンヌ”を歌った楽曲。 後半に急坂が続くコースで知られる大会なので、歌詞中にもペダルの重さ、肌肉疲労、それらを払拭するゴールの感触などが歌われています。 歌っているのはコンバットフォークグループのヨー・ヨー・ムンディで、1994年作品。
17. イタリアで “自転車ライフを楽しむ曲”といえばこの曲。 リッカルド・コッチャンテ1982年作品。 日曜日の朝、カップルで自転車散歩する楽しさが幸せいっぱいに歌われています。
18. 人気ラッパー、ジェイ・アックスの2011年発表ラップ曲。 タイトル通り、純粋に自転車愛を歌っています。
19. 瑞々しい感性のシンガーソングライター、マルコ・フェッラディーニの1983年アルバム収録曲。 新しい自転車で郊外へのツーリングを楽しんでいる歌。 最後の方に出て来るフレーズに“ミラノの自治体は「二輪でどうぞ」と掲げている。 僕もそうするよ。 それにしてもこの自転車とはなんて素晴らしいんだろう”というところがイイですね。
20. ルカ・カルボーニの1987年作品。 「僕のところに住みにおいで」という意味のラヴソングで、軽やかに自転車に乗るシーンがチラッと登場します。
21. 故イヴァン・グラツィアーニの1979年作品。 愛しの女性アニェーゼと過ごした日々の想い出のひとつとして、8月の海辺で自転車に乗るシーンが描かれ、彼女がいなくなった冬の早朝、独り自転車に乗る男は、あの時ハンドルを握って歌っていたアニェーゼがもういない、という現実を嚙み締めます。
22. ファビオ・コンカートの1984年作品。 ダイエットのために1日中自転車に乗っている愛しのロザリーナについて歌われています。 彼女は夜中にシュークリームを死ぬほど食べてしまう性分なので、体重90kgなのです。 でも彼はポッチャリのロザリーナが大好き!という落としどころのない面白い歌です。
23. 1951年の映画『Bellezze in bicicletta(意:自転車に乗ったべっぴんさんたち)』の主題歌。 主演女優のシルヴァーナ・パンパニーニが歌っています。 後に多くの歌手にカヴァーされるようになるスタンダードナンバー。
24. ラディチ・ネル・チェメント(意:セメントの中の根っこ)という面白い名前のグループが歌う、ずばり「自転車」をタイトルにした、新しい自転車をひたすら褒め称える明快な自転車讃歌。 2008年作品。
25. 90年代にデビューしたもののあまり売れず、2020年に60歳以上を対象にしたタレントショウ番組で優勝して、遅過ぎる脚光を浴びることとなったエルミーニオ・シンニの2012年作品。 自転車にのって街中をポタリングする楽しみが歌われています。
26. 白馬ならぬ「自転車に乗った王子さま」というタイトルで、大学のかたわらカフェで働き詰めになっているウエイトレスに捧げられ、“自転車に乗った、君の王子さまがやって来るよ”というおとぎ話的な歌詞。 歌っているのは、覆面を被ったバンド、トレ・アッレグリ・ラガッツィ・モルティ(意:3人の元気な死んだ若者)の2000年作品。
27. 新進気鋭のフルミナッチの2021年作品。 ずばり自転車の複数形をタイトルに据えた楽曲で、歌詞の内容は夏が始まる前に去ってしまった女性を歌っているようですが、タイトルと冒頭に何の脈絡もなく自転車の複数形が置かれているので、所有する自転車のうち1台がオシャカになってしまったことを歌っているようにも感じられます。 自転車という言葉はイタリア語では女性形名詞なので、女性に擬人化して歌われていると推察できるわけです。