ART & DESIGN

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日伊デザインユニットから見たイタリアンデザインの現在【後編】/ゲスト:Mist-o(インテリアデザイナー)

エディターの濱口重乃(ハマグチ・シゲノリ)さんをホスト役に、イタリアのデザイン(ファッション、インテリア、プロダクト)やカルチャーに精通するゲストをお招きしてトークを繰り広げる対談スタイルの連載「シゲノリ・サローネ」。

イタリア人のトンマーゾ・ナーニさんと日本人の池内野有(イケウチ・ノア)さんによるデザインユニットMist-o(ミスト)をゲストに迎えたトークの後編です(前口上:「SHOP ITALIA」編集部)。

【前編】日伊デザインユニットから見たイタリアンデザインの現在/ゲスト:Mist-o(インテリアデザイナー)

対談構成:梅森 妙、「SHOP ITALIA」編集部

ぶつかり合ったときに、いいデザインが生まれる

濱口:Mist-oの名前の由来は?

池内:「misto」はイタリア語で「混ざる」という意味で、僕らは日本とイタリアのミックスのユニットなので、多様性を意味する名前がいいなと。もうひとつの意味は、英語の「霧」の「mist」。霧は小さい水玉(=エレメント)の集合です。僕らのデザインに対する基本的な考え方として、ひとつのアイディアやコンセプトを突き詰めていいモノをつくるというより、いいモノというのはいろいろなエレメントの集合体なので、ひとつひとつのエレメントを大切にしたモノをつくっていきたいと思っています。

濱口:Mist-oを結成したのはいつ?

池内:2012年です。トンマーゾと最初に会ったのはIED(Istituto Europeo di Design)というデザイン学校で、クラスが一緒だったんです。卒業して4、5年経って、トンマーゾはパロンバ・セラフィニ(Palomba Serafini)のデザイン事務所を、僕はデイヴィッド・チッパーフィールドの建築事務所を辞めたあと、Mist-oとして活動を始めました。

濱口:ふたりのデザイン観は近かったんですか?

池内:考え方はかなり違いますね。今でも毎日のように言い合いになったりします(笑)。どちらかというと僕は論理的で、トンマーゾは感覚的で、お互いが出すアイディアにもそれが反映されていますね。でもその違いをポジティブに捉えていて、お互いにぶつかったときのほうが、いいデザインがポンと出てきたりします。

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「ZENIT」 2018 Sofa Manufactured by PAOLA ZANIPaola photo:Alberto Strada

ナーニ:僕は論理的に考えるより、アートや写真、文学、いろいろなジャンルから刺激を受けることでアイディアが出てきますね。

池内:彼は好奇心が旺盛で、僕よりも圧倒的に知識量があります。イタリア、日本に限らずいろいろな国を旅して、そこで見たり体験したことがデザインのバックボーンになっていますね。

ナーニ:僕らはもともと友人で、人生のことやお互いの文化のこと、いろいろなことを話していて楽しい友人というところからスタートしているので、それは今でも変わらないですね。育った環境も似ていたし。

池内:ふたりともヒッピー系の家に育ったという。最初、僕はあまりイタリア語を話せなかったんですけど、彼は僕のつたないイタリア語でも話をちゃんと聞いて、違う文化を受け入れようとしてくれて、彼もなんとかして伝えようとしてくれたんですよね。そのへんでフィーリングが合って仲良くなりました。

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「ATLANTIS」 2014 Flower Vase Manufactured by CAPPELLINI photo: Alberto Strada

イタリアの家具メーカーはデザイナーの登竜門

濱口:そもそも、野有さんがイタリアに行こうと思ったきっかけは?

池内:高校生の頃にデザインに興味をもつようになって。今ならインターネットでいろいろなことを調べられますが、当時はデザインを知るための情報って今よりも圧倒的に少なかったんです。ましてや、すごく田舎に住んでいたので。あるとき東京に来て、デザイン雑誌『AXIS』でデザイナーの倉俣史朗さんのことを知りました。そして彼の本を読むことで、イタリアのデザイン界と強いつながりがあったことを知って、有名なデザイナーになるためには海外に出て行くものだと勝手に思い込みました(笑)。一応、日本の美大を受験したものの合否の発表の前にイタリアへ行くことを決めて、イタリアがどういう国なのかもよく知らないまま飛んで行きました。

濱口:行ってみてどうでした? 

池内:ミラノに19~30歳まで11年間住みましたが、イタリアでデザインの仕事をある程度やって、もっと日本や他の国で仕事をすることが自分にとっては新しい挑戦だと思い帰ってきました。イタリアは好きですけど、住むのはもういいかなって(笑)。

濱口:それはどうして?

池内:イタリアの経済状況的に、新しいことを始めようとする人には負担が大きいと感じたんです。

ナーニ:イタリアの家具メーカーは若いデザイナーにとってはキャリアを築くための登竜門として機能していますから、イタリアのメーカーと仕事をすることは大事だと思います。ただ、そのためにイタリアに住む必要はないので。

濱口:デザインの世界も国際化が進んでいて、国や地域による区別もだんだんなくなってきていると思うんだけど、そうはいっても、とくにインテリアの世界では、依然として「イタリアンデザイン」は揺るぎないところがあって、それはテクニカルな面だったり、さっき言ったような環境に支えられていますね。

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「L.A.S.」 2015 Floor lamp Manufactured by OLUCE

顔を合わせて話をすることで価値観を共有できる

濱口:ミラノと東京で離れて暮らしながら一緒に仕事をしているユニットって珍しいと思うんですが、ひとつのプロダクトをデザインするときに、どういうプロセスでつくるんですか?

池内:基本的にはどのプロジェクトもふたりでやっています。プロジェクトごとに担当を分けるということはなくて。ふだんはトンマーゾがミラノにいて、僕は東京に住んでいるので、Dropboxなどのオンラインストレージにお互いのスケッチやインスピレーション源になる画像などを入れて共有しています。そのやり方のいい面は、24時間仕事が回っていることですね。時差があるから、トンマーゾがやった仕事を僕がバトンタッチしてやって、それをまたトンマーゾがやって、というふうに。朝起きて見てみたら、自分のやったことが思いがけない形で発展させてあって、新しい視点で見ることができる、そういうやりとりが面白いですね。

濱口:不便なこととか、苦労する点はないですか? 

ナーニ:一見、仕事とまったく関係のない話をすることも大切で、お互いの考えのバックボーンとなり、時間を経て作品に現れてくるので、物理的に離れすぎると、お互いの根本的な考えの方向性がちょっとずつズレてきてしまう。だから、ある程度会って話す時間は必要だと思いますね。

池内:僕もそれは感じます。ふたりでデザインをする上で、何をもって「いい/悪い」とするか、その判断が難しい。一時、その判断基準が大きくズレてしまったので、トンマーゾが日本に来る回数を増やして、会話する時間を増やしました。さまざまな話をしていることが、最終的にはその「いい/悪い」の判断の基準になってくるというのは強く感じますね。なので、とにかく一日中話し合って、ぶつかりながら発展させていって、ときどきスケッチする、というプロセスでやっています。

やっぱり顔を合わせて仕事をするのは大事だなっていうのは最近実感します。それは日本である必要はなくて、たとえばインドのプロジェクトであればインドで会うみたいに、場所は世界中のどこでもいいですし、もしそれができれば今後の働き方として理想的だと思います。

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左より、池内野有さん、トンマーゾ・ナーニさん、そして濱口重乃さん。 photo:Aurelien De Dapper / 撮影協力:エ インテリアズ

【前編】日伊デザインユニットから見たイタリアンデザインの現在/ゲスト:Mist-o(インテリアデザイナー)


PROFILE
Mist-o(ミスト)
イタリア人のトンマーゾ・ナーニと、日本人の池内野有のユニット。ともに1983年生まれ。イタリア・ミラノのデザイン学校IED(Istituto Europeo di Design)で知り合い、2012年よりMist-oとしての活動をスタート。現在はミラノと東京をベースに、インテリア、プロダクトの分野を中心に意欲的な作品を発表している。
Mist-o Webサイト http://www.mist-o.com/
LIVING DIVANI 内プロフィール https://livingdivani.it/en/designers/mist-o/

★撮影協力:エ インテリアズ   https://www.interiors-inc.jp/
東京・南青山「エ インテリアズ」は、LIVING DIVANIなどイタリアを中心とする家具、キッチン、収納、アートなど、空間をトータルでコーディネートできるアイテムを取り扱う。